SICE 社団法人 計測自動制御学会
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 会告:2004年度計測自動制御学会学術奨励賞の贈呈

 学術奨励賞 研究奨励賞10君,学術奨励賞 技術奨励賞3君に贈呈された.

○学術奨励賞 研究奨励賞

にしだて いずみ
西舘  泉 君(正会員)

 99年室蘭工業大学工学部機械システム工学科卒業,2001年同大学大学院工学研究科機械システム工学専攻博士前期課程修了,04年同大学院工学研究科創成機能科学専攻博士後期課程修了,同年山形大学工学部応用生命システム工学科助手,現在に至る.光応用生体計測に関する研究に従事.

受賞論文「Topographic Imaging of Veins Using Reflectance Images at Isosbestic Wavelengths」
<SICE Annual Conference 2004 in Sapporo で発表>
 血管,アザ,腫瘍等,皮膚下に局在する血液領域深さ位置は光を用いた患部の生理・代謝評価や光学的治療において重要なパラメータである.本論文では,皮膚に対する光進達度の波長依存性とヘモグロビン吸光スペクトルの等吸収点波長を利用することで,皮膚表面の分光反射率画像から皮下局在血液領域の深さを可視化する方法を提案した.白色光源,2枚の狭帯域干渉フィルターおよび汎用CCDカメラからなる簡易な光学系を構築し,独自開発した皮膚ファントムに対する実験により,提案法の原理確認と定量性の評価を行った.さらに、in vivoでのヒト皮下静脈に対する実験により,生体における本方法の有用性について確認した.


ささき かつひろ
佐々木克浩 君(学生会員)

 2002年秋田大学工学資源学部電気電子工学科卒業.04年同大学院工学資源学研究科博士前期課程修了.同年秋田大学大学院工学資源学研究科博士後期課程に進学,現在に至る.超音波計測に関する研究に従事.

受賞論文「40kHzの空中超音波を用いたサブμmの変位検出法」
<計測自動制御学会東北支部第217回研究集会で発表>
 空中超音波を用いた変位測定は,空気の音響的特性に起因する周波数の制限があるため,周波数を高くすることなく分解能を向上させる方法が必要になる.超音波の位相情報を利用すると波長以下の分解能を得ることができるが,nm領域の分解能を得た報告はほとんどない.本論文では,超音波の位相検出精度を向上させる方法を検討することで,空中超音波を用いてnm領域の変位を検出することを試みた.複数の参照波と受波信号の位相検波において位相感度を最も高くするため,参照波の位相を最大位相感度領域において設定する原理を示した.本手法の有効性を検討するため,40kHzの空中超音波を用いて精密ステージの変位を測定した.その結果,本手法を用いた位相検出分解能は従来の4ステップ位相シフト法よりも10倍以上向上し,40nm(l/200,000) 程度の分解能が得られた.


かい たつや
甲斐 健也 君(学生会員)

 2000年上智大学理工学部機械工学科卒業,02年東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻修士課程修了,同年同大学院博士課程進学,現在に至る.非ホロノミックシステム,非線形制御論などの研究に従事.

受賞論文「配位多様体におけるアファイン拘束の理論的解析U−運動学的非対称アファインシステムの可到達性−」
<第4回制御部門大会で発表>
 現在,制御工学やロボット工学において「非ホロノミックシステム」の研究が数多く行われているが,主に「線形拘束」のみが扱われてきた.本論文では,これまでほとんど研究が行われていない「アファイン拘束」の非線形制御論的解析に焦点を当てた.まず,ある仮定の下でアファイン拘束と制御入力から制御モデルである「運動学的非対称アファインシステム(KAACS)」が一意に得られることを示した.次に,アファイン拘束が完全可積分・部分非可積分・完全非可積分のそれぞれ3つの場合において,配位多様体の葉層構造とKAACSの可到達集合の関係を明らかにした.そして,KAACSが局所可到達・局所強可到達となるためのアファイン拘束に関する必要十分条件を導出した.その中で特に以下の2つの重要な結果が得られた.(1)1つだけ可積分なアファイン拘束が存在してもKAACSが局所可到達となる場合がある.(2)アファイン拘束の完全非可積分性とKAACSの局所強可到達性が等価である.


おかだ やすし
岡田 康志 君(学生会員)

 2003年宇都宮大学工学部電気電子工学科卒業,同年,同大学大学院工学研究科博士前期課程電気電子工学専攻入学,現在に至る.非線形システム同定に関する理論とその実問題への適用に関する研究に従事.

受賞論文「非線形性をもつセンサを用いたシステム同定」
<第4回制御部門大会で発表>
 従来のシステム同定理論では,測定雑音に関して確率的な仮定をすることが一般的であった.しかし,現実には,非線形センサを用いた場合などでは非線形誤差が混入した測定値しか利用できない場合がある.そこで、本論文では,飽和,不感帯などの静的非線形性を有するセンサによって,対象の入出力データを測定した場合に対する新しいシステム同定法を提案した.非線形センサにより入出力データを測定する場合,測定値に非線形誤差を含むことになるので,システム同定のための評価関数の中に,予測誤差の二乗和だけでなく,この非線形誤差に関する項も組み込むことによって,係数パラメータだけでなく,非線形誤差も同時に推定する方法を提案した.これは,制約つき最適化問題として定式化でき,準ニュートン法を用いることによって解くことができる.そして,数値シミュレーション例を用いて,提案した同定法の有効性を示した.


むらお としゆき
村尾 俊幸 君(学生会員)

 2003年金沢大学工学部電気・情報工学科卒業.同年同大学院自然科学研究科博士前期課程に進学,現在に至る.視覚フィードバック制御に関する研究に従事.

受賞論文「受動性に基づく視覚フィードバック制御の固定カメラ構造への展開」
<第4回制御部門大会で発表>
 ロボットの視覚フィードバックシステムの制御目的のひとつは,移動する観測対象にロボットの手先やカメラを追従させることである.本論文では,この制御目的を達成させるために,マニピュレータダイナミクスを考慮したうえで4つの座標系を有するシステムとして,固定カメラ構造の動的視覚フィードバックシステムを構成した.特に,提案する制御則はシステムが有する受動性に基づいた制御則となっている.そして,Lyapunov の安定定理に基づき安定性解析をおこなっている.また,従来研究では十分に議論されていない観測対象が運動する場合や制御性能解析については,観測対象の運動を外乱と捉えた外乱抑制問題を考えることで,L2ゲイン制御性能解析をおこなった.本研究の主な特徴は,われわれが従来研究で提案しているEye-in-hand構造の視覚フィードバックシステムと本研究の固定カメラ構造のシステムが同じ枠組みで表現可能な点である.


たなか ふみひで
田中 文英 君(正会員)

 96年早稲田大学理工学部電気工学科卒業.2003年東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻博士課程修了(工学博士).同年ソニー(株)入社.04年ソニー・インテリジェンス・ダイナミクス研究所(株)出向.同年10月よりUniversity of California, San Diego, Institute for Neural Computation, Visiting Researcher,現在に至る.エンターテインメントロボットの内部モデルや学習,人間とロボットとの間の長期的インタラクションに関する基礎研究に従事中.

受賞論文「Multitask Reinforcement Learning with Value Statistics」
<システム・情報部門学術講演会で発表>
 従来提案されてきている強化学習法の多くは,単一のタスク学習を扱ったものであった.しかしながら,日々我々の生活と共に,同程度の時間スパンで継続的に活動し続けるエージェントへの応用を将来的に指向した場合,過去の経験に基づき複数のタスクにまたがって継続的に学習し続ける様にその枠組を拡張する必要があると思われる.本問題が難しいのは,如何にしてその複数タスク学習という定式化を行うかという点にあった.本論文ではその一例として,マルコフ決定過程の集団からなるクラスを設定し,そこからのサンプル列としてタスク群を定義した.更にその上で,各々タスクに対してのみならず,複数のタスクを通じても報酬最大化を試みる強化学習法を提案し,計算機実験によりその有効性を検証した.


やの たけし
矢野 武志 君(学生会員)

 2003年熊本大学工学部数理情報システム工学科修了,同年同大学院自然科学研究科数理科学・情報システム専攻博士前期課程に進学,現在に至る.次世代携帯型人工膵臓開発に関する研究に従事.

受賞論文「人体における血糖値糖動態モデリング」
<第4回システムインテグレーション部門講演会で発表>
 糖尿病を起因とする重大な合併症の発症を防止するためには厳格な血糖値制御が必要であり,膵臓のランゲルハンス島β細胞の動作を模擬してPD制御にてインスリンの注入を行う人工膵臓の研究がなされている.しかし,ベッドサイド型であり,病態や体質の変化時には熟練医師による動作パラメータの調整が必要となるため,長期運用が困難であることから,個人適応型のインスリン注入アルゴリズムによる次世代携帯型人工膵臓の開発が待たれる.本論文では,インスリンによる血糖値降下作用を負のブドウ糖投与率と捉え,薬物動態学で用いられる1-Compartmentモデルを用いて人体の血糖値の動態を表現し,同定実験を行い,健常者の正常血糖値域においてその動態が1次遅れ系となることを示した.さらに得られた血糖値動態モデルに対して,グルコースクランプ法のシミュレーションによる実験時と同様の血糖値動態およびブドウ糖注入率の再現を確認した.


こんよう まさし
昆陽 雅司 君(正会員)

 99年神戸大学工学部情報知能工学科卒業.2004年同大学大学院自然科学研究科システム機能科学専攻博士課程修了(博士(工学)).02〜04年日本学術振興会特別研究員-DC2.04年慶應義塾大学大学院理工学研究科助手(有期・COE「知能化から生命化へのシステムデザイン」),現在に至る.導電性高分子ゲルアクチュエータ,触覚ディスプレイ,触覚センサなどの研究に従事.

受賞論文「高分子ゲルアクチュエータを用いた皮膚表面刺激による柔らかさの呈示」
<第4回システムインテグレーション部門講演会で発表>
 布の手触りのような多様な触感を人工的に呈示するためには,表面の粗さ情報以外にも素材の柔らかさの呈示が重要である.従来の機械刺激を用いた触覚ディスプレイでは,粗さと剛性など複合的な情報を提示することが困難であった.本研究では,人間の触覚受容器の周波数応答特性を利用して,高分子ゲルアクチュエータを用いて皮膚に分布微小振動を与え,振動の時間周波数成分によって触覚受容器を選択的に刺激することで複合的な触感を呈示する.本論文では,圧覚を生成するメルケル小体の応答が5Hz以下で他の受容器に比べて支配的になることに着目し,数Hzの超低周波分布振動によって圧覚を呈示する手法を提案した.本手法は従来から提案してきた20〜200Hzの振動合成によるテクスチャ感呈示と独立して圧覚を呈示することが可能である.本手法を用いて,手掌の押し込み量に応じて圧覚を変化させることにより,素材の柔らかさを呈示できることを確認した.この手法は力覚を使わずに,皮膚表面感覚のみで柔らかさを呈示できる点が特徴である.


わたすえ たろう
綿末 太郎 君(正会員)

 2004年大阪大学大学院工学研究科電子制御機械工学専攻博士課程 中退.同年より神戸大学大学院経済学研究科助手.災害救助のためのがれきの研究に従事.

受賞論文「木造家屋のがれき化プロセスシミュレーション−拡張個別要素法による木材継ぎ手部のモデリングと破壊解析−」
<第4回システムインテグレーション部門講演会で発表>
 著者らは,救命活動の場としてのがれきに関する知見を工学的な視点から集積することを目的として,「がれき工学」の提案を行っている.がれき工学の確立により,レスキューロボットの開発のポイントや評価の基準などが提供され,人間やロボットによる災害救助の指針を与えることができると考えられる.本稿では,地震動などの外力によって木造家屋が倒壊・がれき化するプロセスのシミュレーションの概要と,木材接合部の破壊解析例を示した.木造家屋の倒壊プロセスの解析手法では,部材スケールの破壊解析と家屋スケールの倒壊解析の2種を連携させている.部材の破壊解析においては,拡張個別要素法をベースにした木材の異方性モデルと,実験データからの主要パラメータ決定法を提案した.解析例として木材のT字型接合部の破壊解析を行った.ほぞ部の付け根からの破壊進行にともない荷重−変位関係が線形性を失う様子を再現できた.


にしかわ かずふみ
西川 員史 君(正会員)

 99年早稲田大学理工学部機械工学科卒業.2001年同大学院理工学研究科機械工学専攻修士課程修了.04年同大学院理工学研究科生命理工学専攻博士後期課程修了.03年より日本学術振興会特別研究員,現在に至る.人間型ロボットに関する研究に従事.

受賞論文「人間の発話器官を模擬した発話ロボットによる音声生成」
<第4回システムインテグレーション部門講演会で発表>
 本研究は,人間の発話動作を模擬した発話ロボットを開発し,これを用いて人間と同様の発声を実現させることにより,計算機シミュレーションのみでは解明困難な発声系のメカニズムを工学的な視点から解明することを目的としている.われわれは,全18自由度を有する新型発話ロボットWT-3(Waseda Talker-No.3)を開発した.主な改良点として舌駆動機構,声帯駆動機構,声道と声帯の連結部がある.これらの改良により,人間により近い舌形状と声道断面積変化を再現できるようになり,十分な声道の共鳴特性を実現可能とした.その結果,WT-3は日本語の母音および子音を従来のロボットに比べ明瞭な発声が可能となった.



○学術奨励賞 技術奨励賞

ながい ようへい
永井 洋平 君(学生会員)

 2004年東京大学工学部計数工学科卒業,同年同大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻修士課程に進学,現在に至る.

受賞論文「Real-time Vibrometric Imager Using Correlation Image Sensor」
<SICE Annual Conference 2004 in Sapporoで発表>
 対象表面の振動分布計測は非破壊検査やモード解析,音響イメージング等の応用を持つ.振動は振幅と位相の2つの自由度を持つため,振動分布の映像化には二次元で同時二自由度取得可能なセンサシステムを開発する必要がある.これに対し我々は,光強度の特定周波数における明暗振幅・位相を実時間で二次元同時取得可能なデバイスとして開発を進めてきた“時間相関イメージセンサ”を用い,新たに考案した1)対象表面への並進する平行格子の投影による振動振幅・位相同時変調と,2)時間相関イメージセンサを用いた実時間光強度振幅・位相同時復調,の原理により,振動分布の実時間振幅位相同時映像化システム化を構築し,平板振動のモード分布や進行波の伝搬や吸収や反射の実時間映像化によりその性能を確認した.


いわもと たかゆき
岩本 貴之 君(学生会員)

 2003年東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻修士課程修了.同年東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻博士課程に進学,現在に至る.

受賞論文「High Resolution Tactile Display Using Acoustic Radiation Pressure」
<SICE Annual Conference 2004 in Sapporoで発表>
 本論文では,超音波の音響放射圧を利用する触覚ディスプレイの提案を行い,試作機の性能についての評価を行った.皮膚に機械的に変形を与えて触感を生成する場合,アクチュエータが触覚提示に必要な周波数帯域において正確に制御可能であること,刺激点の配置間隔が少なくとも二点弁別閾より狭いこと,および皮膚表面と刺激点との接触状態により力が変化してしまうことなどを考慮しなくてはならない.超音波による音響放射圧は,理論的に,十分な周波数特性,空間解像度をもつことが予想され,また,皮膚とは非接触で力の提示が可能である.3MHzの超音波のリニアアレイを用いた試作機を製作し測定をした結果,試作機は触覚提示に必要な1kHzまでの帯域における良好な周波数特性,および1mm以下の空間解像度を有することが確認され,音響放射圧を用いる触覚提示手法は,指先などにおける精細な触覚提示にも十分な性能をもつことを示した.


どい ともはる
土井 智晴 君(正会員)

 91年長岡技術科学大学機械系創造設計課程卒業,93年同大学大学院工学研究科機械システム専攻修了,同年大阪府立工業高等専門学校助手,99年大阪府立大学にて博士(工学)取得,2003年同高専助教授,現在に至る.主として,レスキューロボットの研究開発に従事.

受賞論文「人力発電方式による簡易型探索機の製作」
<第4回システムインテグレーション部門講演会で発表>
 レスキューロボットは将来,救助者の救助活動支援や探索不可能なエリアを人に代わって探索できる可能性を秘めている.しかし,レスキューロボットが活躍するであろう災害現場ではロボット用動力源の確保が簡単でない場合が多いと考えられ,開発途上国などの災害現場では,さらにその可能性が高くなると思われる.したがって,筆者らは,レスキューロボット用動力源の確保を含めた簡易型探索機の開発が重要であると考え,レスキュー活動を行う救助者が発生しうる人力により発電し駆動する探索装置の開発を行ってきた.本論文では,以前開発した手動発電機により発電した電力で駆動する人力発電方式簡易型探索機に対して,実用化に向けた改良を行った.その改良点は,救助活動時の引張り作業に耐えるロボット用ケーブルの開発と遠隔操縦の操作性を向上させるために行ったカメラアングル切替構造について述べた.
copyright © 2005 (社)計測自動制御学会