論文集抄録
〈Vol.41 No2(2005年2月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
[ショート・ペーパー]
[論 文]
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■ 信号伝播モデルを用いた電磁波レーダによる鉄筋コンクリート構造物の非破壊検査
山口大・田中正吾,須賀大輔
近年,橋脚や橋梁など多くの鉄筋コンクリート構造物に対し,老朽化によりコンクリート剥離などの事故がしばしば見受けられる.これらに対する診断法としては,電磁波レーダ法がよく知られているが,これまでの電磁波レーダ法では,受信波の時空間的な強度に関わる濃淡画像(Bモード画像)を目視でみることにより非破壊検査を行っていたため,専門家といえども,良好な検査がなされていなかった.
本論文では,電磁波レーダを鉄筋の真上のコンクリート表面を走査させたときに得られる一連の受信信号に信号伝播モデルを適用することにより,鉄筋の錆やクラック等の異常が検知できる高速・高信頼度な鉄筋コンクリート異常診断手法を提案する.そのため本論文では,従来のように受信信号の濃淡画像(Bモード画像)を出力するレーダではなく,受信信号をそのまま生の時系列信号として出力できるよう改造している.
具体的には,受信信号が信号伝播モデルにより表現できれば,鉄筋コンクリート構造物は,そのポイントでは正常,そうでなければ異常と判定する方法を開発・提案している.なお,その際,受信信号そのものを表現できるか否かではなく,非破壊検査のロバスト性を高めるため,受信信号の山と谷(つまり,極大値と極小値)のパターン(ピークパターンと呼称)を表現できるか否かで,正常と異常の判断をするよう工夫している.本手法では,正常,異常の判断だけでなく,鉄筋の深さ(いわゆる“かぶり”)の計測も行える.
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■ Direct Displacement Feedbackによる非線形機械システムの制御
電通大・池田裕一,木田 隆,長塩知之
近年,非線形機械システムの制御において,システムの物理的特徴を用いた制御に関する研究が行われている.この手法により得られる制御則はPD型となるが,速度情報を観測することは難しい場合が多い.実際システムへの適用を考えれば,位置情報のみを用いた制御器の設計が必要となる.これまでに,さまざまな手法が提案されているが,制御器設計やパラメータの調整が容易ではない.一方,線形機械システムの場合,出力フィードバック制御の1つとしてDDFB制御が知られている.これは,システムの構造を利用しコロケーションのもとで,対称な制御器を施す手法であり,制御器が決められた構造を満たしていれば閉ループ系の安定性が保証される利点がある.このDDFB制御が非線形機械システムにも適用できれば,線形機械システムと同様に,制御器のゲインを適切に選ぶだけで閉ループ系を安定化できるので,制御系設計がより容易になると考えられる.本稿では,DDFB制御器による非線形機械システムの制御を考える.特に,劣駆動システムの場合,DDFB制御器はEL制御器のクラスの1つであることと,ある種の速度オブザーバであることを示す.最後に数値シミュレーションを行い,非線形機械システムが安定化可能であることを確認する.
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■ 有界外乱のもとでの不確かなシステムのミニマックス推定
神戸大・北村 亘,藤崎泰正
未知な大きさをもつ有界外乱のもとで,不確かなシステムのミニマックス推定を考察している.ここでは,システムパラメータだけでなく,有界外乱と有界なパラメータの不確かさの大きさをも同定する方法を提案している.システムパラメータに関しては,出力誤差の最大値を最小化して同定している.また,外乱とパラメータの不確かさの大きさの上界は,大きさのほぼ等しい回帰ベクトルをそれぞれ集めた2組の入出力データを用い,求まるシステムパラメータの推定値により決まる2種類の出力誤差から算出している.このミニマックス推定法の性能を評価するために,回帰ベクトルが持続的励振条件を満たすと仮定し,推定誤差の上界を導出している.さらに,回帰ベクトルが周期的で持続的励振条件を満たし,入出力データのそれぞれの組では回帰ベクトルの大きさが一定で,外乱とパラメータ不確かさが最悪値近傍をとる確率が0でないと仮定し,推定誤差の上界を信頼度付きで求めている.そして,これらの条件のもとでは,サンプル数を増やせば推定誤差が0に収束することを示している.
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■ 確率的時変システムの安定化可能性と安定化法
東大・笠井大幹,大石泰章
システムのダイナミクスが,あるマルコフ連鎖に従って確率的に変動する1次元の線形システムの安定化可能性と安定化法について考察した.この安定化可能性の必要十分条件についてはすでに知られているが,その判定は非凸関数の最小化を行う必要があり一般には難しい.そこで本論文では,システムの条件付分散に基づいた判定しやすい安定化可能性の十分条件を提示した.また,その条件が満たされるときには,従来の制御側よりも簡単な制御則で安定化が可能であることを構成的に示した.以上の結果は,このような確率的な時変システムの安定化可能性と安定化に関するより深い理解のために有用だと考えられる.
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■ 多粒子系の動力学解析手法を応用した群ロボットの自律分散的形態制御
名古屋大・清水正宏,東北大・川勝年洋名古屋大・石黒章夫
群ロボットが本質的に有する優れた特徴を引き出すためには,群を構成する各モジュールの制御は自律分散的になされるべきであり,さらに発現する群全体の形態はモジュール間ならびにモジュール群とそれを取り巻く環境との相互作用の中から創発することが望ましい.そこで本研究では,局所的に入手可能なセンサ情報のみを用いて,形態を合目的的ならびに実時間で変更可能な,群ロボットの自律分散的制御方策の構築を目的とする.この要請を満たすため,本研究では,多体系の挙動を解析するために用いられる分子動力学法,ならびに粘性流体中の粒子の運動を表わすストークシアンダイナミクスに着目する.そして,これらが有する物理的効果を群ロボットのモジュール間相互作用ダイナミクスに埋め込むことによって,自律分散的な制御方策を構成する.各モジュールは,センサ情報に基づいてモジュール間に規定される仮想ポテンシャル関数,および仮想的な流体力学的相互作用から力学的に決定されるダイナミクス制御により,自律分散的な振舞いを創発する.提案手法により制御される群ロボットを障害物回避問題に適用し得られたシミュレーション結果は,提案する制御アルゴリズムが状況に応じてリアルタイムで環境適応的に群形態を創発する様子を示した.
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■ 変位出力を用いた厳密にプロパーなコントローラによる大型宇宙構造物の近似DVDFB制御
神戸市立高専・小林洋二,神戸大・藤崎泰正大阪大・池田雅夫
本論文では,センサ/アクチュエータ・コロケーションされた大型宇宙構造物の位置と姿勢を制御するシステムにおいて,宇宙構造物の剛体モードが可制御かつ可観測であることを前提に,変位の出力フィードバックを用いた厳密にプロパーなコントローラによって,近似的にDirect
Velocity and Displacement Feedback(DVDFB)を実現して安定化制御する方法を示している.そのために,まず,DVDFBを分母が0次,分子が1次の伝達関数とみなし,これと組み合わせて厳密にプロパーなコントローラを作るために,分母が2次,分子が0次のフィルタを制御対象の入力端につなぐ.つぎに,このフィルタの状態と,制御対象の変位出力およびその微分をフィードバックした形で閉ループシステムを構成する.このとき,フィルタとフィードバックによって変位出力から操作入力へ分母が2次,分子が1次の厳密にプロパーなコントローラが実現されることを示す.そして,閉ループシステムが安定かつある周波数依存型の2次形式評価関数に対して最適レギュレータになるために,コントローラのパラメータが満たすべき条件を明らかにし,さらにフィルタの係数をどのように選んでも,その条件を満たすパラメータが必ず存在することを述べている.
▲ ■ 非線形性をもつセンサを用いたシステム同定
宇都宮大・岡田康志,足立修一
本論文では,飽和,不感帯などの静的非線形性を有するセンサによって,対象の入出力データを測定した場合に対する新しいシステム同定法を提案する.非線形センサにより入出力データを測定する場合,測定値に非線形誤差を含むことになるので,システム同定のための評価関数の中に,予測誤差の二乗和だけでなく,この非線形誤差に関する項も組み込むことによって,係数パラメータだけでなく,非線形誤差も同時に推定する方法を提案する.これは,制約つき最適化問題として定式化でき,そして,準ニュートン法を用いることによって解くことができる.最後に,数値シミュレーション例を用いて,提案した同定法の有効性を検証する.
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■制御構造制約のあるH∞制御問題に対するPID制御器設計
広島大・佐伯正美
構造に制約のある多変数PID制御器の設計法を提案した.本方法は標準H∞制御問題の制約を満たしシステムを内部安定にするPID制御器を求める数値最適化法である.まず,標準H∞制御問題の解のパラメトリゼーションを用いて,線形制御器が満たす周波数制約条件を導出した.その制約条件はBMI(Bilinear
Matrix Inequality)であるので,その十分条件であるLMI(Linear Matrix Inequality)条件を求める方法を与えた.提案法に従えば,安定化解から出発しLMI問題を繰り返し解くことで,H∞制御の評価関数値は単調に減少し,PIDゲインはある安定化解に収束する.制御器の係数に線形制約を付加できるので,分散制御系の設計などにも適用できる.H∞制御理論やμ設計法で解が存在するときに,その評価基準を満たす構造制約のあるPID制御器を見つけるのに使える.数値例により有効性を示した.
▲ ■ 移動ロボットの遠隔操作における手動操作と自律動作の融合制御手法のシミュレーションによる検討
静岡大・松丸隆文,萩原 潔,伊藤友孝
本論文は,移動ロボットの遠隔操作における操作性や安全性の向上をねらって,手動操作と自律動作の融合制御において,単純なレンジ・センサからの少ないデータを処理して,手動操作を補助するように作用する自律動作を,コンピュータ・シミュレーションを用いて検討・評価した.具体的に3つの自律動作(旋回動作,倣い動作,減速動作)とその実装方法を提案し,それぞれの特徴を明らかにした.旋回動作では,障害物から離れる方向になるまで,空いている方向に旋回する.倣い動作では,向きを保ちながら障害物の形状に倣うように平行移動する.減速動作では,障害物までの距離とロボットの並進速度に応じて,その並進速度を制限する.旋回動作や倣い動作を付加すると走破時間や走行距離を短縮でき,減速動作を付加すると障害物とのニアミスをほぼ回避できる.さらに操作性の向上をねらって,ロボットの並進速度に応じて自律動作の適用距離を変化させる手法を考案し,自律動作の過度な付加を避けて操作性を向上できることを検証した.また安全性の向上をねらった初歩的な検討として,減速動作を基本としてそれに旋回動作や倣い動作を複合化する手法を考案し,走破時間は長くなるが障害物とのニアミス回数を半減して安全性を向上できることを検証した.
▲ ■ 機能的MRI環境下で利用可能な筋電制御型バーチャル義手操作システム
広島大・田中良幸,三洋電機・野田 聡広島大・辻 敏夫身体障害者リハビリセンター・丸石正治,村中博幸
従来から電動義手に関する研究は数多くされているが,その多くは装置の高機能化や軽量化に焦点があてられ,切断者に対する義手操作訓練に関する研究は積極的に行われていなかった.そこで本論文では,脳機能レベルからの新たな義手操作トレーニング手法の開発を目的として,fMRI環境下で動作可能なEMG制御型バーチャル義手操作システムを構築した.そのために,まずfMRI環境下で利用可能なEMG信号計測システムを新たに開発するとともに,fMRI計測における磁場変動で誘発された非常に強いノイズ信号をEMG信号から除去する手法を提案する.つぎに,バーチャル義手操作システムについて説明した後,被験者による動作識別の実験結果について述べる.そして最後に,バーチャル義手を利用した2種類の課題タスクを設定し,義手操作に関連する脳内活動部位を明らかにする.
[ショート・ペーパー]
▲ ■ 加速度センサを用いたコリオリ流量計の高感度化
産総研・土井原良次,寺尾吉哉,高本正樹
本小論では加速度センサを用いて振動振幅比を計測することにより質量流量を算出するコリオリ流量計の計測方法を提案している.これを用いれば固有振動数を高くすることで感度が向上する可能性がある.この特性を確認するために固有振動数を任意に設定することができる試作機が作製された.一定流量のもとで振動数を変化させて実験を行い,理論的に予想される感度特性があることを確認した.また,この計測法に基づく試作流量計を作製して参照流量計との流量特性の比較実験が行われ,流量計としての機能があることが確認された.
▲ ■ 特性変動分を考慮に入れたPIDコントローラの調整
小山高専・古瀧雅和,山崎敬則山武・松葉匡彦,神村一幸クロテック・黒須 茂
空調システムのように厳密なモデルをつくることが難しい制御系では,プラントを1次おくれ+むだ時間系で近似し,PIDコントローラを用いて不安定にならないように調整される.そのため,低い制御性能で安定性とのトレードオフを強いられることが多い.空調システムでは外乱(外気温や熱的負荷)によって常にプラントの動作点が変動している.そのような状況下で完全に対応できるような,調整法は今のところ存在しないし,最近においても研究が積み重ねられている.
本論文ではプラントを1次おくれ+むだ時間系とし,その特性値(定常ゲイン,時定数,むだ時間)の変動を考慮して,ロバスト安定性を保証し,かつ外乱抑制についてできるだけ良好な制御性能を達成するような,PIDパラメータを操作量の微分値を拘束条件とした最適化手法によって探索している.さらに,従来の調整法として部分的モデルマッチング法を用いて目標値追従ならびに外乱抑制特性を比較検討する.
その結果,本方法で設計すると,プラントの特性値の変動分を考慮に入れたPIDパラメータが得られ,ノミナルモデルに対しては部分的モデルマッチング法より目標値追従,外乱抑制ともに劣化するが,特性変動に対する安定性は維持される.
▲ ■ 2自由度1型サーボ系における感度と相補感度
加藤久雄,名工大・不破勝彦
制御対象が公称値の場合L2最適サーボ系となり,そうでない場合内部モデルの効果が現れるという意味で2つの自由度をもつ2自由度最適サーボ系が提案されている.このサーボ系は,目標値がステップ状ならば内部モデルのゲインGからみたシステムは本質的に積分器でしかないといった特徴を有する.従来の報告ではGをハイゲインにすることの有効性が主張されている.また,αGとしてパラメータαを与えることにより外乱抑制を考慮する方法も議論されている.さらに,単なるハイゲイン化では系のロバスト性に悪影響をもたらしうるとの観点から,トレードオフを考慮したGの設計法やαによる相補感度関数を整形する方法も議論されている.しかし,感度(相補感度)関数の設計法が明確化されているとはいいがたい.そこで,本論文では感度関数と相補感度関数のトレードオフを考慮しながらGを設計する方法を提案する.内部安定化する制御器により達成されうる感度(相補感度)関数のクラスを理論的に明確にし,そのあとで数値例によってトレードオフを考慮した効果を検証する.Gの設計目的は感度関数と相補感度関数のトレードオフを図ることであり,従来法のような制御目的の混在はないことが本論文の特徴である.
▲ ■ アドホックネットワークと自律的パス修復を用いた被災者発見システムによる広域探索
大阪市立大・杉山久佳,辻岡哲夫,村田 正
被災者発見システムを用いた広域探索法を提案する.被災者発見システムは,群ロボットがアドホックネットワークを形成し,オペレータが待機するMS(monitor
station)との通信パスを自律的に維持しながら災害現場内を探索するシステムである.各ロボットは自己のFT(forwarding
table)にしたがい,領域探索を行うHR(head robot)か中継局として行動するRR(relay
robot)に役割分担する.RRはFTに記録されたHRのうち特定の1台をMHR(master
HR)と定め,MHRとMSとの間の通信パスを維持する.シミュレーションによって本方式の有効性を確認した.
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