論文集抄録
〈Vol.41 No.3(2005年3月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
[論 文]
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■ ITS-90の高精度すず凝固点装置の開発
産総研・丹波 純,佐藤公一,山澤一彰岸本勇夫,新井 優
すず凝固点(231.928℃)は,1990年国際温度目盛(ITS-90)において,157℃を越える温度標準を設定するために必要不可欠な温度定点である.これまで日本の国家標準として使用してきたすず凝固点実現装置の更新,および精度向上のため,新たに定点セルと定点炉を製作した.定点炉は,温度測定・制御系の高精度化,および炉体の断熱性を向上させることで,24時間で3mKの温度安定性,ならびに20cmで3mKの均熱性を得ることができた.
すずは凝固する過程で大きな過冷却を伴うため,温度計挿入孔をガス冷却して凝固点を実現させ,その冷却条件を最適化した.また,定点炉の設定温度による凝固点の持続時間を求め,旧型の凝固点装置が8時間であったのに比べ,45時間以上の凝固点の維持が可能であることがわかった.このため,本装置では,セル周囲の熱流が少なく,熱平衡状態に近いため,ITS-90の定義に基づいた,より不確かさの小さな定点の実現が可能となる.
以上の開発した定点装置と最適化された手順により,凝固点を繰り返して10回実現させた際の測定値の標準偏差は0.026mKとなり,非常に高い再現性が得られた.本装置が国家標準として使用する上で十分な性能をもつことが示された.
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■ 6自由度剛体宇宙機の非線形H∞制御
電通大・池田裕一,青砥健一,木田 隆,長塩知之
これまでの宇宙機の制御系設計は,課せられるミッションがおもに平衡点近傍での高精度な制御であるため,運動方程式を線形化し線形制御理論を用いて行われてきた.しかし,今後の宇宙開発では,大きな位置・姿勢変更をともなうミッションが考えられている.このような宇宙機の運動は,並進・回転運動が互いに干渉した非線形システムであるため,非線形制御系設計が必要となる.ただし,実際の宇宙機では,高性能の計算機を搭載することはできず,物理パラメータには大きな誤差が含まれる.そのため,実機へ適用するには,実装が容易な制御則で,かつ物理パラメータ誤差に対してロバストな制御手法であることが求められる.回転運動のみの制御の場合には,PD制御が上記の仕様を満たし,ゲインがある条件を満たせば準最適H∞状態フィードバック制御となることが知られているが,6自由度運動制御については,このような結果は報告されていない.そこで,本稿では,剛体宇宙機の6自由度運動制御を考え,回転運動のみの制御と同様に,PD制御則で安定化が可能であることを示す.さらに,制御則が準最適H∞状態フィードバック制御となるゲインの設計条件を与える.最後に,数値シミュレーションにより,導出した制御則の有効性を検証する.
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■ 救急車両用回転式アクティブ制御ベッドの開発―適合原理に基づく制御設計―
東北大・小野貴彦,猪岡 光
救急車による搬送中,カーブ走行時や交差点右左折時に起きる患者の体の横揺れを抑えることを目的に,患者を頭足線まわりに回転させて身体に作用する横加速度を軽減するモータ駆動方式の救急車用回転式アクティブ制御ベッドを試作した.本論文では,この回転式ベッドの制御系設計手順と横加速度の軽減効果について報告する.
制御系はサーボ系として構成し,制御器は実際の救急搬送状況下で制御仕様が保証されるように適合原理に基づき,つぎのように設計する.まず,実際の患者搬送時の走行加速度を調査し,この調査結果に基づき外生入力(目標回転角と外乱)の集合モデルを与える.続いて,この集合モデルに属するすべての外生入力に対し,モータのトルク制限のもとで,回転角偏差を1度以下に精度保証する制御器として設計する.
実験では,比較的横揺れの大きな走行状況下でも,追従精度が許容範囲以内に保たれ,身体に作用する加速度が25%程度にまで軽減できることを示す.また,ベッドの回転範囲を制限した場合での横加速度相殺率もシミュレーションにより推定する.
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■ 一般時変型非線形システムの形式的線形化計算アルゴリズムと非線形オブザーバ
熊本電波高専・小松一男,鹿児島大学・高田 等
本研究では,時間関数を陽にもつ時変型非線形システムの形式的線形化法に対し離散型直交多項式展開を基にし,計算機の使用を目的とした形式的線形化計算アルゴリズムを提案する.特殊時変型非線形システム,すなわち時間関数と状態変数が分離可能な非線形システムに関する形式的線形化の研究はすでに報告されている.しかし分離可能でないシステムに関する研究はない.
そこで本論文は一般時変型非線形システムの形式的線形化法に関する計算アルゴリズムについて考察する.本線形化法は,まずチェビシェフ多項式からなる線形化関数を導入し,この導入された線形化関数の運動方程式を求める.状態変数に関しては離散型チェビシェフ補間多項式を用いて近似し,さらに時間関数に関しては離散型ラゲール補間多項式で近似する.結果として,線形化関数に関して時変型線形なシステムが得られる.その際,選点直交性の性質から計算機により自動的に線形化でき,精度の良い簡明な計算アルゴリズムとなる.なお,逆変換は単なる要素抽出であり,きわめて容易である.本手法の応用として,時変型の非線形オブザーバを構成し,その計算アルゴリズムも示した.最後に,数値実験で本手法の有効性を確認した.
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■ A Nonlinear Output Feedback Control Method for 5DOF Active Magnetic
Bearing System
Chiba Univ.・Rong HE, Kang-Zhi LIU
本論文では,5自由度能動型磁気軸受系に対する非線形動的出力フィードバック制御法を提案している.本方法では任意に小さい電流バイアスしか使わず,かつ,閉ループ系の漸近安定性を保証できる.
基本的なアイディアは,電磁アクチュエータの出力を仮想入力とみなすとき,磁気軸受系のダイナミクス部分が線形となり出力フィードバックで安定化できるという性質を利用することである.そして制御入力電圧の非線形設計においては,出力によるフィードバック制御ができるようにあるquadratic-likeリアプノフ関数を提案した.このquadratic-likeリアプノフ関数に基づいて,バックステッピング法と平方完成法を用いて入力電圧を導出した.本方法がきわめて有望であることをシミュレーションで確認できた.
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■ 2リンク柔軟アームに対するPDS制御器の局所漸近安定性
電通大・遠藤孝浩,松野文俊
本研究では,2リンク柔軟アームの先端位置決め制御器を無限次元モデルに基づいて導出する.柔軟アームには分布的柔軟性が存在するので,シテムは分布定数系として表現される.分布定数系は,一般に有限次元モデルに基づき制御器が設計されるが,この方法では,制御器の次元増大化やスピルオーバの発生などの問題が生じる.そこで本研究では,2リンク柔軟アームの先端位置決め制御器を無限次元モデルに基づいて導出する.まず,リアプノフの方法を用いてシステムをリアプノフ安定化するPDS制御器を導出する.ここで,従来のPDS制御器,すなわち関節PD制御にアーム根元の曲げモーメントをフィードバックした制御器では,アームの弾性変位がある式を無視できるほど微小であるという仮定を要する.これに対し,提案するPDS制御器,すなわちアーム1に関してはアーム1の関節PD制御を,アーム2に関してはアーム2の関節PD制御にアーム1先端の曲げモーメントをフィードバックしたPDS制御器ではそのような仮定を必要としない.つぎに,目標角度近傍という局所を考え,無限次元システムに拡張されたラサールの不変性原理を用い,この制御器がシステムを漸近安定化することを示す.最後に,実験により提案する制御器の有効性を検証する.
▲ ■ 状態フィードバックと逆システムによる非最小位相系に対する非干渉化の体系的設計法
山形大・浅黄義昭,渡部慶二,村松鋭一,有我祐一
非干渉化システムでは,零点と極の消去が生じるため,内部安定にするには,不安定零点の取り扱いが鍵となる.本稿の目的は,不安定零点をもつ対象に対する内部安定な非干渉化の状態空間上での体系的な設計法を与えることである.
始めに,不安定零点をもつ対象の状態フィードバックによる内部安定な非干渉化を考える.そのための必要十分条件は,不安定零点が行零点になっていることである.この条件が満たされる時不安定零点を左側に対角に掃きだし,残った最小位相系を非干渉化することができる.本稿では,不安定行零点を掃きださずに,通常の状態フィードバックによる非干渉化系から,直接,内部安定に対角化できる新しい方法を提案し,証明する.
つぎに,これを利用し,これまで未解決であった不安定な非行零点がある場合の内部安定な非干渉化法を提案する.
さらに,上記の状態フィードバックによる非干渉化をもちいて,内部安定な低域通過右逆システムの体系的な構成法を提案する.従来,内部安定な低域通過逆システムに関しては,不安定零点を極で消去せずインナ行列で残す方法があるが,対角化の保証がなかった.その後,逆システムの不安定極を,1列ごとにインナで消去する方法が与えられた.本稿の方法は,これと異なり,内部安定な逆システム全体を一括して求める新しい方法である.
本稿で提案した方法によって,状態空間法による不安定零点をもつ系の内部安定な非干渉化の設計が体系化される.最後に,提案方法の有効性を数値例で示す.
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■ 定常値を持つ入出力信号を用いた状態空間モデルの同定
近畿大・小坂 学,宇田 宏,馬場^一同志社大・柴田 浩
本論文では,定常値をもつ入出力信号を用いて状態空間モデルを同定する新しい方法を提案する.本法は,筆者らが先に提案した単一入出力系の伝達関数モデルの出力誤差の0〜N重積分値が零となる同定法と,状態空間モデルが得られるHo-Kalmanの方法を組み合わせたものである.本法の特長は,ステップ応答を用いて同定を行えることと,ある場合に低域の精度がよい低次の状態空間モデルが得られることであり,同定実験時の音や振動が問題となる機械系の同定に適している.多入出力系の同定シミュレーションにより,本法の有効性を検証する.
▲ ■ 入力制約付き非線形システムに対する制御則設計
奈良先端大・喜種奈美,中村文一北大・山下 裕,奈良先端大・西谷紘一
実際のシステムにおいては,アクチュエータの性能限界や制御対象保護のため入力制約が存在する.本論文では,入力のk-ノルムが1より小さいという制約をもつ非線形システムに対して,局所制御Lyapunov関数を用いて,ある等高線の内側で漸近安定化可能領域が保証されることを示し,漸近安定化可能領域で原点を安定化する制御則を提案する.
始めに,保証される漸近安定化可能領域を求め,入力空間の閉包内で局所制御Lyapunov関数の微分を最小化する入力を明らかにする.つぎに,入力空間に相似な部分空間を考え,その空間内で局所制御Lyapunov関数の微分を最小化する入力を選ぶことによって,1以上の任意の定数kに対して適用できる制御則を設計する.この制御則は1<k<∞のとき連続になるが,k=1あるいはk=∞のとき不連続になる可能性がある.そこで,局所制御Lyapunov関数の導関数を負にできるぎりぎりの領域では入力空間に一致し,余裕のある領域では球になるように連続的に変化する入力空間を考え,その空間内で局所制御Lyapunov関数の微分を最小化する入力を選ぶことによって,k=1あるいはk=∞の場合もチャタリングをもたない制御則を設計する.最後に,提案した手法の有効性を確認するため,シミュレーションを示す.
▲ ■ 自己診断機能を持つ安全保護系の数理モデル
岡山大・凌 元錦,鈴木和彦,京大・幸田武久
マイクロプロセッサ技術の発達により自己診断機能をもつ安全保護系が普及している.このような安全保護系とプラントからなるシステムの故障には,正常トリップ,故障検出トリップ,誤トリップおよび事故発生の4つの故障モードがある.これらの故障の発生頻度は自己診断機能の故障検出率に依存する.故障検出率が高いほど,事故が発生しにくくなるが,故障検出トリップの頻度が大きくなるので,稼働率の低下や保全コストの増加を招くおそれがある.したがって,安全性と経済性とのバランスを考慮して,最適な故障検出率を決定する必要がある.
本研究では,一般的なk-out-of-n:Gの論理構成をもつ安全保護系における自己診断機能の効果を考察した.自己診断と保全方式を考慮して,システムの4つの故障発生の期待回数の一般的な計算方法を示した.特に,n=1,2の場合については,これらの故障の期待回数の解析解を求め,故障検出率の影響の様子について考察した.また,これらの故障により生じる損害の期待コストは緊急保全コストと事故損害コストの和として定式化し,この期待コストを最小にする最適な故障検出率の決定について議論し,数値例を示した.
▲ ■ 超球面上の最適化手法を利用した主成分分析
慶大・増田和明,相吉英太郎
主成分分析(PCA)の計算モデルとしてOjaモデルなどがよく知られているが,ここでは単位超球面上の回転演算の使用と,その超球面上への厳密かつ陰的な束縛により,最大および最小成分を含むすべての主成分を同時並列的に求める計算モデルが提案されている.
具体的には,まず,共分散行列の固有ベクトルとしての主成分方向をすべて大域的最小解としてもつ目的関数を用い,全主成分方向を対等に扱う正規直交制約付最適化問題としてPCAを定式化し,つぎにこの正規直交制約の厳密な充足のために,Euclid空間の正規直交基底の回転演算を変数変換写像として導入している.これによって,上記の最適化問題は回転角度を決定変数とする無制約最適化問題に等価変換される.この場合,全主成分方向を決定変数とする問題に比べ,回転角度を決定変数とする本問題の方が,その決定変数の個数を大幅に削減することができて効率的である.さらに,回転行列の可換性などを考慮して計算した回転角度に関する勾配を用いた勾配系モデルをこの変換問題に適用して,すべての主成分方向を同時に求める並列的計算モデルを得ている.なお,これら定式化の妥当性や計算手法の有効性は,例題に対する数値計算によって検証されている.
▲ ■ ビンパッキング問題に対する遺伝アルゴリズムの提案
京工大・八川徹也,飯間 等,三宮信夫
ビンパッキング問題は,ビンという入れ物へアイテムをどのように割り当てるかを求める代表的な組合せ最適化問題の1つである.本論文では,多くの問題データに対して短時間で最適解を得ることを目的として,ビンパッキング問題に適する新たな遺伝アルゴリズムを提案する.特に,今までのメタヒューリスティック法の解の生成法にはない,両親のビン内のアイテムの組合せを重視した交叉則や効果的なヒューリスティック法を組み入れた突然変異則が用いられる.
この遺伝アルゴリズムを他のメタヒューリスティック解法と比較した結果,提案した遺伝アルゴリズムが最も多くの最適解を得ており,その有効性が確認された.また,最も少量に入っているビンと最も多量に入っているビンとの残り容量差を用いて,交叉によって作成される子と突然変異によって作成される子を調べた結果,交叉と突然変異によって生成される子には多様性があることがわかった.このことがビンパッキング問題に対して良い結果をもたらしたと考えられる.
▲ ■ 確率ニューラルネットを木構造に導入した階層型クラスタリング
広島大・岡本 勝,卜 楠,辻 敏夫
本論文では,分類されるクラスの教師信号とクラス数が未知のデータのクラスタリングをクラス数の推定と同時に行う手法を提案する.まず,構造として木構造を導入し,各非終端ノードでのデータの分類にLog-linearized
Gaussian Mixture Model(LLGMN)を利用した分類手法を提案する.つぎに,各LLGMNの教師なし学習と分類クラス数を同時に推定するアルゴリズムの構築を行う.そして,提案する手法を数値シミュレーションを通じて従来手法と比較するとともに,生体信号のひとつである筋電位信号の分類をすることで本手法の有効性についても検証する.
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