著者らが過去に実系の制御器設計を行ってきた方法を非線形分離制御法の形で整理して,その非線形分離制御法をもとに非線形のきわめて強い適温適量水循環式瞬時供給システムの制御器設計を行い,望ましい制御性能をシミュレーションと実験で確認した.非線形分離制御法の基本的考え方は,非線形ダイナミックシステムの制御器設計において,非線形スタティクス部分を分離して,残りのダイナミクス部分を線形あるいは弱い非線形ダイナミクス系とみて,その部分に制御理論を理想的に適用するものである.適温適量水循環式瞬時供給システムは所望の温度の水を適量なだけ瞬時にしかも長時間の間供給する熱源システムで,このシステムは海洋温度差発電の実験プラントにおいて熱交換器の特性試験を行うときにとくに重要な役割を果たす.しかし,このプラントには2つのポンプによって供給される温水量と冷水量の間に強い干渉があり,非線形性の強い系である.このプラントに対して,非線形分離制御法に基づいた制御器設計を行い,実験を行ったところ,所望の流量,所望の温度が変化したときにおいても,遅れなしに所望の温度と流量の供給が可能となった.本方法は,本プラントのみならず現実に存在する多くの系の制御器設計法として,広く有効に利用できるものと思われる.
ランダムサーチの一種である新しい最適化の手法として,Likelihood
Search Method(L.S.M.)が提案され,その有効性がすでに報告されている.L.S.M.は,微分情報を活用し,探索の集中化と多様化を統一した枠組みで実現する手法である.
本論文は,先に提案されたL.S.M.につぎの2つの改良を施した改良版L.S.M.についての提案である.
[改良1] 既提案のL.S.M.では学習パラメータの変更は評価値の改善があったときのみであるのに対し,本提案では評価値の改善の有無にかかわらず探索のつど変更する.ただし,それまでの最適評価値を実現する学習パラメータは記憶する.
[改良2] 無限大の変更等の無用な探索を探索範囲から除外する.
以上の改良を施したL.S.M.を用いて,ニューラルネットワークの学習においてB.P.M.とL.S.M.との最適評価値探索能力の比較を行い,L.S.M.が通常用いられているB.P.M.よりも良い結果が得られることを明らかにする.
シミュレーションでは,階層型ニューラルネットワークを使用した,非線形関数実現問題を考え,通常のB.P.M.,モーメント法によるB.P.M.とL.S.M.の最適評価値探索能力を比較検討した.その結果,L.S.M.は探索の集中化と多様化の能力により,通常のB.P.M.,およびモーメント法によるB.P.M.より,学習速度,学習性能の点ですぐれていること,また今回提案のL.S.M.の改良は非常に有効であることを確認している.
- ■ 広視野Head Mounted Display開発のための周辺視における両眼知覚特性の解析と視差設定法の提案
山口大・呉 景龍,立命館大・中畑政臣,川村貞夫
HMD(Head Mounted Display)は人工現実感(Virtual
Reality)工学において幅広く応用されつつある.ところが,それらのHMDでは両眼視差が視野の全領域にわたって均等的な値を設定しているので,広視野HMDを構築するときに種々の問題が生じると予想される.本研究では,広視野HMDの視野中心から周辺にわたって自然な立体感を実現するため,周辺視における両眼奥行知覚特性と両眼明るさ知覚特性を測定する.測定結果より,両眼立体感度および両眼明るさ感度は網膜中心窩より周辺に移るに伴い低下することが示される.ただし,両眼奥行感度に比べ,両眼明るさ感度の低下はかなり緩やかである.
この結果は,広視野HMDを設計するとき網膜周辺に映る映像に視差を設定する必要がないことを示している.しかし,逆に大きな視差を網膜周辺に与えると映像が立体的に見えずに二重に見える問題点を確認した.そこで,広視野HMDの両眼視差を適切に設定するため,実験結果の解析より両眼奥行知覚特性の数理モデルを示し,そのモデルを用いて,広視野HMDのための視差設定法を提案した.提案した方法では,眼球の運動にしたがって視差重みウィンドウが移動し,常に適切な視差が設定される.
- ■ 海上ニアミス回避システムのための赤外画像からの船種の判定
日大・佐藤祐司,石井引允
近年,内海や沿岸部における船舶交通量の増加にともない,船舶同士の衝突事故防止が,船舶の安全運航上の重要な課題となっている.そこで筆者らは,現在,操船者が目視観測で取得している相手船の情報を,赤外画像から取得し,これをレーダ情報と複合して使用する船舶衝突防止システムの研究を進めている.これまで赤外画像の処理により船舶画像の抽出と,画像情報に基づく相手船運動の計測ならびに危険度の評価について研究を行ってきた.
今回,船舶の操船において重要な相手船の船種の識別のために,赤外画像の情報処理からの船種を判別する方法について検討を行った.
船種の判別には,船舶の3次元グラフィックスモデルから船舶画像の特徴パラメータを算出し,この特徴パラメータによって学習させた階層型ニューラルネットワークを用いた.このニューラルネットワークによって,赤外画像から抽出した船舶画像について船種の判別を試みた結果,船種の判別が可能であるとの見通しを得た.
この赤外画像からの船種の判別は,船舶衝突防止に有効であると考える.