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 論文集抄録
  

論文集抄録

〈Vol.39 No.7(2003年7月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[論  文]

[ショート・ペーパー]


[論  文]

■ RI-Splineウェーブレットおよびその非定常信号解析への応用―第2報:RI-Splineウェーブレットによる複素数多重解像度解析―

岡山工技センタ・章  忠,岡山県立大・戸田 浩,川畑洋昭

 本研究では,まずシフト不変性を実現するためにRI-Splineウェーブレットによる複素数多重解像度解析(Complex Multi-Resolution Analysis, CMRA)およびそれに基づくDWTのDual-Treeアルゴリズムを提案した.これは,まず解析対象となる信号を実数部と虚数部に対応するScaling関数により定義した補間関数を用いて補間を行い,実数部と虚数部に対応する2組の離散データが得られる.つぎに2組の離散データに対して対称性をもつ実数部と反対称性をもつ複素数部をそれぞれ独立にMallatのアルゴリズムで計算する.そして,得られた結果に対してウェーブレット中心位置のずれを修正する.このように修正した結果をそれぞれ実数部と虚数部として扱い,その絶対値をウェーブレット係数として求める.逆変換は上述の手順を反対方向にたどれば容易に実現される.さらに,提案されるアルゴリズムを心電図(ECG)中の白色ノイズおよびレコード音楽中のパルスノイズの除去に応用し,その有用性を確認した.得られたおもな結果はつぎの通りである.1)従来実数型ウェーブレットを用いた離散ウェーブレット変換のシフト不変性は,複素数多重解像度解析に基づく離散ウェーブレット変換により改善されることが確認された.2)実例として複素数多重解像度解析に基づく離散ウェーブレット変換を心電図中の白色ノイズおよびレコード音楽中のパルスノイズの除去に応用し,本手法の有用性を明らかにした.今後,もっと広い分野への応用が期待されている.


■ トルク計測機器の静校正における不確かさの実験的検証 第1報―繰り返し性,設置変更の再現性及び零点誤差の検証―

産総研・大串浩司,太田 孝,上田和永

 トルク計測機器の静校正において,不確かさの要因として,設置未変更の繰り返し性,設置変更の再現性,零点誤差,内挿誤差,ヒステリシス(往復誤差),指示計を含めた分解能が挙げられる.しかし海外の規格等において,不確かさの算出の元となる偏差の分布形の妥当性については実験的な確認は行われていない.そこで本研究では,純ねじりを計測するためのトルクメータに関して,これら不確かさ要素に着目し,分布形の妥当性等を多数回の繰り返し実験により検証した.本報告では国際勧告である「計測における不確かさの表現のガイド(GUM)」を参考として,繰り返し性,再現性および零点誤差に着目し,考察した結果を報告する.


■ トルク計測機器の静校正における不確かさの実験的検証 第2報―内挿,ヒステリシス及び分解能に起因する不確かさの検証―

産総研・大串浩司,太田 孝,上田和永

 トルク計測機器の静校正において,不確かさの要因として,設置未変更の繰り返し性,設置変更の再現性,零点誤差,内挿誤差,ヒステリシス(往復誤差),指示計を含めた分解能が挙げられる.しかし海外の規格等において,不確かさの算出の元となる偏差の分布形の妥当性については実験的な確認は行われていない.そこで本研究では,純ねじりを計測するためのトルクメータに関して,これら不確かさ要素に着目し,分布形の妥当性等を多数回の繰り返し実験により検証した.本報告では国際勧告である「計測における不確かさの表現のガイド(GUM)」を参考として,内挿,ヒステリシスおよび分解能に起因する不確かさに着目し,またすべての不確かさ要因を合成したトルクメータの校正の不確かさについて有効自由度を考慮した評価を行った結果を報告する.


■ 非構造的な不確かさを考慮した周期信号による同定入力信号と周波数重みの同時最適化

豊橋技科大・佐野滋則,大同工大・尾形和哉, 名大・早川義一,豊橋技科大・高木章二

 制御系設計を行うにあたり,よいモデルを得ることは重要である.ここで同定実験により,モデリングを行うことを考える.一般に同定結果は,同定モデルや同定手法の選択,観測データの独立性,外乱や無視したモデル化誤差の影響によって大きく左右される.よいノミナルモデルを得るためには,同定対象に適したモデル構造や同定手法を選択することが重要であるのと同様に,外乱や無視したモデル化誤差の影響を受けにくく,データの独立性も十分あるような観測データを作成することも重要である.そこで本論文では,観測データの作成に着目する.入力信号を正弦波の線形結合,あるいは周期的な時系列信号とし,外乱信号や非構造的な不確かさが存在する場合におけるパラメータ推定誤差の上界に基づいて,同定入力信号と観測データにかける周波数重みを同時に最適化を考える.その結果,最適な周波数重みを入力信号の関数として求めることができ,同時最適化の問題が入力信号のみの最適化問題に帰着され,その問題がLMI問題となることを論ずる.本論文では時系列信号を取り扱うため,離散時間系で議論する.ただし,入力信号が正弦波の線形結合である場合には連続時間系でも同様の議論をすることができる.


■ 状態フィードバック系の境界接点多様体と指数公式

鳥羽商船・榎本隆二,北大・島 公脩

 状態方程式の境界接点多様体は,微分可能な状態フィードバックによる非線形制御系の大域漸近安定化問題を制御された系の位相幾何学的分類という観点から考察するための概念であって,その標準型は制御系のConley指数ともいうべき性質を備えている.ここで,「大域」という用語は制御された系がベクトル場の複数の特異点をもつことを許して考察するという意味で用いる.境界接点多様体は可微分多様体上のベクトル場に関するPugh-McCordの指数公式を制御系に対して自然に拡張することから得られる多様体の包含列である.この概念は,状態空間上のLyapunov関数の候補Vのあるプロパーな等位面上において状態方程式が制御系の配位空間に定義するベクトル場に沿ってVをつぎつぎとLie微分していったときに得られる情報を位相幾何学的に解釈することに関係している.本稿は境界接点多様体の基礎理論の前半部分の第一論文である.本稿では,この概念を精密に定義し制御された系に対するPugh-McCordの指数公式との関係を明らかにする.また,漸近安定化問題に関連して状態方程式の散逸境界および中立境界という用語を定義し,その基本的な性質を示す.


■ 状態フィードバック系の境界接点多様体の交叉理論

鳥羽商船・榎本隆二,北大・島 公脩

 状態方程式の境界接点多様体は,微分可能な状態フィードバックによる非線形制御系の大域漸近安定化問題を制御された系の位相幾何学的分類という観点から考察するための概念であって,その標準型は制御系のConley指数ともいうべき性質を備えている.ここで,「大域」という用語は制御された系がベクトル場の複数の特異点をもつことを許して考察するという意味で用いる.本稿は境界接点多様体の基礎理論の前半部分の第二論文である.本稿では,この概念を用いて制御軌道が状態空間上のある関数の等位面に内接するか外接するかを判定する手続きを与える.これを判定することは,制御された系の位相幾何構造を分類する上で基本的な事柄である.フィードバック制御則を制御系の配位空間上で幾何学化したものを入力多様体と呼ぶが,まず,入力多様体上での判定法を明らかにする.つぎに,l次の境界接点多様体と入力多様体との局所交叉数を定義して,この局所交叉数と内外接条件との関係を示す.さらに,入力多様体を具体的に定めることなく制御軌道の内外接を判定できることを示す.本稿で定義する局所交叉数は状態空間の次元が2を越える場合においては,微分位相幾何学的な局所交叉数を制御系に対して拡張したものとなっている.


■ 可変構造マルチレート状態推定器と磁気ディスクのシーク制御への応用

富士通研・大野敬太郎,カリフォルニア大・R. Horowitz

 本論文では,推定誤差のフィードバック構造として,比例,積分,そして可変構造をもつマルチレート状態推定器を提案する.磁気ディスクのように測定サンプリング周波数が物理的に制限されている場合,制御入力をそれより高い周波数で与えることで,より滑らかな制御入力とより高い制御帯域が実現できる.このような制御系に対して,モデル化誤差を考慮し安定性を保証する設計方法が種々提案されているが,それらは必ずしも十分な制御性能を保証するものではなかった.本稿で提案する可変構造マルチレート状態推定器により,モデル化誤差がある場合でも性能に対してロバストな制御系が設計できる.可変構造状態推定器は,可変構造フィードバックが状態推定器内だけで発生するためスピルオーバの問題がもともと少なく,さらにマルチレート化することにより,より滑らかな状態推定が可能となる.また,状態推定器内に積分器を導入することにより,モデル化誤差の不確かさの上界を下げることができ,チャタリングの悪影響を低減できる.提案する設計手法を用いて,磁気ディスクを対象としたシミュレーションおよび実験を行い,有効性を確認した.最後に,短距離シーク制御の実験を行い,制御性能に対して十分ロバストであることを確認した.


■ 統計的価値関数による強化学習とゲーム戦略獲得への適用

立命館大・西川郁子,中西智之

 莫大な数の分割領域あるいは離散状態をもつ問題に強化学習を適用するにあたり,まず複数の近傍状態からなる状態集合に対して行動価値関数を求め,そこから個別状態に対する行動価値関数を統計平均によって求める強化学習手法を提案した.ここで定義する状態集合は,もとの状態数よりは遥かに少数とし,かつ,互いに重なりをもち,各状態に対応する状態集合が複数存在するよう設定する.各状態に対する行動価値関数は,その状態を含む複数の状態集合に対応した複数の行動価値関数に対する統計平均操作によって算出し,それに基づき行動を選択する.提案法を対戦型ボードゲームであるDots-and-Boxesに適用し,問題の特性を生かした状態集合の定義や,行動価値関数の逐次更新法を示した.計算機実験では,おもにミニマックス法との対戦により学習や評価を行い,深度3ミニマックス法に対する約80%の勝率や,主要なレベル0戦略を獲得した.また特に,収益値の分散に応じた加重平均操作によって求めた行動価値関数の有効性を確認した.さらに,定常的な学習課題に対しても,ごく小さな減衰を伴う時系列平均操作により,莫大なエピソード数による繰り返し学習における学習効率を効果的に維持できることを確認した.


■ 状態予測機構を用いた強化学習による運動学習モデル

東工大・井澤 淳,近藤敏之,伊藤宏司

 本論文では強化学習を用いて,筋骨格系からなる生体制御系に対する運動学習モデルを構築した.生体が運動制御を行うためには腕の軌道をなんらかの基準を元に最適化し,さらに対応するトルクを生成するのに必要な筋力についての最適化を行う必要がある.本論文では最適化規範に基づく運動を強化学習を用いて,獲得するモデルを構築した.しかし生体運動制御系は,状態観測にむだ時間遅れを含む.これは学習結果の発散を生ずる.そこで,内部モデルの状態予測に基づいて強化学習を行う手法を提案した.内部モデルは強化学習と同時並行的に学習した.ただし,筋のゆらぎノイズを仮定すれば,モデル化誤差が必然的に生じる.そこで,運動学習の規範としてモデル予測誤差最小規範を提案した.この規範によって滑らかで筋力の総和が少なくなるような運動を獲得することに成功した.有効性は計算機実験によって示した.



[ショート・ペーパー]

■ シンプレックス内のカオス力学系を用いた正規化不等式制約付大域的最適化

慶大・増田和明,相吉英太郎

 カオスを用いた大域的最適化手法に対する研究が,近年さかんに行われている.その本質は,制約条件により定まる有界領域を探索する連続系勾配法モデルを差分化した写像で,サンプリング時間を大きくすることによって生じるカオス軌道を用いて大域的な探索を行いつつ,カオス的アニーリング法によってその軌道を大域的最適解へ収束させることにある.本研究では,制約条件として,非負制約・正規化不等式制約で記述される,シンプレックスで形成される多面体内部を探索する勾配法モデルを新たに提案し,それを差分化して生じるカオスを大域的最適化に応用する.


■ Study on Canceling Intersymbol Interference of Inverse-GPS

Keio Univ.・T. Suzuki, T. Tanaka

 GPS(Global Positioning System)は最新の人工衛星による3次元測位システムである.GPSを利用した測位手法にはいくつか種類があるが,本論文ではその中で単独測位に着目した.単独測位はGPS測位の中で最も簡単な測位方法であり,簡易・安価な装置のみで誰でも利用できる.他の測位手法に比べると精度は落ちるものの,それに増す利便性の高さからさらなる精度向上が期待されている手法である.著者らは単独測位による測位実験を同じ条件で複数回行った.その結果から単独測位の測位結果は測定ごとに真の位置から異なったずれを生じることがわかった(これをシフト誤差と呼ぶことにする).一般にGPSの測位精度を評価する場合に測位結果の分散に着目することが多く,このシフト誤差はほとんど注目されていない.そこで,本研究ではこのシフト誤差を予測し軽減する手法を提案した.本手法では計算機内に実際の受信環境と同じモデルを作り出し,そのときの衛星配置から計算機内でシフト誤差を予測し補正を行った.本手法は一般的なGPS受信機からの出力のみを利用するため受信機以外の機器を必要とせず,ほとんどの受信機に対して簡単に補正を行うことができる.さらに,計算も簡易で済むため受信機に負荷をかけることなくリアルタイムで補正を行うことが可能である.2種類の受信機に対して実験とシミュレーションを行い,全体の8割のデータに対して精度を上げることができ,1点あたり平均で最初に測定されたシフト量の3割の測位精度を改善することができた.また,補正に失敗したデータの多くがシフト誤差の予測値が1m以内に集中していたことから,予測値が1mより小さいものは補正を行わないことにより8割のデータというのはそのままに1点あたり平均で4割の測位精度を改善することができた.


■ M変換を用いるインパルス状雑音除去

熊本大・原田博之,柏木 濶,安藤俊之, くまもとテクノ・椛 一喜

 筆者らはM系列信号をもとにした新たな信号の変換であるM変換を提案し,その性質および線形系の同定への応用について述べた.本論文では,M変換と非線形フィルタを組み合わせて用いることにより,インパルス状雑音および白色性雑音を同時に除去する新たな方法を提案し,シミュレーションによりその有効性を確認した.本論文で提案する方法は,雑音の種類に応じてM変換と種々の非線形フィルタと組み合わせることにより,通常の線形フィルタでは困難な雑音除去が可能であると考えられる.


■ Enhancing the Generation Ability of Neural Networks by Using Gram-Schmidt Orthogonalization Algorithm

Kyushu Univ.・Weishui Wan,  Waseda Univ.・K. Hirasawa, Jinglu Hu

 In this short paper, a new algorithm applying Gram-Schmidt orthogonalization algorithm to the outputs of nodes in the hidden layers is proposed with the aim to reduce the interference among the nodes in the hidden layers, which is much more efficient than Gaussian regularizer method. Simulation results show that the new proposed algorithm can prune the redundant connections quickly, and can obtain an optimal structure of neural networks.


■ 自己組織化型ファジィ強化学習システム

山口大・梅迫公輔,大林正直,小林邦和

 本論文では,試行中に観測された環境の状態を基にその構造が自己組織的に構成される,ファジィネットを用いた強化学習システムを提案する.提案法ではファジィルールやファジィ集合が自動的に生成・統合される.まずシステムはルールが1つもない状態から始まり,環境の状態に対応するファジィルールやファジィ集合が不足している場合に必要なルールやセットが追加され,学習の結果あるルールやセットが類似してきた場合,それらは統合される.その結果必要なルールやセットのみが残るため,設計者がルールやセットの数を事前に決定する必要がなく,またむだが生じないため少ない資源で学習が可能である.また,ルールの前件部や後件部は確率的傾斜法により学習されるため,学習環境がマルコフ決定過程に限定されず,また事前知識によりルールを作成しておく必要がない.さらに,本論文では効率的な非連続値行動選択法を提案し,少ない試行回数での学習を可能にする.実験では,非マルコフ環境の例題としてKheperaロボットを用いた行動実験を行い,提案法の有効性を示す.その結果,提案法はシステム設計者に対する負担が少なく,高速な学習が可能であることが明らかになる.


 
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