論文集抄録
〈Vol.41 No.4(2005年4月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
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[論 文]
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■ H∞ Design with Loose Eigenstructure Assignment −A Rank-one LMI Approach−
Nara Inst. of Tech.・A. SATOH, K. SUGIMOTO, M.SEBEK
本論文では,領域固有構造配置により過渡応答特性を考慮した状態フィードバックH∞制御の設計手法を提案する.従来ロバスト制御における過渡応答特性整形の手法としてH2/H∞混合設計のような間接的手法や,LMI (Linear Matrix Inequality) root clustering のような閉ループ極配置による手法が知られている.後者は極配置に基づき,閉ループ応答の減衰比や固有振動数の上/下限の直接的整形が可能だが,モードベクトルの配置を考慮していないため,機械系の振動制御や航空機の運動制御などに有用なモード制御には適用できない.一方モード制御に有効な手法として固有構造配置法が知られている.しかしこれは固有値(閉ループ極)および対応する固有ベクトルを厳密に配置するためフィードバックゲインが一意的に決定し,ロバスト制御などの手法と組み合わせることは困難である.そこで本論文では新たな問題設定として「緩やかな」固有構造配置,すなわち個々の固有値および固有ベクトルを,個別の複素平面上の領域および複素ベクトル空間における凸錐へ配置する問題について考える.この領域固有構造配置問題は rank-one LMI 問題に帰着され,補助変数を用いた LMI 表現を利用することで容易にH∞制御との多目的設計を考えることが可能となる.
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■ 予見フィードフォワード補償とH2制御
都科技大・児島 晃
制御系の構成において,目標値に対する予見動作は性能を改善する有力な手法であり,予見動作と達成される制御性能の関係が数多くの研究により検討されている.
本研究ではH2予見制御問題に注目し,1)制御系に (H2制御性能の意味で) 最適な予見フィードフォワード補償を導入する方法,2)予見 Full-Information (FI) 制御問題の解法,を明らかにする.そしてこれらのH2予見制御則が,設計を分離しやすい簡明な構造を有しており,通常のH2状態フィードバック制御を行った後,予見フィードフォワード補償を導入すれば,制御系全体のH2最適性が確保できることを示す.最後に数値例を用いて,H2予見フィードフォワード補償の波形が,予見を行わない通常のH2に現われる波形と密接に関係していることを紹介する.
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■ 旋回クレーンの2モード切替振れ止め制御
茨城大・近藤 良,島原 聖
一般の旋回クレーンにおいて吊荷の荷揺れを抑えるためには,ブームの旋回動作と起伏動作の両方で行う.ブームを旋回動作のみに制限すると,システムは非ホロノミック系となり,吊荷の振れ止めは難しい制御問題となる.旋回のみに制限したクレーンの振れ止め制御法として,荷揺れが最小になる最適軌道を求め,その軌道に追従させる方法,および円周方向のみの振れ止めをフィードバックで行う方法が報告されている.本論文では,2種類のフィードバック則を途中で切替えることによって,半径方向も含め任意の荷揺れを止めることができる制御則を提案する.この制御則では,旋回クレーンを2箇所のブーム位置近傍で線形化し,最初のモードで吊荷の振幅をある値に調整するフィードバック制御を用い,2番目のシステムでは円周方向だけ安定化するフィードバック制御則を用いることで,吊荷の振れ止めを行う.最後に,シミュレーションおよび実験で提案した振れ止め制御則の有効性を検証する.
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■ 有理式で表される不確かさを持つ制御系の解析・設計法
東大・江本健斗,大石泰章
本論文は,増淵・示村の不確かな制御系に対する解析・設計法に新しい視点を与え,その方法の改良と拡張を与える.特に,この方法で行われる変換の性質を明らかにし,その変換を有理関数行列の分解としてとらえなおす.そして,この分解と行列拡大を組み合わせることにより,その方法がどの程度保守的であるかを明確にするとともに,その保守性を減らす方法を提案する.さらに,その方法を一般のパラメータ依存線形行列不等式へと拡張する.
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■ デュアルオブザーバを用いたモデルマッチング問題の一考察
名工大・不破勝彦,豊田工大・成清辰生,名工大・神藤 久
本稿では,閉ループ系の極および零点を配置する意味でのモデルマッチング問題が考察される.この問題において,極配置に関してはこれまでに多数の報告がなされてきているが,零点配置に関連する研究の報告は極配置ほどその数が多くはない.たとえば,2-delay入力制御を用いれば状態フィードバックにより零点を配置できるもののサンプル点間での入力の切り替えが必要とされ,サンプリング周期によってはリップルの影響が問題となる.本稿では連続時間の多入力系に適用することを前提とした,状態フィードバックによるモデルマッチングのための制御系を提案する.その考え方は,デュアルオブザーバとの併合系を構成して見かけ上制御対象の入力数を増やした後,状態フィードバックにより零点および極の配置を行うことである.連続時間系において,デュアルオブザーバとの併合系に状態フィードバックを行うことにより零点配置を可能にしたことは興味深い視点であると考える.また,2-delay入力制御と比較して,入力の切り替えを必要とせず,リップルによる問題も生ずることなくモデルマッチングが行われることや,多入力系の場合には配置する零点の個数を調整できる自由度の存在を明らかにしたことも本研究の特徴である.
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■ VRFTを応用した多変数のプロセス制御系の調整
東芝・中本政志
本論文は,多変数制御系について簡易に制御パラメータの調整が行える方法を求めることを目的とする.このために,1組のプラントの入出力データを用いて,閉ループの応答が参照モデルの応答に近くなるように,構造の固定されたコントローラの制御パラメータを直接に求める方法であるVirtual Reference Feedback Tuning (VRFT)の方法を応用する.従来,VRFTは1入力1出力制御系について提案されている.ここではVRFTを多変数制御系の制御パラメータの調整に拡張する.
提案する調整方法をガスの流量と圧力をあつかう2入力2出力の多変数制御系に適用し,実験により検証を行い,非干渉化や参照モデルへのマッチングが実現されることを確認した.また検討課題の抽出を行った.
本論文の方法は制御対象の入出力の数が等しい多変数制御系に適用が制限される.また,データに含まれるノイズの影響を低減するフィルターの構成に制限がある.ただしこれらの制限が,応用の制約にならない制御対象は実用上多くあり,それらの制御対象の調整には効果的な方法である.
▲ ■ 2自由度最適ロバストサーボ系の性能比較
加藤久雄,名工大・不破勝彦
系の内部安定性が保たれる範囲で制御対象の微小な摂動が存在してもサーボを達成させる制御はロバストサーボと呼ばれ,近年過渡応答やロバスト性の改善を目指して多くの研究がなされている.そのなかで,対目標値応答特性をサーボ補償器なしの最適追従系として構成し,つぎに得られた最適追従系の制御誤差に対し内部モデル原理に従うサーボ補償器を付加する意味で2自由度構成をもつとされるロバストサーボ系が提案されている.本稿ではこの系に注目し,同系の特徴について考察する.そのために別の最適ロバストサーボ系を考え,両者の比較をおこなう.そして,ある状況下では後者の系の方が優れていることを示す.この事実は重要である.なぜならば前者の系の研究では別のサーボ系の可能性が考慮さえされておらず,後者の系を用いた方がよい状況下でも前者の研究がなされているからである.
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■ AGV搬送システムにおける計画時間を考慮した行動則の情報量パラメータ化による設計
東大・千葉龍介,太田 順,新井民夫
無人搬送者 (Automated Guided Vehicle;AGV) を用いた生産システムが近年普及してきている.AGV搬送システムにおいて,AGV行動則はシステムの効率化のために適切に設計されなければならない,重要な要素である.本論文では,適切なAGV行動則の設計手法の提案を行う.従来提案されているAGV行動則は,他のAGVを完全に考慮するか,まったく考慮しないかの2通りしかなく,本研究ではこの中間的な行動則の設計を可能とし,適切な行動則設計を行う.具体的にはAGV行動則をパラメータ化し,そのパラメータを適切に設計することによりAGV行動則の設計を行っている.パラメータとして計画時に用いる時間的・空間的情報量を用い,また,行動計画の時間を見積もることにより実時間での計画を可能としている.このパラメータ設計は非線形の複雑な問題になるが,適切なパラメータを設計するために遺伝的アルゴリズムを用いることによって,問題解決を可能とした.本提案手法の有効性を示すために搬送シミュレーションを行い,効率的なAGV行動則の設計が可能であることを示している.具体的には,従来提案されているリアクティブ行動則と比べ,最大24%の搬送量の増加を示した.
▲ ■ 機械刺激に対するゾウリムシの膜電位変化のモデル化
広島大・平野 旭,辻 敏夫,滝口 昇,阪大・大竹久夫
ゾウリムシは,有害な化学物質が存在する場所や強い光があたっている場所には進入しないというように,環境の刺激に対して特定の挙動を示す.これは,環境刺激に応じて膜電位と繊毛内Ca2+濃度が変化し,それにより繊毛の運動が変化するために起こる.この内部処理を再現するモデルが構築できれば,刺激に対する挙動予測が可能となり,生物学研究のための運動シミュレータや行動制御によるゾウリムシの工学的利用法の研究などに役立つと考えられる.
そこで本論文では,生物学的知見に基づいて,ゾウリムシの内部処理系のモデルを構築する.まず,Hodgkin-Huxley方程式に基づき膜電位の変化を定式化する.つぎに,きわめて微小なために実測が困難な繊毛内Ca2+濃度の算出法を提案する.この方法は,繊毛を有するモデルと細胞体のみのモデルを作成し,各モデルのCa2+電流の差から近似的に繊毛内Ca2+濃度の時間変化を算出するものである.また,Hodgkin-Huxley方程式に含まれる未知パラメータは,実生物実験から得られたイオンチャネルの開口率に関するデータをもとに決定する.そして,構築したモデルの環境刺激に対する膜電位変化を実生物データと比較し,本モデルにより実生物に近い内部処理が表現できることを示す.
▲ ■ 確率的DEMATELの提案と不安要因の構造モデリング
島根大・赤沢克洋,阪大・田村坦之
本論文では,不確実性のある構造に対するモデリング手法として,確率的DEMATELを提案した.同手法は構造の不確実性を確率的に捉えて,DEMATELを拡張したものである.また,要因間の関係の強さに関する情報と要因の重要性を統合した指標である複合重要度を不確実性のある構造に拡張した確率的複合重要度を導出した.
確率的DEMATELと確率的複合重要度に関する数値実験を行い,不確実性に関する仮説の検定結果から,これらの手法が不確実性の程度を反映しており,有効であることが明らかとなった.
さらに,大学生と未婚社会人の不安要因に関する構造モデリングを対象として実証分析を行い,これらの手法の適用によって,通常のDEMATELでは得られない有益な示唆が得られることが確かめられた.
▲ ■トポロジカルモデルと結び目不変量を用いたマニピュレーションのためのロープの形状認識
名古屋大・松野隆幸,玉置大地,新井史人,福田敏男
人間が身の回りに所有する変形の大きい定まった形をもたない不定形物体は紙,布,ロープなど数限りない.その不定形物体をロボットで自由に操る要求は大きい.しかし超多自由度を有する不定形物であるロープはヒステリシスとセンサによるパラメータ同定の難しさによって形状変形の予測が困難である.したがってロボットでの操作を考えた場合には失敗する可能性が否定できない.それゆえロボットがロープのような不定形物を操作するためにはエラーリカバリ動作が必要となる.エラーリカバリは異常検出と行動計画の再構築からなり,この指針として柔軟なロープの形状から抽象化された情報を取り出すことが必要である.そのために結び目の不変量を用いる方法が注目されている.しかしこれまでの研究ではCCDカメラの情報からロープ形状を示すグラフ構造を構築する方法が確立されていない.そこでわれわれはブラケット多項式,ジョーンズ多項式を利用してロープの形状をクラス化してマニピュレーションの成功,失敗を確認することを目的とし,そのためにロープ形状を表現するグラフ構造をCCDカメラの画像から抽出する手法を提案し,双腕マニピュレータシステムによるロープの片結び実験により有効性を確認する.
▲ ■自動車用エンジン制御システムのモデリングおよび同定
ニッキ・ウメルジャン・サウット,日立製作所・石井光教,ニッキ・安川平八
最近,自動車用エンジンにおいては,高トルクや高出力化の要請とともに,環境への対応がますます要求されている.したがって,燃費,出力,排気などのエンジンの性能を最大に発揮させるために,従来の気化器やディストリビュータなどの機械式制御機構が,電子制御システムに置き換えられており,またセンサやアクチュエータなどの急速な技術革新に支えられ,今日ではモデルベースの制御システムが主流をなしている.本論文では,電子制御スロットルサーボ系を含むエンジン全体の非線形システムに対してモデリングを行うとともに,実験データに基づく遺伝的アルゴリズム(GA)によりシステム同定を行う.なお,このような非線形システムにおいては,一般にモデルに含まれる未知のパラメータ数が多く,これらのパラメータを精度良く決定することが困難となる.そこで本研究では,まず吸気系のシステム同定を行い,つぎにそれらの同定結果をエンジン回転系に組み込み,エンジン回転系のシステム同定を行って,それらを連結したものを全システムとする方法を提案する.また,これらの手法を用いた本プロセッサに対して同定実験も行い,本提案法の有効性を確認する.
[ショート・ペーパー]
▲ ■ 歩行介助システムWalk-Mateの時間的・運動力学的な有効性評価
東工大・渥美将利,三宅美博,神奈川リハビリセンター・國見ゆみ子,野村 進,別府政敏
われわれは共創型の歩行介助システムとしてWalk-Mateを提案してきた.これは人間の歩行リズムと仮想ロボットの歩行リズムが,脚接地タイミングの交換を介して相互に引き込まれる協調歩行システムである.そして両者のリズムの位相差を制御することで,歩行運動を促進したり抑制したりすることができる.これまではWalk-Mateを歩行障害者に適用し,主として運動の時間的側面から有効性の評価を進めてきた.しかし,歩行運動には筋骨格系の力学的制御も関与していることは明らかである.そこで本研究では,時間的側面に加えて運動力学的側面も考慮した上でWalk-Mateの有効性を評価する.その結果,共創型の歩行介助システムWalk-Mateとの協調歩行によって,片麻痺歩行における健脚を患脚が代償する歩行傾向から,患脚が歩行機能を新たに獲得し非対称性を緩和する歩行傾向へ移行することが示された.近年まで,歩行リハビリテーションは健脚が患脚を代償する訓練が主体であったが,リハビリ本来の観点からすれば,Walk-Mateが実現する患脚の歩行機能を回復するという方法は妥当なものと考えられる.
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