論文集抄録
〈Vol.40 No.7(2004年7月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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〃 (会員外) 8,820円 (税込み)
タイトル一覧
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[論 文]
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■ An LMI Approach to Multirate Sampled-Data H∞ Control Synthesis
Kyoto Univ.・Hisaya FUJIOKA
本稿では,マルチレートサンプル値H∞設計問題の解法を提案する.この問題は,補償器のD行列の構造に制約のある離散時間H∞設計問題に帰着されることが知られている.この問題に対する解法はいくつか提案されているが,補償器の構造制約を回避するために設計手順は複雑であった.そこで本稿では,H∞設計問題に対するLMIの解を用いた補償器のパラメトリゼーションに着目し,簡潔な設計法を提案する.結果として可解条件は,補償器の構造に制約のないH∞設計問題に対するLMIに,構造制約に対応するLMIを付加したLMIで与えられる.また本稿とは独立の手法でLMIを用いた解法を与えているLall&Dullerudの結果とLMI変数の数を比較する.
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■ 量子制御ダイナミクスの平衡点解析
東大・山本直樹,津村幸治,原 辰次
近年,量子系の制御ダイナミクスモデルが提案され,その有効性が示されている.量子制御ダイナミクスの1つの特徴は,その平衡点がシステムの制御法および測定法に依存することであり,現在いくつかの具体的なシステムに対して平衡点解析が行われている.しかし制御系設計理論を構築するためには,平衡点に関する一般的な性質を知る必要がある.そこで本論文では,量子制御ダイナミクスの平衡点を,とくに平衡点が制御,測定にいかに依存するかに注目して解析した.量子制御ダイナミクスは確率微分方程式で記述され,その自律系の平均過程について平衡点を定義する.まず,平衡点が1次モーメント安定であることを示した.つぎに,孤立平衡点の制御,測定依存性を明示した.そして,この孤立平衡点が「量子状態」の条件を満たすことを示した.系の乱雑さは量子状態の「エントロピー」によって定量化することができる.そこで平衡点が量子状態となり,そのエントロピーが最小(または最大)となるための必要十分条件を求めた.また,その結果を用いて制御,測定による平衡点の移動の可能性について議論した.以上で解析した結果はすべて,対象に依存しない,一般的な量子ダイナミクスにあてはまるものであり,また制御系設計において重要な指針を与えるものである.
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■ サンプル値/離散時間区分的アファインシステムの確率的可制御性解析
東工大・東 俊一,井村順一
近年,ハイブリッドシステムの研究分野においては,可制御性の検討が基礎的な研究課題のひとつとなっている.特に,区分的アファインシステムに代表される事象生起が自律切換えによって生じるハイブリッドシステムの可制御性の解析は容易ではなく,十分な結果が得られてはいない.
これに対し,本論文では,サンプル値区分的アファインシステムおよび離散時間区分的アファインシステムに対し,可制御性/可到達性を確率的な手法によって解析する.最初に,これらのシステムが可制御/可到達であるための必要十分条件を導出する.これによって,可制御性/可到達性の代数的な構造が明らかとなる.つぎに,この条件の成否を確定的に判定することが,計算量やメモリ容量など実用的な観点から困難であることを示した上で,新しい可制御性解析の手法として確率的可制御性解析/確率的可到達性解析を提案する.これは,確率的な手法(ランダマイズドアルゴリズム)を用いて,実用的な計算時間,メモリ容量で近似的に可制御性/可到達性解析を行うものであり,任意の精度での判定が可能である.最後に,これを効率的に実行するためのいくつかの手法を示した上で,例題にて提案手法の有効性を示す.
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■ 都市ごみ焼却炉におけるモデル予測制御システム
神戸製鋼所・友近信行,前田知幸,中山万希志,新谷裕和
本論文は,都市ごみ焼却炉(流動床炉)における熱エネルギーを有効利用するために,多変数モデル予測制御手法を用いてボイラ発生蒸気を安定化することを提案し,商用の実炉を用いてその有効性を示した.従来の予測モデルでは給塵量のばらつきを考慮できなかったが,炉内酸素濃度をモデル入力にすることによって給塵外乱を考慮でき,予測精度を飛躍的に改善できることを示した.さらに,給塵機回転速度と蒸気弁開度を入力とする従来の予測モデルと,炉内酸素濃度を入力とするモデルを組み合わせ,高精度な予測に基づくモデル予測制御アルゴリズムを考案した.実機稼動中の流動床ごみ焼却炉における実験により,給塵量の突発的な変動に対しても,蒸気系や炉内温度を安定化できることを確認した.
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■ 非線形DAE系に対する制御系設計
奈良先端大・喜種奈美,山下 裕,西谷紘一
ロボットアームなど代数拘束をもつダイナミカルシステムはHigh index DAE(微分代数方程式)系で表わされる.High index DAE系を扱う場合は,隠れた拘束条件が存在することおよび十分滑らかでない入力に対してインパルスモードをもつレギュラーでない場合があることに注意する必要がある.Indexが0か1の場合,代数方程式が代数変数に関して解けるならば,解を微分方程式に代入することによって冗長でないODE(常微分方程式)を得ることができる.しかし,非線形の代数方程式を解析的に解くことは一般に困難である.
本研究では,有限のindexをもつ非線形DAE系に対して制御系を設計する.始めに,隠れた拘束条件と代数変数の導関数を求めるため,DAE系を不変多様体上に拘束されたexplicit ODEに変形する.つぎに,状態フィードバック則によって厳密な入出力線形化を行い,さらに制御則を用いることによって出力を目標値に追従させる.このとき,制御則が微分変数だけでなく代数変数も含むことを許容する.このため,代数変数の導関数を利用して,すべての状態変数を同時に推定するオブザーバを設計する.さらに,制御系全体が大域的に安定となるための十分条件を与える.最後に,提案した手法の有効性を確認するため,シミュレーションを示す.
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■ 分散型侵入検知システムにおける免疫型診断モデルを用いた自己監視
豊橋技科大・渡邊裕司,石田好輝
本論文では,免疫型診断モデルを用いて分散型侵入検知システムの自己監視を行い,ルールが改ざんされた侵入検知システムを分散的に検出する.免疫系のB細胞間の相互作用を参考にした本診断モデルは,相互にテストしうるユニットからなるシステムに対して,そのテスト結果ならびにユニットの活性・非活性をもとに,ダイナミカルモデルによって各ユニットの正常・異常を判定する.分散型侵入検知システムを抽象化したシミュレーションシステム上で,各種パラメータを変更し多数決モデルと比較することで,免疫型診断モデルの有効性を明らかにする.さらに,「相互作用」だけでなく「移動(循環)」も免疫細胞がもつ重要な特徴であるため,自己監視の方法として,ホスト間通信を用いる方法とモバイルエージェントを用いる方法の2つを提案し,両者を比較する.その結果として,診断速度ではホスト間通信が良く,診断精度ではモバイルエージェントが良いことを示す.
本研究は,(1)なぜ生物の免疫系は細胞の「局所的な相互作用」と「移動」でうまく生体を防御できるのか? (2)果たしてそれらはコンピュータネットワークのセキュリティに対しても有効であるのか? という2つの疑問の解決に向けた著者らによる最初の試みでもある.
▲ ■ 記号に含まれるコツとパターンに含まれるコツの獲得に関する一考察
名古屋工業研・井谷久博,名古屋大・古橋 武,三重大・森井義人,松下電器・森川幸治
本論文では,新しいタスクや未知の環境下における再学習の効率化と人間の教示の負荷の低減を目指して,人間からロボットへの教示方法と,ロボットによるコツの獲得方法について考察する.人間がルール等の記号によりロボットに教示を行う状況で獲得されるスキルを記号に含まれるスキルと呼び,人間がロボットの動作を直接教示して獲得されるスキルをパターンに含まれるスキルと呼ぶ.また,ある特定のタスク遂行に有用な制御ルールや利用情報のうち,タスク実行の性能に大きな影響を与える最も重要なルール・利用情報をコツと捉える.記号に含まれるコツとパターンに含まれるコツのロボットによる獲得について考察する.ロボットのモデルを用いて,記号に含まれるコツとパターンに含まれるコツの獲得の概念を示す.そして,これらのコツの獲得法を示す.本手法では,記号に含まれるコツは記号的教示を基にタスク実行の成功・失敗から得られる入出力データのクラスタリングにより獲得する.また,パターンに含まれるコツは,記号的教示を通して獲得されたコツの補完として,ロボットのアクチュエータに人間が直接補正を加え,その際に得られたデータの再クラスタリングにより明示的に獲得される.シミュレーションを行い,コツ獲得の考察を行う.
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■ A New Approach to Rectangle Packing Problem Based on Stochastic Tabu
Search
Osaka Inst. Tech.・Y. SHIGEHIRO,SANYO Electroic Co.・S. KOSHIYAMA,Osaka Inst. Tech.・T. MASUDA
A rectangle packing is a non-overlapping placement of given rectangles.
The algorithm to optimize the rectangle packing can be required in a variety
of application fields. However, since the optimization problem of rectangle
packing is a combinatorial optimization problem and NP-hard, it is hard
to solve it exactly in practical applications. To cope with this difficulty,
a new coding scheme, sequence-pair, has been proposed, by means of which
any possible packing can be represented. Tabu search is one of the powerful
meta-heuristics, which can explore the solution space effectively in an
intelligent manner. Thus a tabu search approach for rectangle packing problem
based on sequence-pair should be powerful in practical applications, however
any such approaches have not been reported. The purpose of this paper is
to apply tabu search to rectangle packing based on sequence-pair, and evaluate
this approach. First, rectangle packing problem is formulated, and the
representation of each solution is defined. And then, the proposed method
is described in detail, where first admissible move strategy and a concept
of stochastic tabu restrictions are employed. The experimental result shows
that the proposed method keeps providing good performance through the search
process.
▲ ■ ステレオカメラを用いた頭部位置・姿勢計測とレーザレンジファインダを用いた自己位置・姿勢計測の拡張現実感への応用
奈良先端大・小枝正直,オリンパス・鈴木征一郎,奈良先端大・松本吉央,小笠原
司
現実環境と仮想環境を融合する拡張現実感技術は,実環境に情報を付加することが可能であり,ユーザへの直感的な案内情報の提示手法として注目されている.拡張現実感技術を用いた情報提示システムの構築にはユーザの頭部位置・姿勢と自己位置・姿勢を正確に計測する必要がある.本論文では,ステレオカメラを用いた頭部位置・姿勢計測とレーザレンジファインダを用いた自己位置・姿勢計測の拡張現実感への応用について述べる.またこれらの計測手法の有効性検証のために行った評価実験とその結果について報告する.最後にこれらを利用した拡張現実感システムとして,電動車いすを用いた搭乗型屋内ガイドロボットを構築し,屋内環境において搭乗者を案内する実験を行い,その有用性を検証した.
▲ ■ 空調システム評価のための熱原器モデルの開発
東芝・高木康夫,岩渕一徳,村山 大,船津徹也,港北ニュータウン熱供給・下川兼司
建築物のコミッショニングや省エネ改造による効果を評価するための熱源器の動的シミュレーションツールを開発した.開発したモデルは吸収式冷凍器とターボ・レシプロチラーの動特性モデルである.これらのモデルは,熱源機内部の物理現象を表現するモデル式から構成されている.吸収式冷凍器のモデルは実際の機器の特性仕様と比較することにより,特性を検証した.ターボ・レシプロチラーのモデルは,あらかじめ検証されたモデルを用いた.これらのモデルは,空調の動的シミュレータHVACSIM+の関数としてのインターフェースをもち,このモデルをHVACSIM+(J)と共に用いることにより,さまざまな条件下における空調システムやコジェネレーションの消費エネルギー量を推定できる.同時に,動特性を含んでいるので制御の妥当性の検討にも使うことができる.このモデルを地域冷暖房プラントに適用することにより,プラントのエネルギー特性をシミュレーション評価できることを確認した.
今後は,これらのツールを実際の建築物に適用して,社会的要請が強いCO2削減や消費エネルギー削減の実現に貢献していきたい.
▲ ■ スライディングモード制御による電子制御スロットルシステムの位置制御
ニッキ・ウメルジャン サウット,電通大・樋口幸治,中野和司,大分大・松尾孝美
自動車エンジンの目標出力を決定するスロットルチャンバの電子制御化が現在急速に進んでおり,今後もさらにその傾向は続くものと思われる.本論文では,DCモータ,バタフライ弁,リターンスプリングから構成された,スロットル角度に高いロバスト性が要求される電子制御スロットルサーボ系に対するモデリングおよびロバストスライディングモード制御を用いた場合の設計法について述べている.まず,通常のスロットル角度だけ用いた通常のフィードバック制御では性能が不十分であるため,非線形VSSオブザーバを用いたスライディングモード制御系を提案する.この制御系はファンクションオーグメントスライディング切換超平面を用いるもので,これにより出力軌道誤差を有限時間で0に収束させることができる.さらに,制御対象のパラメータによってスライディングモードを生じるとき制御入力およびスロットル角度にチャタリングが発生したり,ノイズによる振動が無視できなくなる場合がある.この問題を解決するために飽和関数を用いたスライディングモード制御器の設計法についても述べる.最後に,提案手法の有効性をシミュレーションおよび実機による実験によっても明らかにしている.
[ショート・ペーパー]
▲ ■ 戦略を柔軟に変更するじゃんけんゲームシステム
名城大・山本幸一郎,佐川雄二,杉江 昇
じゃんけんは,何も考えずランダムに手を出していけば勝率は3分の1である.それ以上に勝率を上げるためには,なんらかの戦略を立てる必要がある.しかし,チェスなどのように手を先読みすれば勝てるというわけではない.相手の戦略が変化する可能性があり,それによって,対抗する最適な戦略もまた変化するからである.
本論文では,このように相手の戦略の変化に応じて柔軟に戦略を変える必要のあるゲームとしてじゃんけんを取り上げ,人間を相手により高い勝率を上げる計算機システムについて述べる.相手の戦略の履歴に基づいて判断するため,システムは基本的にニューラルネットワークに基づくものであるが,具体的な構成法やパラメータについて,人間を相手にした評価実験による比較検討を行う.
▲ ■ 非磁性ビレットの誘導加熱探傷に適した加熱周波数と加熱時間に関する研究
大同工大・遠藤敏夫,大同特殊鋼・渡邊裕之
鉄鋼の中間製品であるビレットの表面疵を自動検査する手段の1つとして誘導加熱探傷法がある.この探傷法は,ビレット表層部を高周波誘導加熱で急速加熱させたとき,疵部と健全部の温度上昇に差が生ずることから,その温度差を赤外線サーモグラフィーで測定し,傷部位を検出する方法で,磁性ビレットのみならず非磁性ビレットにも適用可能,あるいは,装置構成が簡便であるなどの利点を有する.
誘導加熱探傷では,疵信号ΔTがきわめて小さく,疵検出性能を向上させるにはΔTを,より高めるような探傷条件とすることが重要となる.ΔTに大きく影響するのは加熱周波数fと加熱時間である.
本研究は,非磁性ビレットの誘導加熱探傷に関するもので,ビレットの長さ方向に延びる,深さが0.5mmの疵を検出限界として,誘導加熱探傷に適した加熱周波数fと加熱時間を,有限要素法によるシミュレーションにて追求することを目的としている.本稿では,f=10kHzから200kHzまでのシミュレーション結果から,@50〜100kHz程度の加熱周波数で,A加熱開始から200ms前後に疵信号ΔTを検出するのが,浅い疵の探傷に適していることを提案している.
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