論文集抄録
〈Vol.40 No.4(2004年4月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
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■ 歩行周波数帯加速度の信号エネルギーによる歩行速度推定
東北大・煤孫光俊,大瀧保明,アイティリサーチ・鈴木明宏,東北大・藤田和樹,永富良一,猪岡 光
糖尿病患者,肥満者や心臓病患者の病態改善を目的として運動処方を行うために,日常の身体活動量の正確な評価が必要とされている.身体への負荷は歩行速度によって異なるため,正確な身体活動量評価を行うためには,歩行速度を推定する必要である.歩行速度は,加齢に伴って60歳以降に低下する傾向があり,また加齢に伴う運動機能の縮退には個人差が大きく,同年代,同じ体格であっても歩行能力はまちまちである.そのため,若年者のように標準身体を仮定した歩調と標準歩幅の積では十分な推定が行えない.
本論文では高齢者のように体格や身体機能に個人差が大きく,歩行のばらつきが大きい場合であっても正確に歩行速度を推定することを目的とした.加速度センサとメモリを内蔵した携帯型の計測装置を使用して,腰部の上下方向加速度の計測を行い,歩行時の腰部の上下動の大きさと歩行速度の関係に着目して,上下方向加速度の周波数解析から歩行速度を推定する方法を提案した.高齢者を対象に実験を行った結果,約95%の精度で推定可能であることを確認した.また,杖歩行の場合でも,杖への依存度が比較的低い被験者の場合には,ほぼ正確に推定できることを確認した.
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■ 高温炉内鋼板の放射測温法
グローバルマシーナリー・古川 徹,ペンタックス・佐藤伸治,東洋大・井内 徹
本論文は高温炉内鋼板の放射測温法に関し,従来利用している水冷遮蔽板を用いずに背光放射雑音を低減し,これと同時に測定対象の温度と放射率を同時測定する炉内放射測温法を論じている.本法の研究にあたり解決すべき課題は放射率の変動と,炉内に充満している背光雑音である.これらを解決するために,つぎの2つの方法を用いた.1つは偏光放射輝度を用いた放射率補正で,これによって測定対象の放射率と温度の同時測定が可能となる.もう1つの方法は炉内への擬似黒体の導入で,炉内に充満している背光雑音を吸収すると同時に既知の基準放射体として利用する.
ステンレス鋼板を測定対象にして放射率補正法の原理を確証し,擬似黒体による背光雑音低減の定量化のための実験を進めた.結果として,1300Kの温度域において放射率と温度の測定誤差はそれぞれ,12%,0.96%であり,背光放射雑音による測温誤差は4K程度に抑えられることがわかった.
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■ H2ノルムを単調減少させる制御器列を用いた混合H2/H∞制御系設計法
九工大・上 泰,延山英沢
本論文は,多目的制御系設計問題のひとつである混合H2/H∞制御問題に関する論文である.本論文では,定ゲイン状態フィードバックを用いた混合H2/H∞制御問題について,まず,この問題の大域的最適解の性質を示す.つぎに,得られる解がこの問題の大域的最適解であるための必要条件を満足する繰返しアルゴリズムを2つ提案する.これらの提案手法は,H∞ノルムの制約条件を考慮しない場合のH2最適制御器に収束していく制御器の列(controller
sequence)と制御器のパス(controller path)を定義し,これを用いて準最適解を求める手法である.提案手法から得られる解は,H2ノルムが収束するまでの間H∞ノルムの制約が満たされているならば,大域的最適解となる.また,H2ノルムが収束する前にH∞ノルムの約が満たされなくなった場合は,H∞ノルム制約条件の境界上に存在する解となる.本論文では,数値例から提案手法の有効性を検証する.
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■ 無限次元線形行列不等式条件に基づく線形むだ時間システムのH∞出力フィードバック制御
金沢大・東 剛人,相樂誠一,藤田政之
本論文では,無限次元の線形行列不等式(LMI)条件に基づく線形むだ時間システムの出力フィードバック則の構成法について考察し,安定化出力フィードバック則と2つのH∞出力フィードバック則を提案する.まず,状態フィードバック則のリアプノフ関数を出力フィードバック則を導出するための関数に拡張し,メモリ型オブザーバを付加することで安定化出力フィードバック則を導出する.つぎに,この出力フィードバック御則を発展させ,メモリレス型オブザーバとメモリ型オブザーバに基づいた2つのH∞出力フィードバック則を導出する.また,無限次元LMI条件を有限個のLMI条件に還元する手法を示す.最後に,数値例を用いて提案する出力フィードバック則の有効性を示す.
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■ Unfalsified Control Approach to Parameter Space Design of PID Controllers
Hiroshima Univ.・Masami SAEKI
本論文では,非反証制御の考え方を混合感度問題のPID制御器のパラメータ空間設計に適用し,PIDゲインのパラメータ平面上に反証領域を描かせる方法を提案した.この方法は,設計のための数式モデルを作成せずに,プラントの入出力データから直接に領域を描かせるので,モデルに基づく設計法が直接に適用できないような複雑な非線形プラントにも適用できると期待される.数値実験により入出力データのクラスと反証領域の広さを調べたところ,ステップ応答では十分に多くの制御器を反証できなかったが,多くの周波数の正弦波で加振されたプラントの入出力応答データを用いると十分に反証できた.各周波数についてパラメータ平面に楕円や双曲線の反証領域を描くことができ,反証されなかった領域から解の候補が得られる.また,非反証領域が空となれば混合感度問題を満たす解が存在しないと結論できる.バックラッシュを含む非線形プラントに対して数値実験により有用性を示した.基本的方法が得られたので,今後,反証領域と入出力データの関係についてより詳細な検討が必要である.
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■ 区分的二次な蓄積関数による区分的アフィンシステムのL2ゲイン解析
阪大・森永英二,平田研二
区分的アフィンシステムは,近年注目を浴びているハイブリッドシステムの代表的サブクラスである.有限個のアフィンな動特性が結合し,離散事象的に切り替るダイナミクス構造をもつため,このシステムに対する制御問題は,線形システムに対する既存の結果を連立させた形で議論できる可能性がある.しかし,このアプローチでは,個々のアフィンな動特性すべてをまとめて扱うことになるため,得られた結果が保守的になってしまうことが多い.この問題に対し,既存の研究では,動特性が内部状態のみに依存して切り替る区分的アフィンシステムを対象に,区分的二次な関数を用いた安定解析,L2ゲイン解析などが議論されている.
本稿では,内部状態と外部入力の両方に依存して動特性が切り替るクラスの区分的アフィンシステムを対象として,L2ゲイン解析問題を取り上げる.一般に用いられるL2ゲインに加えて,入力の大きさが制限されている場合の局所的なL2ゲインも考慮し,両者の解析条件を,大域的二次,区分的二次な蓄積関数を用いて,数値計算可能なLMI条件としてそれぞれ導出する.さらに,区分的二次な蓄積関数による解析条件を実用する際の問題点に対して,改善策を与えた後,数値例を用いて有効性の検証を行う.
▲ ■ 適応観測器を用いた連続時間モデル同定
徳島大・池田建司,最上義夫,下村隆夫
本論文では,適応観測器を用いて,サンプル値入出力データから連続時間モデルを直接推定する連続時間モデル同定法を提案した.従来の直接同定法では,厳密な連続時間モデルを得るためには,サンプリング周期を極限で0とする,あるいは,信号を周期信号に限定するなど,実用上不可能あるいは望ましくない前提が必要であった.提案手法は,これらの実用上望ましくない仮定は設けることなく,理論的には厳密な連続時間モデルを直接同定できるという特徴をもつ.まず,Kreisselmeierの適応観測器をサンプル値系に拡張し,その安定解析を行った.しかしながら,一般に適応観測器は収束に時間が掛かるため,非常に長い時間のサンプル値データが必要となってしまう.この問題を解決するため,backwardシステムに対する適応観測器を構成し,forwardシステムとbackwardシステムに対する適応同定を繰り返し行う連続時間モデル同定法を提案した.これによって,有限長のサンプル値データから指数収束する適応観測器が構成可能となった.数値シミュレーションにより,観測雑音の影響を他の手法と比較し,提案手法の有効性を検証した.
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■ 移動物体への液面振動抑制を考慮した追従制御
豊橋技科大・野田善之,矢野賢一,三好孝典,寺嶋一彦
現在,鋳造産業における注湯工程において,製品品質向上,および生産性向上を目的に移動している鋳型へ追従して注湯する自走式自動注湯システムの開発が進められている.しかし,実際の注湯工程で採用されている自走式自動注湯システムは,注湯装置を搬送する際に取鍋内の溶湯が注湯装置の加速度によって液面振動を発生するため,高速搬送できないのが現状である.この問題を解決するために,移動物体への液面振動抑制を考慮した追従制御系を構築する.制御系は移動物体にフィードバック制御系,追従物体に2自由度制御系を構築する.フィードフォワードコントローラには追従物体の逆システムを適用することで,高精度な追従制御が可能となる.そして,移動物体,追従物体のそれぞれの制御系のフィードバックコントローラにハイブリッド整形法で設計したコントローラを適用することにより,液面振動抑制が可能となる.また,移動している物体へ停止した状態から追従するさいに,フィードフォワードコントローラを通過した過大な入力によって,液面振動が発生する.これを回避するために2自由度制御系の前置フィルタとして,時変ゲインフィルタを適用する.提案した制御系を液体搬送システムへ適用し,制御仕様に対して有効性を確認する.
▲ ■ 単一種類の閉軌道の繰り返しを用いた平面を転がる球の接触点の制御
名古屋大・中島 明,長瀬賢二,早川義一
本論文では,平面を転がる球における接触点の制御について考え,球上において3つの変数で特徴付けられる単一種類の閉軌道を繰り返すことにより接触点のレギュレーションを実現する手法を提案した.はじめに,(1)接触状態を特徴づける平面において,1回の閉軌道により到達可能な領域として,原点(現在の接触点位置)で交差する有限な長さをもつ2本の直線が存在することを示した.つぎにこのことを利用して,(2)目標状態への到達に要する閉軌道の繰り返しの回数が保証された接触点のレギュレーションを実現するための閉軌道のパラメータ決定アルゴリズムを提案した.基本的なアイデアは,閉軌道を繰り返すことにより,上記で述べた直線上を移動しながら目標点に到達しようというものである.平面の任意の点は1次独立な2つのベクトルの線形結合で表わされるので,上記で述べた直線上を移動することで必ず目標点に到達することができる.また提案する手法では,閉軌道パラメータ決定する際に,解の存在が保証された1変数の非線形方程式を解くだけでよいので,二分法などにより解を確実に得ることができる.最後に,手法の有効性を数値例により確認した.
▲ ■ 分散演算を用いた高次FIRフィルタの高性能VLSIアーキテクチャ
岩手大・野崎 隆,恒川佳隆,田山典男
本論文では,サンプリングレートと滞在時間と消費電力を同時に考慮した高次FIRフィルタのVLSIアーキテクチャを提案する.まず,高次に向いたFIRフィルタを実現するために,処理時間が語長のみに依存する分散演算を用いる.これにより,次数の増加に対してサンプリングレートを保持しながらほぼ一定の小さな滞在時間に抑えられる.しかし,ROMを用いた従来型の分散演算に基づく構成は非常に大きな消費電力を必要とする.そこで,われわれが提案してきた最適関数回路を用いて,サンプリングレートを一定にしながら大幅な低消費電力化を実現する.さらに,きわめて高い次数に適したFIRフィルタを実現するために,先の構成にSFA(Serial Full Adder)を用いた直線位相特性に基づく手法と高速・低消費電力形4入力2出力加算器を適用した構成を提案し,消費電力と滞在時間を減少させる.最後に,本プロセッサを240タップという高い次数でVLSI評価を行うことによって,本提案法がきわめて高い次数のFIRフィルタ実現に有効な手法の1つであることを明らかにする.
▲ ■ 並列化に適した遺伝的ローカルサーチによる非線形関数最適化
理化学研・木村周平,理工学振興会・高橋 治,東工大・小林重信,理化学研・小長谷明彦
多峰性,変数間依存性,悪スケール性をもち,なおかつ比較的高次元の関数最適化問題を解くための手法として,距離に依存せずに多様性を制御するGA(DIDC)が提案されている.しかしDIDCには最適化に多くの関数評価を必要とするという問題点があった.計算コストの問題を解決するための方法の1つとして並列処理がある.本研究ではDIDCの基本的なアイデアを利用することにより,PCクラスタなどの通信コストの高い並列コンピュータでの実装に適した新たな最適化手法として,距離に依存せずに多様性を制御する遺伝的ローカルサーチ(GLSDC)を提案する.GLSDCは主要な探索オペレータとして既存のローカルサーチ手法を使用する.また遺伝的オペレータは集団を収束させるためだけに使用される.実験においてベンチマーク問題にGLSDCを適用することで有用性を確認した.最後にGLSDCが複数局所解を同時に発見する能力をもつことを示した.
▲ ■ 力覚表示システム構築を前提とした粘弾性体のナイフによる切離モーメントの表現
東医歯大・本間 達,若松秀俊
仮想現実の実現手段として,力覚を表現するさまざまな力覚表示システムの研究が行われている.これらの研究では,デバイスからの入力に対する力覚のフィードバックと,これに連動した画像の変形・破壊の表現が不可欠である.
本研究ではナイフ型デバイスを用いた力覚表示システムの構成を念頭において,ナイフによる仮想物体の切離の機序について物理的法則に基づいて検討し,ナイフおよび仮想物体に仮定した種々の物性値および使用条件を反映して,切離時に生じる反力を切離モーメントとして解析的に表現する.これにより,デバイスからの操作に連動した切離モーメントの算出がリアルタイムで行えることをシミュレーションで確認した.物体の物性値とナイフの刃の形状を反映した切離物体のナイフによる切離時の切離モーメントをナイフの刃先端角度,ナイフの鋭利さ,切離速度,侵入角度,肉厚,押入深度,物体の硬さ(弾性率),物体の脆さ(弾性限界),物体の伸縮状態(伸展率),物体の粘性係数,摩擦係数の各種パラメータを用いて解析的に表わすことができた.これは物理モデルを数学的に記述し,力覚表示システムで力覚表示するための基礎となる重要な技術であり,バーチャルリアリティーの応用上意義が大きい.
▲ ■ 遺伝的アルゴリズムによるマルチカーエレベータ制御ルールのシミュレーションベースド最適化
フジテック・鈴木裕通,富士重工・高橋 聡,日産自動車・佐野康仁,フジテック・須藤 豪,マルコン シャンドル,京大・喜多 一
リニアモータや機械技術の発達により,1つのエレベータ・シャフト内に複数かごが走行するマルチカーエレベータ(Multi-Car
Elevators,以下MCE)の実現性が高まっており,これにより高層ビル内の輸送能力の大幅な向上が期待される.しかしながら,その運行制御は未経験で,かご同士の干渉などのMCE固有の制約から,従来のエレベータ群管理の知見を単純に利用することができない.そこで,本研究ではMCEの運行制御について,シミュレーションベースの運行制御の最適化を検討した.まず,運行制御の評価を行うMCEのシミュレータを開発した.つぎに,経験的に構成した運行制御ルールによりMCEの基本的な性能を計測し,MCEの導入効果とシミュレーションの妥当性を検証した.最後に,MCEの制御ルールの可調整パラメータについて,遺伝的アルゴリズムによりシミュレーションを通じての最適化を行った.その結果,MCEの輸送能力が向上し,実現性が増した.また,提案手法の有効性が確認でき,複雑な他の問題への適応も期待される.
[ショート・ペーパー]
▲ ■ 速度推定オブザーバを用いた車輪型移動ロボットのロバスト軌道追従制御
九工大・和田 慎,大屋勝敬,小林敏弘
近年,車輪型移動ロボットの制御に注目が集まり,移動ロボットの重量や慣性モーメント等のダイナミックを考慮したロバスト軌道追従制御法が種々開発された.これらの手法では,移動ロボットの位置・ヨー角,ならびに,それぞれの速度情報が必要となる.最近,コストの削減や速度計測信号に含まれるノイズの影響による制御性能の劣化等の改善を目指し,速度情報を用いないロバスト軌道追従法が提案された.しかし,この手法では注目点から左右の車輪までの距離や車輪半径に関し正確な値が必要であり,これらに計測誤差がある場合や,重心のずれによりゴムタイヤの半径に変化が生じる場合などには適用できないという問題がある.
本論文では,注目点から車輪までの距離や車輪半径にも不確定性が存在する場合に対して,オブザーバ理論に基づいたロバスト軌道追従制御法を提案する.そして,理論解析により設計パラメータを用いて,簡単に,追従制御性能が改善できることを示す.
▲ ■ 状態帰還LQ制御において許容される状態観測誤差について
茨城大・齊藤充行,山中一雄,上越教育大・川崎直哉
制御量の2次形式を評価指標とする制御問題をLQ理論によって解決すると,操作量の2次形式を含むように修正された評価指標を最小にする制御則が得られる.この修正された評価指標の最小値J0は,制御量の2次形式に対してひとつの上界を与えるが,操作量の2次形式に相当する分だけ「余有」がある.この余有について,許容される状態観測誤差という観点から考察した結果,制御量の2次形式がJ0を超えないような状態観測雑音の全体を,それらのパワースペクトル密度の上界によって特徴づけることができた.さらに,この結果を用いると,評価指標を増加させる効果において,操作量の2次形式が,あるクラスの状態観測誤差(雑音)と等価であることが示される.これにより,操作量の2次形式を評価指標に含めることの効用について,過大な操作入力発生の抑制という従来の解釈とは別に,状態観測誤差の影響を評価する手段の獲得という新しい解釈が可能となる.
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