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論文集コーナー

論文集抄録

〈Vol.38 No.11(2002年11月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[論  文] [ショート・ペーパー]
■ 自転車のハンドル回転剛性に及ぼす手先力の効果

上越教育大・黎 子椰,シャープ・久保敬司 立命館大・川村貞夫

 従来から自転車の安定性を満足させるために,車体のフレーム,ハンドルから,ハンドルの握り方,乗車姿勢までの多くの要因が検討されてきた.しかし乗員の腕とハンドルの間の操作力についての検討がきわめて少なかった.そこで,本研究では自転車が直進するときにハンドルを操作する問題を取り扱い,手先の操作力および人間の力学特性(腕,胴体の剛性)がハンドルの回転剛性に与える影響に着目する.まず疑似逆行列を用い,乗員の前腕,上腕および胴体の片側より構成されている3リング機構における内力剛性の解析を試みる.つぎに市販のスポーツ自転車を想定し,坂道および平地走行時におけるハンドルの回転剛性すなわち内力剛性と筋力剛性が加わった状態を計測し,腕の内力とハンドル回転剛性との関連を検討する.剛性解析および計測の結果から,(1)通常走行の場合,内力から生じる剛性の大きさは,腕と胴体の筋肉から生じる剛性に比べても同じ程度の値である.(2)通常自転車に乗るときにはハンドルを押す方向の内力が働き,内力はハンドルの回転剛性を低下させることがわかった.最後に,(1)と(2)により,ハンドルを押す方向の内力を体を支えることによって減少させ,内力を回転剛性の増加に有効に利用できる自転車を提案し,その有効性を実験より確認した.


■ スポーツフォームの運動解析と計測―ゴルフドライバースイングフォームの計測―

法政大・穂苅真樹,渡辺嘉二郎,栗原陽介,瀬川友輔 ミズノ・鳴尾丈司

 スポーツに対する科学的アプローチは,スポーツにおける諸課題を合理的に解決する一方策である.その第一歩は対象の数量化というべき「計測すること」である.本論文では一事例であるスポーツフォームの計測,特に高速な回転運動を含み動きが複雑なゴルフドライバースイングにおけるフォームの計測法と計測システムについて考える.
 従来のフォーム計測は加速度センサ,フォースプレートや高速度カメラを利用したDLT(Direct Linear Transform Method)で並進運動を計測し,逆問題アプローチで回転運動を求めていた.逆問題は,非線形方程式を取り扱うため,多くの計算処理が必要である.
 本論文では,新たに3次元ジャイロセンサを用いる方法を提案した.この方法は回転運動を計測により求め,リンクモデルのもとで運動学を適用し容易に取り扱える順問題を解くことで並進運動を求めるものである.以下の結果が得られた.
(1)ヒトのドライバースイングフォームを12本の剛体棒を接続したリンクモデルで表現した.
(2)リンクモデルのもとで,フォームの3次元回転運動を計測する方法とオイラー変換による3次元並進運動を計算する方法を提案した.
(3)3次元ジャイロセンサをベースとする計測システムを構築した.
(4)実際のゴルフドライバースイングに適用し,本計測法と計測システムの妥当性を確認した.
(5)本計測法とシステムの応用例としてゴルフスイングにおける腰,肩,頭の運動に関する言語表現による規範が定量化できる可能性を示した.


■ 弱電解液を用いた独立型二足歩行ロボット用姿勢センサユニットの研究

広島工大・白井義人,北山正文

 本論文では,すでに提案している水銀を用いた姿勢センサは,電気的特性は優れたものであるが,環境問題を発生する可能性があるので,水銀スイッチ機能の代わりに,弱電解液を用いた姿勢センサを提案することにした.
 はじめに,白金点状電極と弱電解液液面の相対的位置関係による電気的特性を把握し,弱電解液の液面を複数の点電極を用いて検知する場合の信号処理手法を検討した.
 また,本姿勢センサは,静的状態における液面状態から姿勢を検知するものであるから,水銀と弱電解液の違いによって液面が動的状態から静的状態になるまでの時間の違いを把握するためのシミュレーション手法を提案した.
 このシミュレータを用いて,液面がどのように挙動するかをシミュレーションし,実験による確認もし,あらためてセンサフュージョンの検討をした.
 これらの検討結果を用いて,弱電解液を用いた姿勢センサを試作し,2個の振動型ジャイロと姿勢センサを組み合わせたセンサユニットとしての実験をし,弱電解液を利用した姿勢センサの有効性を立証した.


■ 周波数解析に基づく超音波センサによるコンクリート構造物の非破壊検査

山口大・田中正吾,湧永智幸

 トンネル,橋梁など多くのコンクリート構造物に対し,最近,コンクリート剥離による事故がしばしば見受けられる.このため,さまざまな検査手法の開発が試みられているが,いまだ確固たる異常診断手法は開発されていない.このようなことから,著者らは先に多重反射波モデルを用いた超音波センサによる非破壊検査手法を開発したが,この手法は時間領域の手法であった.しかしながら,この手法は基本反射波形を作る上でパラメータ調整が必要など,煩わしい面があった.
 そのため本論文では,多重反射波モデルの枠内ではあるが,実際的な適用のしやすさを考え,周波数領域の検査法を検討し,超音波センサの出力信号の周波数スペクトルの自己相関関数のピーク位置を用いてクラック等の検出・位置計測を行う非破壊検査手法を提案した.そして実験により,浅い箇所から500mm程度の深い箇所までの(コンクリート表面に平行な)面性状クラックを,低周波数の超音波センサひとつで比較的高精度に検出できることを示した.
 さらに,コンクリート表面に平行なクラックだけでなく,斜めクラックや鉄筋の背後のクラックも,周波数スペクトルの自己相関関数のピークのパターンを識別することにより,それらの検出および位置計測が可能になることを示した.また,本手法は,クラックの検出・位置計測だけでなく,コンクリート構造物のメンテナンス上の重要項目のひとつでもある“鉄筋のかぶり”(つまりコンクリート表面から鉄筋までの深さ)計測にも応用できることを示した.


■ Realization of the Triple-Points of Equilibrium Hydrogen and Equilibrium Deuterium

AIST・Tohru NAKANO, Osamu TAMURA and Hirohisa SAKURAI

 平衡水素三重点と平衡重水素三重点を密封セルにより実現した.平衡水素三重点の実現にはわれわれが新たに設計・開発した密封セルを使用し,平衡重水素三重点の実現にはイタリアの標準研が製作した密封セル使用した.水素の同素体(オルト水素・パラ水素)の平衡状態(平衡水素)を低温で迅速に得るためには触媒が使用される.その触媒と水素との相互作用により,平衡水素三重点近傍の温度では熱異常が誘起されることがすでに報告されている.本論文ではその熱異常の大きさと触媒の量との間に定量的な相関関係があることを見出した.また,すでに開放型セルにより指摘されたように,触媒の量を減らすことにより熱異常が抑制され平坦な融解曲線が得られることを密封セルでも確認し,平衡水素三重点を高精度に実現するためには触媒の減量が有効であること明らかにした.一方,平衡重水素三重点でも,平衡水素と同様に,重水素の同素体の平衡状態を得るための触媒と重水素の相互作用により平衡重水素三重点近傍の温度で大きな熱異常が誘起されることを明らかにした.その熱異常のため,平衡重水素の融解曲線は大きく湾曲してしまう.平衡水素の結果を加味すると,平衡重水素三重点をより高精度に実現するためには,触媒をもっと減量する必要があると考えられる.


■ 高齢者転倒防止能力の足指間圧力計測による推定

東京電機大・山下和彦,斎藤正男

 高齢者の転倒予防が広く求められ,転倒防止のために下肢筋力を調べる簡易な方法が望まれる.本研究では,高齢者下肢機能の簡易な評価を目的として,足指間圧力測定器を開発した.足指間圧力は,足母指と足次指の挟力である.本論文では,足指間圧力測定器の有効性と実用性を示すために,解剖学的知識と筋電図,一般的身体機能測定法を比較した.足指間圧力計測器の計測原理は,握力計に類似した機構を用い,足母指と足第2指より入力された力は機械的な機構を介して表示部に作用する.足指間圧力は足部の屈筋群の協調作用により力を生じる.153名の対象者について一般的に地域で測定されている下肢筋力,柔軟性を測定,比較し,足指間圧力との関係を調べた.その結果足指間圧力は下肢筋力を評価できることがわかった.以上により,提案した方式は高齢者下肢機能を定量的に評価し,実用上有効なことが示された.


■ 外部分析と独立成分分析を用いた統計的プロセス運転監視

京大・加納 学,田中章平,丸田 浩, 長谷部伸治,橋本伊織 神戸大・大野 弘

 測定変数が強い相関をもつプロセスを対象とする場合,品質管理や異常検出を行う手法として多変量統計的プロセス管理(Multivariate Statistical Process Control; MSPC)が有効である.化学プロセスには非常に多くの測定変数が存在するが,測定データからプロセスの運転状態を決める本質的な変数を抽出し,それらを監視することができれば,運転監視性能を向上させることができる.この考えに基づいて,本研究では,独立成分分析に基づく新しいMSPC手法を提案する.さらに,ロード変更などの運転条件の変化に対応可能なMSPC手法を実現するために,外部分析の利用を提案する.外部分析とは,運転条件を表す変数が他の測定変数に与える影響を除去する統計的手法であり,外部分析とMSPC手法の併用によって,運転条件の変更にも対応した異常検出が可能となる.連続撹拌槽型反応器プロセスなどのシミュレーションデータを用いて提案法の有効性を検証した結果,一変量SPCや主成分分析に基づくMSPC手法に比べて,提案法が優れた異常検出性能を有すること,運転条件の変更に対応可能であることが確認できた.すなわち,運転条件の変更を伴う複雑なプロセスを監視対象とする場合でも,外部分析と独立成分分析を用いるSPC手法は有効である.


■ 自律移動ロボットによる教示情報の理解

名古屋工研・井谷久博,三重大・古橋 武

 本論文では,人間の理解過程をモチーフとして,ロボットによる教示の理解過程について考察した.教示者が想定したものとは異なる環境下で行動する自律移動ロボットによる教示情報の理解について考察を行い,教示情報を接地することを理解の第1段階と捉え,ロボットが未知の状況でも速やかに学習できる情報(コツ)を教示情報から捉えることを教示情報の理解の第2段階と捉えた.シミュレーションを行い,得られた入力情報の選択頻度から,未知環境における再学習に有効な入力情報を知ることができることを示した.


■ Multi-Objective Optimization in Terms of Soft Computing

Toyohashi Univ. of Tech.・Yoshiaki SHIMIZU and Atsuyuki KAWADA

 近年,多様な価値観のもとで迅速で柔軟な意思決定を支援できる多目的最適化手法の開発が求められている.その際の合理的規範としてのパレート最適性を満たす解集合の導出のために多目的遺伝アルゴリズムの適用が盛んであるが,工学的問題解決にとっては,意思決定者(DM)の選好上の最適解を唯一求めることが最終的に望まれる.本研究では,従来の多目的最適化手法がもつ問題点を解消する新たな解法を提案する.その手順においては,まずDMにとって,直接的な判断よりも相対的な判断の方がはるかに容易であることに着目し,AHPで用いられている一対比較による選好情報に基づいてニューラルネットワークにより価値関数の同定を行う.これによって,当初の多目的最適化問題は得られた価値関数のもとでの単一目的の最適化問題に変換されるため,ついでその最適化を通じて選好最適解を求める.同定された価値関数は陽に表現された関数形をもたないものの,決定変数に対する関数値を安易に計算できる.このため評価関数値のみを用いる手法のみならず,評価関数の微分量が必要となる場合にも数値微分を用いることで対応でき,結局のところ当該問題にとって最も適する最適化手法を選択して適用できる.
 本手法においてDMは,選好に関する判断を探索過程とは独立して自己のペースでが行え,かつ求められる判断も単純で相対的であるため,容易にかつ効率的に種々の多目的最適化を行うことができる.また手法自体についての深い知識も不要である.応用例として,最適化手法として非線形計画法を用いる機械設計問題を取り上げてその有効性を検証する.


■ 神経修飾機構を有するCPG回路モデルを用いた歩行生成

名古屋大・藤井亮暢,石黒章夫 チューリッヒ大・Peter Eggenberger Hotz

 生物の適応的な運動に焦点を当て,神経回路モデルを用いて運動を生成する研究が近年活発に行われている.この適応的な生物の運動は,中枢神経系に存在するCentral Pattern Generator(CPG)と呼ばれる発振器によって生成されていることが知られている.この知見に基づき,CPG回路を用いた歩行生成・制御の研究が多数報告されているが,そこで用いられているCPG回路の構造は,基本的にモノリシックなものであった.
 本論文では,まず,生物の神経回路が状況に応じて動的かつ多義的に変化する多型回路として働いているという神経生理学的知見を示す.そして,この概念を導入することによって,状況に応じて発現する行動を迅速かつ適切に調節するようなメカニズムを有するCPG回路を進化的に構築することを試みる.具体的には,2脚歩行ロボットの歩行制御問題を取り上げ,三次元シミュレータを用いて提案手法の妥当性を検証する.シミュレーションの結果,平地のみならず,斜面・突発的外乱に対しても適応的に歩行を行うCPG回路が構築されたことを確認したので


■ 2個体分散遺伝的アルゴリズム

同志社大・廣安知之,三木光範,佐野正樹,谷村勇輔 奈良先科大・濱崎雅弘

 本研究では分散遺伝的アルゴリズム(分散GA)の新しいモデルである2個体分散遺伝的アルゴリズム(Dual Individual Distributed Genetic Algorithm: Dual DGA)を提案する.提案するモデルは,分散GAにおけるサブ母集団内の個体数を2としたものであり,多様性を維持し,かつ解探索能力を高める遺伝的オペレータを採用している.本モデルの利点は,分散GAと比較して特定すべきパラメータが少なくなり,遺伝的操作や移住が簡単になることである.いくつかのテスト関数に本アルゴリズムを適用したところ,他の分散遺伝的アルゴリズムのモデルと比較して,高い探索性能を有することが明らかとなった.また,島内に2個体しか存在しないが,その探索方法は,fine-grainedモデルとは異なっている.


■ グラフ上の反応拡散方程式を用いた環境探索経路計画

東大・市川圭輔,Trevai CHOMCHANA,太田 順, 湯浅秀男,深澤祐介,新井民夫 
理化学研・淺間 一

 本研究では,領域の外形が既知,内部に存在する障害物の形状・位置・姿勢が未知である環境における移動ロボットによる領域探索問題を解いている.従来当該問題は「探索効率」と「環境変動への対応」がトレードオフの関係にあり,その両立が困難であった.ここでは,グラフ上の反応拡散方程式を用いてロボットが周囲をセンシングすべき場所(センシング地点)を適応的に分散させ,その地点間の巡回路を巡回セールスマン問題解法により求めることで領域探索経路解を導出するアプローチを採る.センシング地点はロボットの外界認識によって得られた障害物情報が更新されるたびに,それに基づいて反応拡散方程式を用いて正六角形状に相互に等距離となるように移動する.あるセンシング地点近傍の被覆状況を局所的に調べ,被覆がなされていないときには新たなセンシング地点を加えることで,センシング地点数を調整する.提案アルゴリズムは,全センシング地点数をNとしたときに計算量がO(N1.5)なる多項式オーダーで計算可能であることを示した.提案手法と「センシング地点の位置を固定し,障害物情報に基づき地点数を増減させるだけの手法」とを比較し,障害物3個の環境で,提案手法がセンシング地点数について約10%少ない効率的な経路を生成できることを示した.この差は障害物数が増大するにつれて顕著になると考えられる.実移動ロボットを用いた実験により,机と椅子数個から構成される室内環境において領域探索作業を行い,探索経路生成が可能となることを示した.これより提案手法の有効性が示された.


■ 画像復元用ニューラルネットワークの安定性について

鹿児島大・佐野英樹,三原義樹

 本稿では,濃淡面図形の画像復元問題において用いられるニューラルネットワークの安定性について議論する.このニューラルネットワークは線形常微分方程式系によって記述されるが,ここでは特に,その線形常微分方程式系の解が平衡点,すなわち復元画像へ収束する速さ(収束率)を評価する.まず画素数が比較的少ない場合に対しては,ある条件のもとで,ニューラルネットワークの復元画像への収束率が与えられることを示す.さらに画素数が多い場合に対しては,そのニューラルネットワークがある拡散方程式の差分近似になっていることを明らかにし,この事実に基づいて,復元画像への収束率に関する評価が与えられることを示す.


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