不確かさがゲイン有界な摂動関数として表現される場合,非線形系のロバストH∞準最適性は,摂動関数を含むHamilton-Jacobi不等式の正定解の存在性によって保障されるが,不確かな摂動関数を含んでいるためにその解を求めることは不可能である.そこでそのような正定解が存在するための十分条件は適当なスケーリング関数をもつHamilton-Jacobi不等式が正定解をもつことが示されていたが,この論文ではその必要性が示された.すなわち,摂動関数を含むHamilton-Jacobi不等式が正定解をもつための必要十分条件は適当なスケーリング関数が存在して摂動関数をもたないHamilton-Jacobi不等式が正定解をもつことである.この結果は線形系のロバストH∞準最適性に関連するRiccati不等式に関する結果も含んでいる.
回帰型線形システムyt=χtTθt+etの未知パラメータベクトルθtを追跡するための適応アルゴリズム性能は,適応ゲインktの調整と密接な関係がある.このゲイン調整を行う一般的な方法は,ゲイン調整用パラメータをqとするとき,ytの予測誤差εt(q)の2乗平均C1(q)=E{εt2(q)}を最小にするようにqを選定することであり,dV1(q)/dq=Oが数値的に解かれる.このときに問題になるのがV1(q)は極値ではなく,最小値に達するかどうか,ということである.
本論文は,実行可能で,しかもV1(q)が漸近的に最小になる意味で最適な適応アルゴリズムを提案するものである.それは,dV1(q)/dq=Oを数値的に解くのではなく,あらかじめゲインkt-1(q)によって最小化がなされている量rt(q)を用いて,E{εt2(q)}=定数×E{rt(q)}となるようにqが設定されている.このようなqは,次式を最小化することによって得られる.
V(α)=E{εt2(q)σ2rt(q)+logσrt(q)},α=[qTσ2]T
このとき,V1(q)も漸近的に最小になり,この意味で,適応アルゴリズムは漸近的に最適になることが示される.
- ■ 拡張2次形式リアプノフ関数による非線形状態フィードバック制御の構成法
―線形行列不等式による凸解析アプローチ―
早大・佐々木清吾,内田健康
われわれは先に,入力アフィン多項式非線形システムの内部安定性とL2ゲインを解析するための新しいアプローチを提案した.そこでは,拡張2次形式リアプノフ関数を用いて,状態に依存する線形行列不等式の形式で可解条件を導き,状態の許容領域を凸包で囲みその端点で条件を解くことによって,その条件を厳密に解くことを可能とした.
本論文で,このアプローチを内部安定性と拡張2次形式評価関数の有界性を保証する状態フィードバック制御の設計に適用し,その可能性をらかにする.拡張2次形式リアプノフ関数を用いて制御則の構成条件を導出する.この条件は状態依存双線形行列方程式を含むため,先のアプローチを適用することができない.そこで,つぎに,この構成条件を状態依存線形行列不等式のみに変換する可能性を検討し,先のアプローチがそのまま使える1つの十分条件を与える.最後に,数値例を用いて,先に提案したアプローチが状態フィードバック制御の設計にも有効であることを示す.
- ■ システムASPR化する一手法
阪府大・李 徳宇・柴田 浩,藤中 透
システムのASPR(Almost Strictly Positive
Real)性はSAC(Simplified Adaptive Control:簡易型適応制御)の漸近安定性を保証する重要な条件である.しかし,ASPR条件は現実のシステムにとって非常に厳しい制限であり,これを緩和するために,プラントに並列にフィードフォワード補償要素を挿入してASPR化をはかる方法がある.それは,定数出力フィードバックにより安定化可能なプラントに対してはその定数ゲインの逆行列,定数出力フィードバックにより安定化不可能なプラントに対してはプラントを安定化する補償器の逆システムをフィードフォワード補償要素として用いるものある.
本論文は定数出力フィードバックにより安定化不可能なプラントを扱い,これをASPR化する方法を提案する.これは,ダイナミクスをもつフィードフォワード補償要素を用いる従来法に対して,プラントと補償要素との合成系を定数出力フィードバックにより安定化可能にし,この定数ゲインの逆行列をASPR化のためのフィードフォワード補償要素として用いるものである.こうすることにより,補償要素はフィードバック補償,並列補償,直列補償という3つのうちのいずれによっても実現可能となる.