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 論文集抄録
  

論文集抄録

〈Vol.40 No.3(2004年3月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[論  文]

[ショート・ペーパー]

[開発・技術ノート]


[論  文]

■ 非常に短い臨界ノズルとスロート近傍にステップを持つ臨界ノズルの流量特性とその流速分布

産総研・石橋雅裕

 スロート近傍で切断された非常に短い臨界ノズル,および,スロート近傍にステップを持つ臨界ノズルの間には,スロートより上流側に同じ形状の円環絞りを持つ場合でも,系統的で無視できない流量特性の差がありえることを,臨界ノズルの直列接続校正法により明らかにした.たとえば,正確にスロートで切断された四分円ノズルは,低圧力比においてトロイダルスロートベンチュリノズルよりも0.2%大きい臨界流量を持つが,圧力比の上昇と共にこれが減少し,圧力比約0.5では同じ流量となる.また,スロートにステップを持つノズルの臨界流量は,圧力比が変わっても一定で,常にトロイダルスロートベンチュリノズルより0.2%大きい値となる.
 一方,これらの臨界ノズルの流速分布を,回復温度分布の測定値から推定した.その結果は,それぞれの流量特性の特徴を非常によく説明し,また,これまでの測定法ではまったく知ることのできない流れ場に関する多くの詳細情報が得られた.


■ 形状記憶合金の自己感知・過熱防止加熱法

合肥工大・朱 玉田,東工大・萩原一郎,毛利泰裕,産総研・秋宗淑雄,ケンタッキー大・H.S. TZOU

 形状記憶合金(SMA)を通電加熱制御するとき,大電流により短時間加熱すると,過熱状態になる可能性がある.
 本研究は,それを防止する制御法について述べている.この過熱防止加熱方法では,加熱電流の大小または通電時間を自由に設定できる.また,相変態の終了の判断に要する時間が短いので,SMAを通電加熱制御するシステムに本方法を組み込めば過熱による障害が防止できる.
 本方法は,SMAの以下の性質に着目している.すなわち,マルテンサイト相では比抵抗の時間微分値はある小さい値に留まっているが,温度が上昇し相変態が始まると,その値は急激に増加し最大値を取りその後減少し,オーステナイト相への変態が終了するとまたある小さな値になる.本方法はこの性質を利用して相変態の終了を予測するものである.
 実験では,短時間通電加熱し,その直後にSMAの抵抗値を測定し比抵抗の時間による微分値を計算して,この微分値がある小さい値に戻るまでこれを繰り返し,その値になれば通電加熱をやめる.計算と実験の比較により,提案した方法の妥当性を確認した.
 温度を帰還量にする制御や1回だけ相変化させる制御において,本方法を組み込めば過熱を気にせず制御ができる.


■ 状態推定フィードバックディジタル制御器の丸め誤差を最小化する誤差フィードバックと座標変換の同時最適化

広島大・雛元孝夫,河合恵次郎,日学振・中本昌由

 制御対象を線形離散時間システムによって記述した場合において,状態オブザーバを用いたレギュレータを設計し,これらから構成された状態推定フィードバックディジタル制御器を固定小数点による有限語長表現で実現したとき,閉ループシステムの出力に積和演算結果の丸め誤差に起因した雑音が発生する.ここでは,状態推定フィードバック閉ループシステムを対象に,ディジタル制御器の丸め誤差をフィードバックし,フィードバック係数行列と座標変換行列を同時に最適に選ぶことによって,閉ループシステムの出力雑音を最小化する問題を取り上げている.まず,状態推定フィードバック閉ループシステムを記述している.つぎに,ディジタル制御器に誤差フィードバックを導入し,閉ループシステムの出力雑音を最小化する,誤差フィードバック係数行列とスケーリング制約条件を満たす状態空間の座標変換行列の同時最適化設計法を提案している.最後に,数値例を通して提案手法の有用性を確認している.


■ 繰返しパルスの時間制御

防衛大・山崎 隆,防衛庁・鷲見晋一,防衛大・井上 悳

 本稿では,パルスパワーへの応用を念頭に,幅の短い繰返しパルスの生成時間や波形を精度良く制御するための一手法を提案する.粒子加速器に用いられるクライストロン用電源における,数μs程度の出力パルスに生じるサグの問題に対し,補助パルスの投入などによる補正が提案されているが,正確さが重要となる投入タイミングや波形形状の制御をパルス幅程度の短時間に有効に施すことは難しい.しかし,パルス生成時に波形を取得し,パルス幅に比べ非常に長い繰返し周期に収集データに基づく制御演算を行い,つぎのパルス操作に反映させる手法が,この目的に対し有効である.繰返し運転形態を利用した本方式は,各周期の現象を独立事象として扱うことが可能なためにパルス発生装置が動的な遅れのない非線形ゲイン系に帰着し,その特性曲線はパルス観測波形から計算できるなど,非常に単純で扱いやすい系となる.また,フィードバック量を導く演算には,種々の信号処理手法を応用できるが,ここでは,相関関数最大化の規範による時間制御について検討する.さらに,制御系の実現可能性と有効性についての実証実験を紹介する.高速のA/D変換器とPC互換機により,1μs程度の短パルスの生成時刻を制御した.特に,低速のジッタの除去に有効であることを示す.


■ On the H∞ Control System Design Attenuating Initial State Uncertainties

Nagaoka Inst. of Tech.・Toru NAMERIKAWA,Kanazawa Univ.・Masayuki FUJITA,Univ. of California・
Roy S. SMITH,Waseda Univ.・Kenko UCHIDA

 H∞制御問題の枠組みでは制御対象の初期状態は一般に零と仮定して理論展開されてきたが,実システムにおいては初期状態は不確かで,零である保障がない.初期状態が非零である場合には,その影響で過渡応答特性が劣化する場合がある.これに対して,外乱と初期状態の不確かさの混合減衰H∞制御問題は従来に比べて良好な過渡特性を付加するものと思われる.外乱と初期状態の不確かさの混合減衰H∞制御問題については,有限時間区間,無限時間区間それぞれに対する解が得られているが,ここで議論されているシステムは直交条件を含むものに限定されていた.実際に実システムの制御系設計に本手法を応用するにはこの制約は厳しく,制御系設計の自由度がかなり制約を受ける.そこで本稿では従来の結果から直交条件を外して,外乱と初期状態の不確かさの混合減衰無限時間区間H∞制御問題を定式化し,解の存在のための必要十分条件を導出する.さらに,可解条件だけでなく,補償器の1つの厳密な構成法も導出する.また提案手法を実際に磁気浮上システムに適用し,制御系の設計,および数値シミュレーションを行った.結果を従来法と比較することにより,過渡応答特性に関する提案手法の有用性を示した.


■ On the Analysis of the Impedance Matching Controller for Uniformly Varying Damped Mass-Spring Systems

Nagoya Univ.・Hirotaka OJIMA, Kenji NAGASEand Yoshikazu HAYAKAWA

 This paper investigate the properties of the impedance matching controller for the uniformly varying damped mass-spring systems and the resultant closed loop systems by invoking the properties of the algebraic function. The analyticity and the positive real property of the impedance matching controller are first investigated. Next, the internal stability of the feedback interconnection of the uniformly varying damped mass-spring system and the impedance matching controller is studied. Finally, the ladder structure of the closed loop system and the impedance matching controller are investigated.


■ ニューラルネットワークを用いたカオスデータのモデリングと周期解推定

慶應大・熊田直樹,相吉英太郎

 未知の非線形時系列データのモデリングをおこなうために,階層型ニューラルネットワークをモデルとして用いることが有効である.しかし,カオスデータが与えられているときに,そこに埋めこまれている未知の周期解を推定する手法については,さほど研究がされていない.そこで,本論文では,ニューラルネットワークでモデル化された近似系に対して,初期値に対する周期解条件からの誤差を最小にする初期値発見問題である最適化問題として,周期解推定問題を定式化し,さらに初期値の摂動に対する変分計算により,誤差関数の勾配を求める公式を導出し,これに基づく最適化手法によって,周期解を推定するアルゴリズムを提案している.そして,簡単なシミュレーションによるこの手法の有効性を確認している.



■ A Social View to Multiagent Reinforcement Learning

Kyoto Univ.・Qiang WEI and Tetsuo SAWARAGI

 This paper presents a study on Multiagent Reinforcement Learning (RL) for cooperating work from a social view to solve the problems of individual agent’s incomplete world model, conflict of individual interests and inconstant reinforcement from environment. Through a modeling of four software robot agents’ cooperative work to balance a ball on a plate, two social RL approaches-observing reinforcement and vicarious reinforcement-are applied to individual RL agents in a multiagent learning environment. The comparisons between social RL and independent RL are provided in several aspects, and we show that social RL accelerates the convergence of agents’ learning efficiency in an organization and also contributes to the learning efficiency of unskilled agents, who are newcomers and join to an existing organization.


■ リスクベースの安全計装システムの最適点検方策

岡山大・凌 元錦,鈴木和彦,京大・幸田武久

 安全計装システム(Safety Instrumentation System: SIS)はプラントのリスク低減施設としてよく利用されている.SISの故障には安全側故障と危険側故障の2つの故障モードがあり,どちらの故障が発生しても大きな損失をもたらす.
 最近,リスクベースのSISの運用方法が注目されている.これはリスク評価によりプラントの安全性を確保し最適運転を実現しようとするものである.SISの自己診断機能の効果を考えると,たとえばリスクが許容値以下を満たすという条件で自己診断率を高めることにより定期点検間隔が延ばすことができる.これにより,保守コストが削減できると考えられる.しかし,これについては十分な考察がなされていない.
 本研究は自己診断機能を有する安全計装システムを考察の対象とする.マルコフモデルを用いてSISのアベイラビリティA,安全側故障による誤トリップ発生回数の期待値N(T),危険側故障確率Qおよび事故発生確率Pを求め,2つの故障モードにより生じるリスクIを定式化した.また,自己診断率,定期点検間隔がA,N(T),Q,PおよびIにどのような影響を与えるかについて考察した.これにより,リスクが許容値以下を満たすという条件のもとで,保守コストを考慮したリスクベースの最適点検方策について議論した.


■ 周期外力下の立位平衡制御におけるトルクパターンの内的生成

岐阜大・伊藤 聡,川崎晴久

 本稿では,未知の周期外力(周期は既知)が働く状況下での立位平衡制御と適応学習について考察する.未知な外力が働く場合でも効果的に立位姿勢を維持するためには,床反力の情報を用いることが重要である.しかし,外力が周期的でその周期が既知な場合,定常的に立位姿勢を維持し続けることによって環境の情報が取り込まれる.その結果,未知な外力下では必須であった床反力の情報を用いることなく,立位姿勢の維持が可能となる.これは床反力のフィードバックに基づくコントローラが適応学習によりコピーされ,床反力の情報を用いない意味でフィードフォワード的なコントローラに置き換わることに対応する.このフィードフォワード的なコントローラは,おもに外力を展開する基底関数の重み付け和として構成され,その重みに運動を通して得られた環境情報が集約されている.本稿ではこのプロセスを適応制御の枠組みを応用して数式化し,適応学習による床反力フィードバック項の減衰性と,適応学習のトルクパターン変化への影響について考察を行った.また,数値シミュレーションによる検証を行い,提案した制御法と適応学習が目標どおりに動作することを確認した.


■ 拘束ルール抽出機構を用いた自律移動ロボットの段階的行動学習

東工大・近藤敏之,日本IBM・伊藤紀彦,東工大・伊藤宏司

 多自由度なシステムの制御器を学習によって獲得する場合,先見知識を拘束条件としてうまく利用して学習を効率化することが肝要である.実在する教師の運動軌道を手本として拘束条件を与える見まね学習は有効な実現手法の一例であるが,試行錯誤過程を伴わないインスタンス学習は獲得される制御器の汎化性に問題が残る.一方,無限定な環境下でも頑健に行動する生物は,新しい運動を行う際「いかにして感覚・行動の自由度に拘束(選択的注意や筋の同時活性など)を働かせるか」を自律的に獲得していると考えられる.本研究では,既学習の感覚行動写像から複数の拘束ルールをマイニングし,事後の学習において拘束条件として利用する新しい追加学習法を提案する.提案手法は,1)既学習写像からの拘束ルールの抽出,2)未学習環境下で有効に働く拘束ルールの選択,3)拘束ルールを用いた追加学習の3過程からなる.タスク達成に求められる行動の複雑度が段階的に増加する移動ロボットのナビゲーション学習課題において,拘束条件を自律的に抽出し,学習が効率化されることを示した.またシミュレーション上で抽出された拘束ルール群を実ロボットの学習に適用した結果,同手法は実環境下で強化学習を行う際にも拘束条件として有効に機能することが示された.



[ショート・ペーパー]

■ むだ時間系における最適メモリーレスレギュレータの極

徳島大・久保智裕

 有限次元系の場合,最適レギュレータの極はハミルトニアンの固有値のうち実部が負であるものと一致することが知られている.本稿では,遅れ型むだ時間系および中立型むだ時間系に対して最適メモリーレスレギュレータを構成する場合を考える.そしてそれらの極とハミルトニアンが,有限次元系の場合とよく似た関係をもつことを確かめている.


■ 位相限定相関法を用いた静脈パターンによる個人認証

慶應大・樋口正憲,田中敏幸

 近年,静脈パターンの比較による個人認証が注目を集めている.人の静脈パターンは同じ人の左右の手でも,また一卵性双生児においても異なっている.静脈パターンによる認証には,パターンの平行移動と照度のムラに強い方式が必要である.本論文では手の甲の静脈パターンに対して位相限定相関法を用いて個人認証を行うことを目的とした.まず赤外線LEDを照明として用い,手の甲の静脈画像をCCDにより撮影する装置の作成を行った.作成した装置を用いて画像をパソコンに取り込み,前処理後に登録画像との比較を行うことによって個人認証を行った.前処理としては,グレースケール化,メディアンフィルタリングとヒストグラムの正規化を行った.撮影装置に手を固定するガイドを設けることによって別時刻に撮影した画像においても86%という識別率が得られることが確認できた.今まで2値化することによって認証を行っていた静脈認証において,画像全体を比較することで認証ができることが確認された.識別率86%は実用にはまだ十分な数値とはいえないが,位相限定相関法は処理方法が規則的なためにLSI化がしやすく,この認証方式を採用することにより今までよりも高速な認証ができることが期待できる.



[開発・技術ノート]

■ カルマンフィルタを用いた風速のトレンドの推定

横浜国大・福田隆文,クニミエ工業・井ノ久保 徹,横浜国大・清水久二

 風が今後強くなるか,あるいは収まるかの判断は,交通規制などで重要であるが,困難である.ここで必要なのは,その場所(たとえば,橋りょう)での風速の推移である.本報では,ある場所の風速の増加・一定・減少のトレンドを,その場所で測定しているデータからカルマンフィルタを用いて実時間で推定する方法を提案し,適応した例を示す.あらかじめ風速が増加・一定・減少のモデルを組み込んだカルマンフィルタに観測データを入力する.そして出力残差から,各モデルへの適合性をベイズの定理で逐次更新していく.あるモデルの確率が高くなれが風速はそのモデルに従って推移していると判断する.まず,ある場所における台風による強風でカルマンフィルタをチューニング(パラメータの調整)し,以降,その場所における気圧の谷通過,冬型気圧配置,前線通過による強風のトレンドを推定した.その結果,風速のトレンドに対応して,各モデルの適合確率が推移した.その結果,本方式によって風速のトレンドの推定が可能なことを示せた.


 
copyright © 2004 (社)計測自動制御学会