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 論文集抄録
  

論文集抄録

〈Vol.39 No.5(2003年5月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[論  文]


[論  文]

■ 相関関数のウェーブレット変換とスペクトル密度の関係

東大・田原鉄也,新 誠一

 本論文では相関関数のウェーブレット変換の性質についてスペクトル解析の観点から論じる.まず,相関関数のウェーブレット変換の基本的性質をスペクトル密度との関係として導く.この関係から,アナライジングウェーブレットを適切に選ぶことにより,相関関数のウェーブレット変換をスペクトル密度の推定値として扱えることがいえる.そしてその推定値の真値からのバイアスも与えられる.さらに,このバイアスを減らすようなアナライジングウェーブレットの選択についても考察する.その結果,相関関数のウェーブレット変換を応用する際にスペクトル密度との関係を明確にしたい場合,アナライジングウェーブレットを正弦波と窓関数の積にとることが望ましいことが示される.これはむだ時間推定や時変システムの同定といった応用でガボール関数を用いることに妥当性を与えている.


■ 信号伝播モデルに基づく電磁波レーダによるコンクリート構造物の非破壊検査

山口大・田中正吾,三菱エンジニア・山田 実

 トンネル,橋梁など多くのコンクリート構造物に対し,老朽化による剥離などの事故がしばしば見受けられる.これらに対する診断法としては,これまで打音法,赤外線法,X線法,超音波法などの検査法が種々試みられてきたが,これまでの方式では種々の欠点があり,信頼度が低かった.
 そのため,著者らは先に,超音波センサを用いることを前提に,超音波センサの波長に応じ,多重反射波モデルあるいは定在波モデルを活用した診断法を開発し,その有効性を報告した.しかしながら,これらの方法では,適用に際し超音波センサをコンクリート壁にくっつける必要があり,そのため面積が小さい検査対象であれば問題がないが,トンネルのように検査対象面が広いものに対しては,時間がかかりすぎる.一方,このようなものに対し時間を短縮し稼働率を上げる方法としては,電磁波レーダを用いる方法がよく知られているが,これまでの電磁波法では,受信電磁波強度の時空間的チャート(濃淡画像)を目視でみることにより非破壊検査を行っていたため,信頼度の低い結果しか得られていなかった.
 そこで本論文では,コンクリート中での電磁波の伝播特性を積極的に活用することにより,クラック等の異常箇所からの受信信号波形の予測波形を作り,これと実際の受信信号波形とのパターンマッチングを行い,これによりクラックや空洞の有無の検出およびこれらの位置(空洞の場合はその厚みも)の計測を行う高信頼度な非破壊検査手法を提案する.そして最後に,実験により,クラックが深さ方向に複数あっても,あるいはクラックと空洞が深さ方向に並存しても,これらの位置および厚みが高信頼度・高精度に検出・計測できることを示す.


■ マイクロホン感度の単一指向性を利用する簡易型3次元音源定位

新潟大・岡田徳次,高橋真之,日本精機・佐藤秀幸

 本論文は,3次元空間にある可聴音源を簡単に定位する方法を述べる.この方法として,一般に音の伝播時間,位相,音圧レベル.等の違いが利用される.提案する方法は,音源を簡単な信号処理で定位するために.コンデンサマイクロホンの単一指向性に着目し,音圧レベルの差を利用する.音圧レベルは,基本的に所定の間隔を有する2つのセンサタワーで収録される.各タワーは,全方向からの音を観測するために四面体の頂点位置に配列される.音源位置を算出するための演算手続きを明らかにする.また,この手続きの妥当性を実証するための装置を試作し,実測する.結果は,たとえば,距離5mにある音源に対し,角度誤差0.22rad以内,距離誤差1.2m以内である.このような結果は誤差解析によってが妥当であることを示す.本法の計測精度改善の限界についても明らかにする.


■ ジャイロ式力(フォース)測定器の試作

九工大・児玉一裕,小山高専・袈裟丸智英 大和製衡・安達元之,山武ビル・神村一幸 小山高専・黒須 茂

 本研究では3次元空間に加わる力をベクトル的に測定するジャイロ式力測定器の開発を目的としている.すでにジャイロ式力測定器(以下単にGFMSとよぶ)の力学的解析と誤差解析をシミュレーションにより考察し,誤差の限界と力測定器としての実現可能性について明らかにしている.
 本報告では,GFMSの実用化への第1段階として,力の入射方向を推定するサーボ機構の部分を除いた力測定器のみを備えたGFMS本体を試作し,力測定器としての基本特性を検討している.
 その結果,つぎのことを明らかにしている.
 (1) 入出力特性に不感帯があるものの,力測定器としての特性は実計測範囲(0.2〜0.6[N])において線形性が満たされ,ほぼ満足である.
 (2) 微小な力測定であるために,感度を上げるために角運動量を小さく設計している.そのため,出力軸まわりの不平衡質量の影響により,測定データに定常振動現象が出現した.その振動数と出力回転数との関係を明らかにしている.
 (3) 微小な力測定器として機能させるために,構造上に限界があり,今後解決しなければならないGFMSの問題点を明らかにしている.


■ Robust Feedback Control for Nonlinear Systems with Uncertain Input Dynamics and Unknown Control Direction

Sophia Univ.・Xiaohong JIAO, Tielong SHEN  and Katsutoshi TAMURA

 本論文は入力側に制御方向が未知でかつ動的な不確かさが存在する非線形系に対して,状態フィードバックによるロバスト安定化とL2ゲイン型ロバスト外乱抑制問題の一解法を与える.
 本論文で考える動的な不確かさは最小位相特性をもつとし,不確かさの零ダイナミックスはある種のISS条件を満たすものとする.まず,動的な不確かさに伴う制御方向が未知の場合,Nussbaum型適応ゲインを導入することによって,ロバスト安定化補償器を構築することが可能であることを示す.ここで提案する補償器は,座標変換と積分器直列構造に基づいて,Babalat補題の条件を満たす正定関数を構築することによって得られる.またこの手法は高次の系に対しても,一定の条件のもとで拡張できることを示す.つぎに,この設計手法を拡張して,有界外乱入力に対するL2ゲイン型ロバスト外乱抑制性能を考慮した,ロバスト安定化補償器の構成手法を与える.最後に示した数値例はここで提案したロバスト安定化補償器の設計手順とその有効性を示す.


■ 通信容量制約のあるサンプル値制御系の最適設計

京大・藤岡久也,伊藤健作

 本稿ではNCS(Networked Control System)において現れる通信容量制約のもとで系を内部安定化し性能を最適化する補償器の設計法を提案する.NCSにおける情報伝達はシリアル通信により行われるため,補償器が同時にアクセスすることができるアクチュエータおよびセンサの数は制限され,NCS設計における独特の困難となる.この通信容量制約に対する従来研究は安定化問題のみで,制御性能に関する議論はなかった.そこで本稿では,まずNCSの性能を適切に評価するために系を離散時間周期系を含むサンプル値制御系とみなし,設計問題を誘導ノルムの準最適化問題として定式化する.結果として,性能を準最適化する周期的な離散時間補償器が存在するための必要十分条件となるLMIを導出し,補償器の構成法を与える.


■ サンプル値区分的アファインシステムの可制御性

東工大・東 俊一,井村順一

 近年,連続ダイナミクスと離散ダイナミクスが混在したハイブリッドシステムを対象とした研究が活発に行われているが,システム制御の分野では可制御性の検討が基礎的な研究課題のひとつとなっている.特に,区分的アファインシステムに代表される事象生起が自律切換えによって生じるシステムに対しては,いくつかの論文で,可制御性判定の難しさが指摘されているだけで十分な研究が行われているとは言い難い.
 これに対し,本論文では区分的アファインシステムのひとつのクラスであるサンプル値区分的アファインシステムの可制御性の検討を行い,連続/離散時間と連続/離散状態という4つの観点から,連続状態可制御性,モード可制御性,ハイブリッド状態可制御性,サンプル値可制御性の4つを定義した.そして,これらの相互関係を明らかにし,バイモードの場合とマルチモードの場合に分けて,それぞれの具体的な判定方法を与えた.本論文の結果は,事象生起が自律切換えによって生じるハイブリッドシステムの可制御性に対して,解析的な結果を初めて与えたもので,他のハイブリッドシステムの可制御性を検討する上においても,基礎的理論のひとつとなるものと考えられる.


■ サーボ系における定常応答の最適化

名工大・加藤久雄,不破勝彦

 サーボ系は,定常状態において制御量と目標値とを一致させる制御系であり,これまでに数多くの制御系設計法が提案されてきた.その場合,制御対象はその入出力数が同数の場合がほとんどであり,定常状態における制御対象の状態と入力は,サーボ系が構成できるための必要十分条件から一意に定まる.しかしながら,制御対象の入力数が出力数よりも多い場合,サーボ系が構成できるための必要十分条件から定常状態における制御対象の状態と入力は一意には定まらずある自由度が存在する.
 そこで,本稿では制御対象の入力数が出力数よりも多い場合において,LQ最適制御に似た評価関数のもとで定常状態における最適な制御対象の状態と入力を決定する方法を提案する.評価関数は適当な重み行列をかけた定常状態に関する状態と入力の2次形式をとり,それを最小にする定常値とサーボ系のフィードフォワード項を解析的に求める.得られた結果は,定常的な入力の大きさを抑えたり,定常状態の振幅を小さくできるといった,LQ最適制御に似た意味での定常特性の改善を図るものとなる.


■ Q-パラメータアプローチによる連続鋳造機鋳型内湯面レベル周期性変動の制御

住友金属・北田 宏

 安定化補償器のパラメトリゼーションに基づく,制御系の周波数整形を目的としたコントローラ設計方法を提案する.本設計によるコントローラは,制御系を安定化する初期コントローラと,制御対象モデル伝達関数の既約分解,およびパラメータ伝達関数から構成される.初期コントローラによる制御系の感度関数周波数整形を,パラメータ伝達関数のモデルマッチング問題を用いた設計問題として定式化した.本手法により,連続鋳造機鋳型内湯面レベルの周期的変動抑制を目的とした制御系を検討した.制御系周波数特性の数値例,制御シミュレーション結果および,試験鋳造機による実機試験の結果を用いて本手法の効果を示した.


強化学習による個性・社会性の発現・分化モデル

大分大・柴田克成,本田技研・上田雅英,東工大・伊藤宏司

 マルチエージェントシステムにおいて,利害の衝突回避のために個性と社会性が発現するという考え方を提唱した.エージェントごとに異なった入出力間のマッピングを行うことによって相手と異なった行動をし,利害の衝突を回避する場合に,そのエージェントは「個性」をもっていると定義した.一方,エージェント間で入出力のマッピングが同じで,入力の差に基づいて異なった行動をすることで衝突を回避する場合に,そのエージェントは「社会性」をもっていると定義した.そして,この考えに基づき,個々のエージェントが単に自らが獲得した報酬に基づいて強化学習を行うだけで,個性や社会性が発現し,利害の衝突が回避できることを示した.また,われわれの社会を振り返ることにより,個性と社会性に分化する要因として,環境の非対称性,エージェントの数と相手の特定,個体間の物理的能力差を挙げた.最大エージェント数6の電車の乗り降りのシミュレーションを通して,非対称環境における降車優先のルール(社会性)の形成を確認した.また,上記の分化要因によって,同一学習アルゴリズムの下で適応的に個性と社会性に分化することを確認し,その分化の仕方は,われわれの社会における分化から考えて合理的であった.


■ 変分法的ベイズ推定法に基づく正規化ガウス関数ネットワークと階層的モデル選択法

科技団・吉本潤一郎,奈良先端大・石井 信 ATR・佐藤雅昭

 本論文では,正規化ガウス関数ネットワークに対する新しいモデル選択手法を提案する.提案手法では,モデルパラメータに対する階層的事前分布を導入し,変分法的ベイズ推定法に基づく学習を行う.このときに計算される自由エネルギーは最適モデル構造を決定するための評価基準として用いられる.また,階層的なモデル選択法を導入することによって大域的なデータ分布を考慮したモデル構造探索が行われる.本手法を関数近似問題と非線形力学システムの同定問題に適用したところ,既存の手法より良い性能を示した.


■ Function Approximation Using LVQ

Kyushu Univ.・Shon Min KYU, Jun-ichi MURATA and Kotaro HIRASAWA

 Neural networks with local activation functions, for example RBFNs (Radial Basis Function Networks), have a merit of excellent generalization abilities.
 When this type of network is used in function approximation, it is very important to determine the proper division of the input space into local regions to each of which a local activation function is assigned. In RBFNs, this is equivalent to determination of the locations and the numbers of its RBFs, which is generally done based on the distribution of input data. But, in function approximation, the output information (the value of the function to be approximated) must be considered in determination of the local regions.
 A new method is proposed that uses LVQ network to approximate functions based on the output information. It divides the input space into regions with a prototype vector at the center of each region. The ordinary LVQ, however, outputs discrete values only, and therefore can not deal with continuous functions. In this paper, a technique is proposed to solve this problem.
 Examples are provided to show the effectiveness of the proposed method.


 
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