「古い学術界を変える時だ」
(2002年2月10日付け毎日新聞社説)

「古い学術界を変える時だ」 横断型研究

これまでの学問があまりにも専門化、細分化し弊害が出てきた反省から学問の再編・統合や知の再構築が叫ばれている。

学者の新たな動きもあった。横断型研究開発の重要性を述べた提言が政府の総合科学技術会議(議長・首相)に出されたのだ。

提言をまとめたのは計測自動制御学会、システム制御情報学会、日本ロボット学会、人工知能学会など工学系が中心の12学会。

大学の工学は土木、機械、電気工学など19世紀以来の垂直型研究が幅を利かせているが、個別技術が成熟した現在は、横断型の研究を推進することが緊急課題だと指摘している。

具体的にはシステム工学、制御工学、ロボット工学、技術倫理など普遍性が強い横断型研究に多くの研究費を出してこそ技術の新しい方向を先取りできるという。

提言を受け同会議は02年度の科学技術振興調整費(文部科学省)の配分でそうした政策提言のための研究を優遇することになった。学会と企業が横断型研究を進める組織を作る動きもある。

横断型研究を必要とするのは工学系にとどまらないが、これまでも学際的研究などの重要性が声高に語られた時期があった。それでも新しい芽は育たなかった。

だが、90年代に入って科学技術が社会や人間に与える影響が無視できなくなった。地球環境問題、生命倫理問題、超高齢社会の到来など従来の学問分野では対処できないテーマが出現している。

そこで学問の融合、再構築の必要性が改めて言われだした。日本学術会議は環境問題などをテーマに異分野の学者が参集し、我々や未来世代が被る負の側面も予測して排除しようという俯瞰型研究プロジェクトを提案した。

自然科学ばかりか人文・社会科学の学者までを結集した文理融合も大きな課題となっている。そして横断型研究の提言であり、学術界の古い体質を打ち破ろうとする動きを歓迎したい。

だが、縦割り行政など日本では社会が縦に分かれる傾向が以前強い。大学は縦割りの学問分野のままだ。垂直型学会が勢力をもち、産業界も垂直型文化が根強い。

文科省の科学研究費の配分では総合領域が考慮され始めたが、ほとんどは垂直型の枠組みに沿って与えられる。俯瞰型や横断型研究が市民権を得る状況にない。

行政や大学、学会がこうした古い殻を破り、真剣に改革に取り組む必要がある。政府は研究費配分に当たって横断型研究を垂直型と対等に扱うなど、体系的な製作で社会基盤を確立すべきだ。

国立大学は学部や研究科の再編など改革の先頭にたってほしい。個々の学者の意識改革も欠かせない。今後は複数の専門分野と視野をもち、「専門ばか」から抜け出した人材が必要になる。

欧米では以前から横断型研究やソフトを重視している。日本も方向転換を果たし、環境問題など難問題の解決や、産業競争力の向上による産業の立て直しにつなげていくことが求められる。