学術奨励賞 研究奨励賞9君,学術奨励賞 技術奨励賞1君に贈呈された.
○学術奨励賞 研究奨励賞
かわはら ともひろ
川原 知洋 君 (学生会員)
1979年8月13日生.2002年熊本電波工業高等専門学校専攻科制御情報システム工学専攻修了.同年広島大学大学院工学研究科複雑システム工学専攻博士課程前期に進学,現在に至る.非接触インピーダンスセンシングの研究に従事.
受賞論文「空気噴流を用いた内視鏡用仮想触覚プローブ」
<第3回システムインテグレーション部門講演会で発表>
現在,一般的に行われている内視鏡を用いた胃ガン診断において,深層部まで測定可能な超音波内視鏡を導入してもすべてのガンを発見するまでには至っておらず,診断システムのさらなる改良が望まれている.一方,発見率の向上を図るため,胃壁の硬さを診断したいという強い要望が医師から出されており,これに対して,筆者らは内視鏡先端から空気噴流を胃壁に印加し,非接触で胃壁の硬さ特性が推定できる内視鏡用仮想触覚プローブを提案している.非接触で硬さを測定する場合,対象に印加された力をいかに精度よく計測するかが重要となるが,内視鏡先端には力センサを配置するだけのスペースがなく,また,センサ破損時に破片が生体内に残留するなどの問題が生じる.本論文では,以上の点を踏まえ,力センサを必要としない力センサレスでの非接触硬さ測定を提案した.また,実際に基礎実験を行い,力センサレス方式でも十分な硬さ測定が可能であることを示した.
ふなもと けんいち
船本 健一 君 (学生会員)
1979年11月23日生.2002年東北大学工学部機械電子工学科卒業,同年同大学大学院情報科学研究科システム情報科学専攻博士前期課程進学,現在に至る.生体工学・医療工学に関する研究に従事.
受賞論文「流れの数値解析を融合した超音波診断装置の基礎的研究」
<第45回自動制御連合講演会で発表>
重篤な循環器系疾患の正確な診断を確立するためには,血管内の血流構造や壁せん断応力・圧力分布などの詳細な情報を得ることが必要不可欠となる.超音波を用いたカラードプラ法は,生理的な状態での血管断面形状と血流動態を,非侵襲かつリアルタイムに描出できるが,血流域の超音波ビーム方向成分しか計測できない欠点を有する.一方,MRIなどから得られた血管の実形状を用いる流れの数値解析により,血管内の詳細な血流構造を表示できるが,境界条件の設定が難しく,実際の血流構造と完全には一致しない.本論文では,超音波による血流計測と流れの数値解析を一体化し,両者の問題点を克服する超音波計測融合シミュレーション技術の基礎的研究を行った.細かい格子系を用いて得られた計算結果を,粗い格子系を用いる計算にフィードバックしながら計算を行い,格子の粗さに起因する誤差を改善し,超音波計測融合シミュレーションにより,正確な血流構造と血管内の圧力分布を再現できる可能性を示した.
くろいわ ようへい
黒岩 洋平 君 (学生会員)
1978年5月27日生.2001年東北大学機械航空工学科卒業.2003年東京大学大学院複雑理工学専攻修士課程修了.現在,The Division of Optimization and Systems Theory, Department of Mathematics, Royal Institute of Technology 所属.
受賞論文「H∞ Control with Preview and Delay in the Frequency Domain」
<第3回制御部門大会で発表>
本論文では,制御にとって互いに相補的である予見と遅れを有するH∞制御問題を周波数領域で解き以下のことを明らかにした.(1) 定式化された2ブロック・モデルマッチング問題の非有理性は予見と遅れの差のみに依存すること.(2) 可解条件は有限次元のJスペクトル分解に帰着すること.(3) 設計されたコントローラの構造は有理伝達関数の部分と無限次元の部分とに分離しているということ.また,予見追従誤差のみを制御量とした1ブロック・モデルマッチング問題のH∞ノルム最適値を,ネハリの定理を用いて導出している.残された課題としては,(1) 既存の状態空間に基づく手法との対応,(2) 4ブロック・モデルマッチング問題への拡張,が考えられる.
もりた すすむ
森田 晋 君 (学生会員)
1976年生.2000年九州大学工学部知能機械工学科卒業,2002年大阪大学大学院工学研究科電子制御機械工学専攻博士前期課程修了.同年大阪大学大学院工学研究科電子制御機械工学専攻博士後期課程に進学,現在に至る.主として機械工学に応用をもつ制御理論の研究に従事.
受賞論文「Hamiltonの原理に基づく自然な軌道の計画手法」
<第3回制御部門大会で発表>
近年,ヒトの手の運動軌道生成の規範モデルについての研究をはじめとして,生物の運動機能の解明に関する研究が盛んである.これらの研究は“自然な運動”の原理追求という動機をもっていると考えられる.本研究では“自然な運動”の原理を力学的な視点から考察し,新しい軌道計画手法を提案した.自由運動を表わす常微分方程式は Hamiltonの原理から導かれるが,任意の2状態間の軌道計画に用いることができない.そこで,Hamilton の原理に必要最小限の改変を加えることで,任意の2状態間の軌道計画が可能な新しい常微分方程式を導出した.この常微分方程式を用いれば自由運動と共通する性質を有する軌道を得ることができる.提案手法は常微分方程式の二点境界値問題として定式化されている.本研究は力学的なシステムにとって“自然な運動”とはどのようなものかを考えるときの1つの方向性を示していると考えられる.
ひらの ひろゆき
平野 博之 君 (学生会員)
1979年6月7日生.2002年金沢大学工学部電気・情報工学科卒業.同年金沢大学大学院自然科学研究科博士前期課程に進学,現在に至る.
受賞論文「Automated Driving for an Experimental Vehicle using Visual Feedback Control」
<SICE Annual Conference 2003 in Fukuiで発表>
近年,運転の支援,安全性の向上などの観点から,自動車の高度情報化に関する研究が盛んに行われており,自動車の自動操縦に関する研究が注目されている.特に車両にカメラを搭載する方法は,道路へのインフラ整備を行うことなく簡単に道路の軌道を認識することができるため,カメラを用いた視覚フィードバック制御による自動操縦がいくつか提案されている.本論文ではカメラから実時間で得られる視覚情報から特徴点を抽出し,これを用いた視覚フィードバック制御則を提案した.このとき,カメラを含む車両の横方向のダイナミクスを車速に依存したスケジューリングパラメータをもつ線形システムとしてモデル化し,ゲインスケジューリングを用いて制御則を構成した.このコントローラの構成問題は線形行列不等式条件に変換して計算している.また実験から,この視覚フィードバックコントローラにより道路の軌道に沿った自動操縦を達成できることが確認できた.
ひがしもり みつる
東森 充 君 (正会員)
1974年3月9日生.98年広島大学大学院工学研究科博士課程前期終了.同年(株)東芝入社.2002年広島大学大学院工学研究科助手,現在に至る.ロボットハンド,アクティブセンシングなどの研究に従事.
受賞論文「100Gキャプチャリングシステム −Dynamic Preshaping−」
<第3回システムインテグレーション部門講演会で発表>
筆者らは,ワイヤ駆動方式の採用により世界最高加速度90.9[G]を達成する高速キャプチャリングシステムを開発した.このような高速ロボットハンドが対象物を捕獲する際には,対象物に適した指形状を生成・維持しつつ対象物にアプローチ(Preshaping 動作)することが捕獲成功率の向上において重要なキーとなる.従来,Preshaping を取り扱った研究ではおもに静的条件下を想定し,高速・高加速度条件下においては議論されていない.高速捕獲動作中のロボットハンドの指姿勢を考えた場合,指リンク系に対する慣性力が支配的となる.本研究では,ワイヤ駆動方式の高速ロボットハンドが対象物を捕獲する場合の Dynamic Preshaping 問題を定義した上で,目標指姿勢を実現するための機構パラメータの設計法について論じた.
かねこ よういちろう
金子陽一郎 君 (学生会員)
1979年生.2002年東北大学工学部化学バイオ系生物化学工学科卒業,2004年東北大学院工学研究科博士前期課程修了予定.
受賞論文「物質およびエネルギーの変換を考慮したバッチプラントの運転操作手順生成方法」
<計測自動制御学会東北支部第209回研究集会で発表>
本研究の目的は,プラントの運転を支援するシステムの開発である.化学プラント特にバッチプラントでは,多品種の製品を1つのプラントで製造している.ここでは,目的となる製品を製造するために必要となる物質の反応や輸送,それに伴う装置やバルブの操作などの順番を決定する必要である.この問題を操作手順決定問題と定義する.この問題は従来オペレーターによって行われてきたが,プラントの巨大化や頻繁な変更などのため多大な手間となっていた.そのため,操作手順を自動的に決定するシステムを開発することが望まれるようになっている.私の研究室では,この操作手順決定問題に対し,部分グラフ同型探索を用いた手法を提案し,ある程度の有効性を実証した.しかし,実際の適用には不完全であった.そのため今回,新たにエネルギー変換操作の考慮,より複雑な単位操作を扱うことを可能とした.
うえやま ともかず
上山 智数 君 (学生会員)
1980年3月21日生.2002年京都工芸繊維大学工芸学部電子情報工学科卒業,同年同大学大学院工芸科学研究科電子情報工学専攻修士課程進学,現在に至る.
受賞論文「リカレントスパイキングニューラルネットワークの学習法−学習法の比較−」
<第15回自律分散システム・シンポジウムで発表>
スパイキングニューラルネットワーク(SNN)は,スパイク列の時間タイミングにより情報を処理する点でより生体に近いモデルであり,最近再び研究が活発となってきている.実際に,従来の人工ニューラルネットワークよりもSNNの方がその情報処理能力が高いとの報告もある.本論文は,リカレント型のSNNに対して新たな学習法を提案し,従来の方法と特に学習効率の観点より比較を行ったものである.SNNは連続的信号と不連続な離散信号を扱う一種のハイブリッドシステムになっており,このことが学習法の導出を困難なものとする.そこでこの困難さに対する解決法を示し,効率のよい学習法を導出している.提案法はアジョイントネットワークに基づく学習法であり,従来の感度方程式に基づく方法より学習効率が良く,特にネットワークのニューロンの数が増加したときにこのことが顕著となる.実際に従来の方法と,学習に必要となる計算時間を比較することにより,提案法の有効性を示している.
つじた てっぺい
辻田 哲平 君 (学生会員)
1979年11月8日生.2004年東北大学工学部機械航空工学科卒業,同年同大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻博士課程前期2年の課程に進学,現在に至る.視覚を用いたロボットの制御に関する研究に従事.
受賞論文「パラレルリンク機構を用いた両眼視覚システムの開発」
<計測自動制御学会東北支部第206回研究集会で発表>
人間の網膜機能を模倣し高速画像処理が可能な3次元ビジョンチップを用い,脳型情報処理を歩行ロボットに応用するため,人間の眼球運動を模擬可能な機構を有するステレオカメラヘッドの開発を行った.眼球運動において最高角速度の運動を模擬しつつ,軽量で歩行ロボットに搭載可能とするため,モータトルクを効率よく利用し高速応答性に優れるパラレルリンク機構を用いた.設計したカメラヘッドは全モータがベース部に配置されるため,可動部を極端に軽量化でき,高帯域での動作が可能となっている.機構開発に3次元CADを用い,機構模型をRapid Prototyping装置を用いて作成し,機構の動作を確認した.パラレルリンク機構は連結連鎖間の干渉によっても作業領域が限定される可能性が高い.そこで実モデルの設計では,3次元CADと機構システムシミュレーションソフトウエアを連携して使用し干渉チェックを行い,可動範囲の拡大を計った.
○学術奨励賞 技術奨励賞
つかごし ひでゆき
塚越 秀行 君 (正会員)
1969年7月10日生.98年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程機械物理専攻修了,同年日本学術振興会特別研究員,99年東京工業大学制御システム工学科助手,現在に至る.レスキューロボットの開発研究,ウェアラブル・フルードパワーの研究などに従事.
受賞論文「跳躍・回転移動体の開発 ―第4報:回転移動時の踏破能力の向上―」
<第3回システムインテグレーション部門講演会で発表>
災害現場での被災者救助を目指し,瓦礫上層部を素早く移動し情報収集活動を行える,実戦型ロボットの設計・開発研究を行った.その最大の特徴は,小型化と踏破性向上という相反する設計要求を満たすため独自に考案した移動方式にあり,平坦地を車輪で効率よく回転し,障害物を空圧駆動脚で飛び越え,いかなる姿勢から着地しても俊敏に復帰可能な機動性の高い点にある.本論文では,車輪周部に導入した軽量異方弾性体の効果を報告した.これは,車輪半径方向には柔軟に変形し,接線方向には硬めに弾性変形する素材からなり,車輪径の7割高の段差をも回転移動のみで踏破せしめる.また,跳躍タイミングを最適化する簡易環境センシング法,跳躍高度を最大化する空圧シリンダの最適設計法についても論じ,ロボットサイズの3倍以上(約1m)高の障害物跳躍動作を報告した.開発したロボットは,捜索用カメラや声援用スピーカーを装備しており,倒壊家屋内へ投げ込まれて探査することに期待されている.報告したロボットの動画は下記でご覧いただける.
http://www.cm.ctrl.titech.ac.jp/study/jump/home.html
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