論文集抄録
〈Vol.41 No.11(2005年11月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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〃 (会員外) 8,820円 (税込み)
タイトル一覧
[論 文]
[ショート・ペーパー]
[論 文]
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■ X線CT画像による3次元ボクセルデータを利用した編物構造の分析
東工大・篠原寿広,高山潤也,大山真司,小林 彬
繊維産業では織編物の構造を解析する「組織分解」という作業がある.この作業は織編物の設計において重要な役割を果たしているにも関わらず,手作業で行われているのが現状である.編物分野ではこれまでに試料の表面画像を利用したテンプレートマッチング法による組織分解の自動化に関する研究が報告されているが,テンプレートマッチング法はその構造の前知識が必要となり本質的に編物の構造を解析しているわけではない.われわれは未知の構造の編物にも対応する,試料の3次元ボクセルデータを利用した組織分解について新手法を提案する.本研究では組織図の作成や3次元的な構造解析など種々の要求に柔軟に対応するため,組織分解の上で必要な各糸同士の位置関係を復元できる情報,すなわち,各糸の心線の位置情報を得ることを目的として,3次元糸モデルと呼ばれる関数と3次元ボクセルデータとの相関を計算することで糸の中心点と方向を同時に推定する手法を用いた糸心線点列推定法を提案する.平編物の3次元ボクセルデータに提案手法を適用し,実験的に各糸の心線についての位置情報が得られることを確認した.また,表面画像を利用した従来法では解析が難しいと考えられるネット編物に提案手法を適用し,本手法の有効性の検討を行った.
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■ Wave-based Analysis and Impedance Matching for Ladder Network
Wakayama Univ.・Kenji Nagase,Hirotaka Ojima and Yoshikazu Hayakawa
本論文では,はしご形回路の波動解析ならびにインピーダンスマッチングの性質について議論した.波動制御法は繰り返し構造を有する大規模柔軟構造物に対する有効な制振法として注目されているが,波動制御法は波動解析に基づく制振法であるため理論的に明らかにされている適応可能なクラスは限られており,その拡大が望まれている.論文の結果は,著者らがマス・ばね・ダンパ系が一方向に連鎖した機械系に対して示した従来結果を一般化したものであり,波動制御法の適用範囲を拡大するものである.はじめに,一様なマス・ばね・ダンパ系の波動解析において重要な役割を果たしている伝播定数に対する3つの条件を考え,その条件を満たすためにシステムパラメータが満たすべき条件(必要十分条件)を導いた.つぎに,上記条件を満たすシステムに対して,伝播定数ならびに特性インピーダンスの解析関数としての性質を示した.また,インピーダンスマッチングを達成するための条件,ならびに,特性インピーダンスのはしご構造を示した.数値例では,マス・ばね・ダンパ系の各層に付加的なマス・ばね・ダンパが接続されているシステムに対し,波動制御法の有効性を検証した.
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■ サイクリックスペクトル解析に基づいた閉ループ系の直接同定法
北九州市立大・孫 連明,慶應大・佐野 昭
本論文では,出力オーバーサンプリングを利用した周波数領域における閉ループ系の直接同定アルゴリズムを提案する.出力オーバーサンプリングされた制御対象の入出力信号は,周期定常信号でありサイクリックスペクトル密度をもつことが知られている.そこで,サイクリックスペクトル密度やサイクリック位相の性質を詳細に解析することにより,同定対象の周波数域における性質を明らかにし,サイクリックスペクトルによる制御対象の周波数伝達関数表現を与える.また,本手法で必要となるサイクリックスペクトル密度を計算するための手法として,高速フーリエ変換に基づいた計算アルゴリズムを提案する.さらに,制御対象の入出力信号のサイクリックスペクトルから,閉ループ系の直接同定アルゴリズムを明らかにする.
提案する同定アルゴリズムでは,外部テスト信号を利用することなく,またコントローラの構造に関する従来の可同定性条件を満たさなくても,入出力のみから対象のシステム同定ができる特徴をもつ.また,周波数領域で対象のモデルパラメータを推定しており,不安定な極をもつ対象や極が単位円に近い数値的に悪条件の対象の同定であっても安定な同定結果を与えることができる.
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■ 2自由度モデルマッチング制御系のアンチワインドアップ化
近畿大・小坂 学,宇田 宏,馬場^一
本論文では,2自由度モデルマッチング制御系に対する新しいアンチワインドアップ法を提案する.離散時間2自由度モデルマッチング制御系では,規範出力を算出するために規範出力の記憶値が利用され,理想的環境下では規範出力と出力とは一致する.しかし入力飽和が起こると規範出力の記憶値と出力の過去の値との間に偏差を生じ,飽和から脱するときにその偏差が外乱として作用するため,モデルマッチング機能が乱れてしまう.そこで,規範出力を記憶する代わりに出力を記憶し,規範出力の算出に用いる.これにより入力飽和から脱するとき,規範出力の算出に利用される規範出力の記憶値が過去の出力と一致するため,モデルマッチングが機能する.さらに入力が飽和してもオーバーシュートが抑制されるように規範モデルの初期調整を行う手順を述べる.本法はオーバーシュートが問題となる温度制御系や工作機械等の制御に適している.
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■ Pickup and Delivery 問題の数理計画モデルと遺伝的アルゴリズムに基づく解法
立命館大・榊原一紀,野一色 学,渡邊真也,西川郁子,神戸大・玉置 久
現実のさまざまな搬送計画を包括する問題であるPickup and Delivery問題(PDP)を取り上げる.本論文では特に,巡回セールスマン(TSP)の拡張に位置づけられる,車の台数が1台の場合のPDPを対象として,車が訪問する地点間の先行関係に着目した整数計画モデルを構築する.そしてこのモデルに基づき,2つの遺伝的アルゴリズム(GA1およびGA2)の適用方法を提案する.GA1は,カスタマー番号の順列を遺伝子表現とし,TSPのために開発された種々の遺伝子表現をそのまま利用できるといった特徴を有する.一方GA2は,地点番号の順列を遺伝子表現とし,遺伝における形質として先行関係を保存する遺伝的操作を導入している.計算機実験を通して,比較方法と同等あるいはそれ以上の解探索性能を示すことがわかった.特にGA2は,PDP固有の特徴を有する問題や,車の容量制約の強い問題に対して優れていることが確認された.
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■ 冗長関節リーチング問題の不良設定性を自然解消する重力補償つき制御法と書字ロボットへの応用
立命館大・有本 卓,橋口宏衛
人間らしい運動を行い,器用に作業するロボットの実現を目指し,人間の腕や手に似せてロボットアームを造ると,それは冗長自由度系になる.冗長自由度系に対しては,作業空間から関節空間への逆運動学が不良設定になり,作業を実現する制御系を設計するためには,人為的な動作指標を導入し,それを最小化して不良設定性を解消せねばならないとされてきた.しかし,人間は,複雑な計算を行うことなく,自由自在に運動を生成し,器用な作業を行う.この謎はBernsteinの問題と呼ばれ,心理学や運動生理学ではさまざまな仮説が提案されてきたが,根本的な解決には至っていない.しかし最近,単純な水平面下に運動を限定した多関節リーチング問題について,逆運動学を解かなくても作業座標フィードバックによって逆運動学の不良設定性が自然に解消できることが示された.本論文では,これを拡張し,垂直平面下で回転する3つの関節(これらの関節軸はxy平面にある)とz軸まわりに回転する関節の4関節リーチング運動について,逆運動学や逆動力学を解かないで制御する自然な方法を提案し,その有効性を理論解析するとともに,シミュレーション結果を示す.また,提案の方法を書字ロボットの制御の応用し,その有効性をシミュレーションで明らかにする.
[ショート・ペーパー]
▲ ■ 先に提案の浴室内異常監視システムによる音環境の認識について
山口大・磯永 聡,田中正吾
著者らは先に,高齢化社会を迎え年々増加しつつある浴室内での事故を(入浴者のプライバシーを侵害することなく)外部より監視するシステムの1つとして音響センサを利用する方法を考え,その一環として,音響センサを用いた浴槽内水位計測法を提案した.つまり,浴槽に垂直に設けた管の内側に音響センサをセットし,管内に発生する定在波を観測し水位を測る方式を提案した.これにより,入浴者が沈黙していても入浴者の行動を特定しやすくなった.本論文では,これに加え,本来の音響センサの利点を生かし,入浴者が発生する音の特徴を認識し,入浴者の振舞いをさらに的確に把握する方式について考察したものである.具体的には,あらかじめ浴室内で起こりうる音環境をデータベース化しておき,このデータベースと浴室内の音環境を比較することにより,入浴時の音環境を認識する方法である.
▲ ■ 音響センサを用いた心拍・呼吸の無拘束モニタリング
山口大・松原 篤,宇吹貴智,田中正吾
著者らは先に,在宅等での心機能および呼吸機能の自動モニタリングを行う装置として,エアー枕に封入した音響センサを用いた心拍および呼吸の無拘束無侵襲自動計測システムを提案した.つまり,音響センサ出力の全波整流波形を通したバンドパスフィルタの出力に現れる[心拍の基本周波数および第2高調波,ならびに心拍と呼吸の基本周波数の和と差の周波数の]合計4つの周波数成分をダイナミックモデルで表わし,これにカルマンフィルタ・最尤法を用いることにより,未知パラメータとしての瞬時心拍周期および瞬時呼吸周期を連続的に同定する方式を提案した.そのため,心拍および呼吸の瞬時周期は高精度に計測されたものの,計測値は離散的なものとしてではなく,トレンドとして計測されていた.
本稿では,従来センサ(心電計や呼吸センサ)と同様,心拍および呼吸周期が離散的に求まるよう,先のシステムを改良した.つまり,心拍および呼吸のおのおのに対し,瞬時周期が前回提案の連続型計測方式による計測値に近接しつつ,瞬時周期を加算したものが実時間と整合性がとれるよう,新しい評価規範を導入し,これを最小化することにより,心拍および呼吸周期を離散的に求めるようにした.そして,実験により,今回提案システムの有効性を確認した.
▲ ■ 多項式確率システムの状態2次表現へのはめ込み,および量子ダイナミクスの低次元状態2次表現
カリフォルニア工科大・山本直樹
システムの方程式がたかだか2次の多項式のみで表現されるとき,そのシステムを状態2次表現と呼ぶ.そして,与えられた確定システムが,同じ入出力関係をもつ状態2次表現へはめ込み可能であるための必要十分条件が知られている.状態2次表現は,関数形に制限をもたない一般的な非線形システムの標準構造とみなすことができ,同定や制御系設計に有効であると考えられる.
本論文では,上記の事実の一部を伊藤型確率微分方程式で表現される確率システムへ拡張する.具体的には,多項式関数で表わされる確率システムが,つねに状態2次表現にはめ込み可能であることを示す.つぎに,このクラスに含まれる重要なシステムとして,理想的な連続測定を受ける量子系のダイナミクスを考察する.一般に,はめ込み後のシステムの次元は元のシステムに比べて爆発的に増大するが,本論文ではn次元の量子ダイナミクスが,n次元オーダーの状態2次表現へはめ込み可能であることを示す.
▲ ■ 外乱オブザーバを利用したSynRMセンサレスベクトル制御への積分フィードバック形速度推定法の適用可能性
神奈川大・新中新二,高塚康平
本論文では,外乱オブザーバを利用したSynRMのセンサレスベクトル制御への積分フィードバック形速度推定法の適用可能性を新たに検討すべく,新モデルに基づいたこの1構成法を新規提示すると共に,シミュレーションにより適用可能性を明らかにした.積分フィードバック形速度推定法は,従来の適応的速度推定法に比較しより簡単であり,総合的により簡単なセンサレスベクトル制御系の構成を可能とする.従来に継ぐ本新規改良は有用であり,SynRMのセンサレスベクトル制御の発展に寄与するものと思われる.
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■ 制御系の切換時における外乱応答の評価手法に関する検討−線形作用素表現に基づくL2ゲイン解析−
京大・蛯原義雄,萩原朋道
近年,切換を有する制御系の解析・設計に関する研究が盛んに行われている.なかでも浅井は,より合理的な制御系の切換を達成することを目的とし,外乱の加わる制御系の切換後の性能の劣化を最小限にとどめるべく,この性能の劣化を切換前後の制御系のある種のL2ゲインとして定量的に評価する手法を提案している.このL2ゲインは,線形時不変系の Hankel ノルムの一般化となっているが,浅井によって示されたその計算法の導出は,よく知られた Hankel 作用素の解析に基づく Hankel ノルムの計算法の導出と比して繁雑である.さらにいうなれば,作用素に基づいた既存の解析手法が,より一般化された浅井の問題設定において適用可能であるかという点に関して疑問を残すものともなっている.
本論文では,浅井によって示された L2 ゲインの計算法が,線形作用素に基づく議論により簡明な形で導かれることを示す.問題が一般化されたことにより,対応する作用素の形は Hankel 作用素と異なるものとはなるが,作用素の有限ランク性,コンパクト性といった本質となる性質は Hankel 作用素と同様に保持されるために上記の帰結が導かれる.
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■コンプライアンス制御可能な小型ヒューマノイドロボットを用いたジャンプ動作の実現
横国大・雑賀 優,友國伸保,黄 健,藪田哲郎
本論文では,市販のラジコンサーボを改造してモータに流れる電流を検出することによってモータのトルクを推定しコンプライアンス制御を実現した.この手法を用いてコンプライアンス制御可能な小型ヒューマノイドロボットを試作した.これによりロボットに柔らかさをもたせることが可能となった.われわれはこの小型ヒューマノイドロボットを用いてジャンプ動作を実現し解析を行った.その結果,コンプライアンス制御を用いることによってジャンプ時踵と膝にかかった衝撃を吸収することができることがわかった.
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■ガラスキャピラリを用いた極微量溶液の描線法
産総研・田中芳夫,福岡ひさ子,京都府立大・山岡禎久,産総研・石川 満
名大・馬場嘉信
DNAや細胞など生化学・生物系の対象物を取り扱うMEMSやMicro-TAS開発においては,溶液中あるいは液体を媒体として計測や操作を行うことから,必要最小限の試料を含む極微量な液体の精密操作技術や基板上への描線技術は,重要な要素技術の1つとなる.本論文では,極微量の溶液をミクロンオーダーの線幅でガラス基板上へ描線する方法として,溶液を充填したマイクロキャピラリを用いる簡易的方法について,物理モデルを検討し有効性を実験的に検証した.また,溶液内にナノ微粒子を混合することで,描線軌跡上に微粒子を配列できることを示した.
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