論文集抄録
〈Vol.40 No.10(2004年10月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)
〃 (会員外) 8,820円 (税込み)
タイトル一覧
[論 文]
[ショート・ペーパー]
[論 文]
▲
■ ヘテロコア光ファイバ変位センサの試作と精度評価
創価大・佐々木博幸,久保田 譲,渡辺一弘
環境モニタリングのための新しい変位センサとしてヘテロコア型光ファイバセンサを使った簡便な構造の変位センサモジュールを試作し,ヘテロコア部挿入長の感度特性への影響,精度,再現性,ヒステリシス評価を行った.試作したセンサモジュールは簡便な変位曲率変換機構を有し,0〜5mmという比較的大きな変位量を0〜数dBの接続損失として検知することができる.実験では最大変位量5mmに対して0.1%以下の精度が実現されており,十分な再現性であることが示された.このセンサを光ファイバ1ライン上にタンデムに接続した実験も行い,OTDR計測では前段センサの挿入損失,変位損失によるS/Nの減少によって,本センサモジュールの計測精度がどの程度低下するかを検証した.さらに,実用的な観点からOTDRを使ったタンデム接続環境下における平均化回数,パルス幅,カーソル測定点間隔の計測パラメータが後段センサの計測精度に与える影響についても検討し,タンデム接続に適する条件を明らかにした.
▲
■ ヒルベルト変換と新たな外挿法を利用した遅延時間推定法
拓殖大・土屋陽介,幹 康
ヒルベルト変換を利用して信号の遅延時間を推定する新しい手法を提案する.遅延時間をむだ時間プラス最小位相系として表わしたとき,最小位相系の周波数特性の対数振幅と位相との間に成立するヒルベルト変換対の関係を利用するものである.帯域制限された観測データから離散因果性を満足するシステムを構成するために,周波数特性の外挿を行っている.さらに,周波数特性を安定させるために外挿アルゴリズムの改善を行うとともに,周波数特性の上下両方向に対する双方向外挿法を提案する.
▲
■ 植物の空気汚染物浄化能力評価法の提案と検証
北陸先端大・沢田史子,吉田武稔金沢星陵大・黒田浩之,大薮多可志
植物は空気汚染物を浄化する能力を有している.本研究では,ポトスとスパティフィラムの浄化能力について調べた.被験植物鉢を実験用チャンバーに配置し,酸化スズ系ガスセンサを用いて浄化過程のモニタリングを行った.チャンバーに汚染物を注入すると,濃度に応じてガスセンサ出力がピークに達した後,植物による汚染物の浄化によりセンサ出力は減少する.この植物の浄化システムの応答は一次遅れ系であると考え,測定データから時定数を求め浄化特性の理論値を導出した結果,測定値とほぼ一致した結果が得られた.このため,植物の浄化能力評価に時定数を用いることを提案し,初期ホルムアルデヒド濃度5ppm,6.5ppm,8ppmでの容器を用いた実験を行い浄化能力評価を行った.実験を行った濃度範囲において,浄化能力はほぼ一定であることが判明した.また,ポトスの能力がスパティフィラムの1.5程度高いことが明らかとなった.さらに植物の大きさと浄化能力の関係を調べた.大きさが異なる3つのポトス鉢のホルムアルデヒドに対する浄化特性を測定した.大きさの指標としては,葉面積を用いた.葉面積が大きくなるほど,浄化能力が高い結果が得られた.また,その増加率は指数関数的に減少することが明らかとなった.
▲
■ X線CT画像を利用した織物構造の分析
東工大・篠原寿広,高山潤也,大山真司,小林 彬
繊維産業では織物の織られ方を解析する「組織分解」という作業がある.この作業は織物設計作業において重要な役割を果たしているにも関わらず手作業で行われているのが現状で,近年組織構造の複雑化に伴いその自動化が切望されている.これまでに組織分解の自動化に関する研究はいくつか報告されているが,それらの研究はすべて試料の表面画像を利用しているため,対象となる試料は一層の組織構造の織物に限られていた.われわれは複数の層を有する多重織物にも対応する試料の断面画像を利用した組織分解について新手法を提案する.本研究では3次元的な組織構造解析など種々の要求に柔軟に対応するため,組織分解の上で必要な各糸同士の位置関係を復元できる情報を得ることを目的とする.その情報として,糸の位置を代表し誤差に対してロバストであると考えられる糸の心線についての位置情報を採用し,各断面画像に現れた糸断面の中心点,すなわち心線の離散点を糸断面モデルと呼ばれる関数と断面画像との相関をとることで推定する糸心線点列推定法を提案する.X線CTにより得られた多重織物の断面画像に対し本手法を適用し,従来不可能であった多重織物についても問題なく各糸の心線についての位置情報が得られることを確認した.
▲
■ 高速応答性を有する気体用層流型流量計の特性解析
東工大・舩木達也,川嶋健嗣,香川利春
近年,半導体製造装置や燃料電池の流量管理,エンジンや人工呼吸器の流量制御などにおいて,定常のみならず,非定常流量計測が非常に重要となっている.しかしながら,気体の密度は温度と圧力の関数となることから,非定常流量計測はきわめて困難であり,気体用流量計の動特性を試験する方法は確立されておらずISO等での規定もなされていない.本論文では,高速応答性を有する層流型流量計の設計・製作を行い,その動特性評価を理論および著者らが提案している等温化圧力容器を用いた非定常流量発生装置による振動流測定実験の両面から明らかにした.まず,静特性で高い線形性が補償できたことを確認した.つぎに,動特性試験結果から,本層流型流量計は50[Hz]までの振動流を十分測定可能であることを確認した.また,ナビエ・ストークス方程式を用いた解析とウォーマスリィー数による検討から,周波数の上昇に伴ってゲインが大きくなり,位相進みとなることを確認した.さらに,動特性実験結果はこの理論解析結果とほぼ一致することも確認し,実用上有用かつ高速応答可能な層流型流量計を提案した.
▲
■ 高次相対次数を有する非線形時変システムに対するハイゲイン適応出力フィードバック制御
熊本大・水本郁朗,道野隆二,田尾祐一,公文 誠,岩井善太
非線形システムは出力フィードバックにより閉ループ系が指数受動化可能であるとき,OFEP(Output Feedback Exponentially Passive)であると呼ばれる.OFEPな非線形システムに対しては,ハイゲイン出力フィードバックを基にした比較的構造が簡単でロバストな適応制御系が構成できる.しかし,このOFEP特性は,実システムにおいて厳しい制約条件となっており,OFEP条件の緩和が実用化への課題であった.この問題を解決する手法のひとつにPFC(並列フィードフォワード補償器)を用いる手法があるが,PFCからのバイアス効果により,制御性能が劣化する問題があった.
本報告では,高次相対次数を有する三角構造でノンパラメトリックな不確かさをもつ非OFEP非線形時変システムに対して,ハイゲイン出力フィードバックを基にしたロバスト適応制御系の構成法を提案する.三角構造を有する不確かな非線形システムに対するロバスト適応手法は,現在までいくつか提案されているが,その多くは,制御器設計に状態変数が必要であった.提案手法では,仮想フィルターを導入することでOFEP化された仮想システムに対し,出力フィードバックに基づくロバスト適応制御系を構成することでオブザーバを用いないバックステッピングによる適応制御器設計ができる.
▲ ■ あるクラスのflat systemに対する滑らかでない実行可能軌道生成―劣駆動軸対称宇宙機モデルへの適用―
宮崎大・日高康展,横道政裕,河野通夫
劣駆動軸対称宇宙機の姿勢制御問題に対するアプローチの1つにdifferential flatnessの概念を用いた実行可能軌道生成法がある.これは時間区間および状態空間上の始点,終点を与え,その条件を満足するflat outputsの軌道を求め,それに対応する状態,入力軌道を導出しpoint-to-pointの状態トラッキング制御を達成するものである.従来はflat outputs軌道に低次の多項式を用いて軌道を一意に決定する手法が提案されているが,特異点回避等の制約条件が原因で生成される軌道は冗長性を有し,制御性能の観点から良好な軌道とはいえない.
本論文ではあらかじめ軌道の切り替え時刻を設定し,flat outputs軌道を区分的に滑らかな時間関数に拡張することで実行可能軌道の生成に自由度を与え,最適化法を用いて軌道を生成することによって制御性能の改善をはかる.各小区間ごとのflat outputsの軌道には低次の多項式を用いて区間ごとに実行可能軌道を生成し,自由パラメータとなる各切替え時刻での状態量をチューニングパラメータとしてシステムの制御性能を表わす評価関数を定義し,最適化問題を解く.最適化アルゴリズムには進化戦略を用いた.提案した手法に対し数値シミュレーションを行い,その有効性を示す.
▲
■ 受動速度場制御を用いた劣駆動マニピュレータの制御
豊田工大・佐橋淳一郎,成清辰生
本研究では,1つの非駆動関節,2つの駆動関節を有する平面機構3リンク劣駆動マニピュレータに対するフィードバック制御系の設計法を提案する.提案する制御手法はdecoupling vector fieldを用いた受動速度場制御系により構成されている.まず,受動速度場制御を設計するために必要な理想速度場として,decoupling vector fieldを用いる.受動速度場制御入力は,劣駆動マニピュレータを全駆動マニピュレータとみなして設計し,劣駆動マニピュレータの制御入力へ変換できることを示す.decoupling vector fieldによって与えられる理想速度場を切り替えることで,任意の位置姿勢から原点へ移動させることのできる制御戦略を提案する.最後に,提案する制御戦略を,2つのタイプの3リンク劣駆動マニピュレータに適用し,その有効性をシミュレーションによって示す.
▲ ■ 時間軸状態制御系に基づくchained systemのハイブリッド制御―共通Lyapunov関数による安定性保証―
東工大・星 義克,三平満司,中浦茂樹
非ホロノミックシステムに対する制御方策の1つとして時間軸状態制御形に基づく方法が提案されているが,この手法では状態を安定化するために,適当なタイミングで入力の切替えを行う必要がある.このため,システムの安定性を保証するためには入力切替えにともなう離散事象まで考慮する必要がある.非ホロノミックシステムに対する他の制御手法の多くが漸近安定性や指数安定性を保証しているのに対して,時間軸状態制御形に基づく制御方策においては,厳密な意味での安定性の保証がなされていない点が問題点のひとつとなっている.
本論文では,chained systemを制御対象として時間軸状態制御形に基づくハイブリッドコントローラを適用し,入力切替えにともなう離散事象も考慮したうえで,その安定化条件を示す.この条件は,入力切替えに伴う2つのモードに共通なLyapunov関数に基づいたLMIの可解条件で与えられるため,安定性を保証するコントローラの設計を容易に行うことができる.
▲ ■ 閉ループ系におけるウェーブレットを用いた安定な系のむだ時間測定
東大・田原鉄也,新 誠一
本論文はこれまで著者らが提案してきたむだ時間測定手法が,開ループ系だけでなく,閉ループ系にも適用可能であることを明らかにする.本手法は線形時不変系のむだ時間を,測定対象の入出力の相互相関関数のウェーブレット変換の等位相線プロットより,グラフィカルな手法で測定する.実システムには閉ループでしか稼働できないものが数多く存在することを考えると,閉ループ系にも適用できる必要があるが,これまでは理論的な根拠に欠けていた.本論文では測定対象が安定な閉ループ系に対し,入出力の相互相関関数とクロススペクトル密度を求め,それを基に相互相関のウェーブレット変換の等位相線を一定条件下で解析した.この解析では,われわれが以前示した相関関数のウェーブレット変換とスペクトル密度との関係が用いられている.解析の結果,等位相線の式や形状が複雑になる場合があるにもかかわらず,むだ時間が測定可能であることが示された.なお,手法は従来開ループ系に対して提案したものと同一なので,測定対象が閉ループ系の一部かどうか不明でも同一手法で測定可能である.
▲ ■ 連続時間・線形周期係数システムの高周波化フィードバック制御
名大・穂高一条,軸屋一郎
本論文では,連続時間・線形周期係数システムを制御対象とする,安定化連続時間・周期係数状態フィードバック則を提案する.制御対象は,ある形の周期係数システムに限定する.その一方で,本論文で提案する制御則はつぎのような特徴をもつ.第1に,閉ループシステムの初期値応答を,設計者が指定した定数係数システムの初期値応答に漸近させることができるということである.したがって,与えられた制御仕様を満たす制御則は,定数係数システムの応答を参照しながら構成することができるので,設計の見通しを立てることが容易である.第2に,制御則を得るために必要となる計算は,連続時間定数係数システムの定数ゲイン状態フィードバックによる安定化問題を解くことと,周期関数のシンボリックな計算のみであるということである.よって,安定化状態フィードバック則に含まれる自由度が陽に表われ,直接的なパラメータ調整が可能である.このように,本論文で提案する制御則は,従来の方法と比較して,制御対象は限られるものの,設計の見通しの良さ,計算の容易さにおいて優れていると考えられる.最後に,本論文で扱うことのできる制御対象の例として,磁気トルカによる衛星の姿勢制御問題を示し,シミュレーション結果によって本手法を検証する.
▲ ■ 機能性流体を用いた柔軟関節マニピュレータの開発―人間との接触力の緩和と振動の抑制に関する検討―
中央大・中村太郎,秋田県立大・嵯峨宣彦信州大・中沢 賢,河村 隆
人間との協調活動が必要とされるロボットシステムの研究が盛んに行われている.これらのロボットは,人間と同じフィールドに存在するため,接触や衝突といった,人間とロボットとの間の頻繁な干渉を想定しなければならない.しかしながら現在のロボットの大半はアクチュエータにギヤ比の高い減速器を有しているため,人間との接触に対して十分な安全性が確保されていない.
そこで本研究では,人間に対して安全な接触を実現するためにER流体を用いた柔軟関節マニピュレータを開発した.さらに,人間との安全な接触と関節の柔軟性に起因する振動の低減の双方を実現するため,人間の痛覚耐性値に基づいたマニピュレータ関節部のトルク制御法を提案した.
数学モデルに基づいたシミュレーションと実験の結果,本マニピュレータと適用された制御手法は,人間との接触力を緩和し,かつ関節の柔軟性によって引き起こされるアームの振動も抑制した.
[ショート・ペーパー]
▲ ■ Relations between Common Quadratic Lyapunov Functions and Common Infinity-Norm
Lyapunov Functions
Kyoyo Inst. Of Tech.・T.V. Nguyen,Tekehiko MORI, Yasuaki KUROE
This paper studies the problem of the relations between existence conditions
of common quadratic and those of common infinity-norm Lyapunov functions
for sets of continuous-time linear time-invariant systems. Based on the
equivalence between the robust stability of a class of time-varying systems
and the existence of a common infinity-norm Lyapunov function for the corresponding
set of linear time-invariant systems, the relations are determined. It
turns out that although the relation is an equivalent one for a single
stable system, the existence condition of common infinity-norm type is
implied by that of common quadratic type for a set of systems. Several
existence conditions of a common infinity-norm Lyapunov are also presented
for the purpose of easy checking.
|