論文集抄録
〈Vol.49 No.9(2013年9月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
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■ 微分フィルタの周波数特性に基づく空燃比センサの診断
日立製作所・青野 俊宏,日立オートモティブシステムズ・清村 章
車検制度のない北米では,車載コンピュータでエンジンの故障を診断するOBD(On
Board Diagnosis)システムを自動車に装着することが法律で求められており,これによってエンジンの故障が引き起こす有害物質の大気中への排出を防いでいる.OBDシステムの診断項目の一つとして,A/F(空気Fuel
Ratio)センサーの診断がある.従来のA/Fセンサの診断方法では、燃料噴射を大きく振動させ、それへの応答に基づいてセンサの劣化を診断していた。本論分では、診断のために特別な空燃比制御をせずに目標空燃比を保ちながら診断が行える方法を開発した.提案された方法は、A/Fセンサーの応答の劣化に起因する,A/F信号の周波数の変化を検出することで診断する。この方法は、エンジン・ベンチ・データを使って評価され,17秒以内に劣化が検知できることが確認された。
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■ ロボットによるピックアンドプレースのための対象物配置計画
産業技術総合研究所・原田 研介,球種大学・辻 徳生,
産業技術総合研究所・永田 和之,山野辺 夏樹,音田 弘,河井 良浩
本論文ではロボットによるピックアンドプレースにおける対象物の位置・姿勢の計画を行う。提案する手法では、環境の指定された位置の近くに対象物を置く位置・姿勢を重力平衡を考慮して導出する。まず、対象物と環境に対してポリゴンモデルを仮定し、ポリゴンモデルを平面として当てはめが可能な領域に分割する。対象物の位置・姿勢は対象物と環境のポリゴンモデルからクラスタを一つづつ選び、これらの面を接触させることで導く。提案する手法では、マグカップの取っ手を棒に引っ掛ける場合など、様々な場合に対して対象物の位置・姿勢が導出できることを示す。提案する手法の有効性を数値例や実験によって示す。
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■ 入力の連続性を考慮したゲインスケジュールドリファレンスガバナを用いたハードディスクのロングシーク制御
神戸大学・郭 昊,太田有三,増淵 泉
本稿では,拘束を有するシステムに対して,状態の位置によって,二つの状態フィードバックゲイン(K1
とK2)を切り換えるゲインスケジュールドリファレンスガバナを提案している.そして,ゲインの切替の際に制御入力が連続になるような切替則を提案している.これは,高域の共振項などが存在する場合に不要な振動を励起しない効果があり,その有効性をハードディスクのロングシーク問題に適用して検証している.
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■ ピアノ演奏スキルの解明-ピアノ未経験者の短期訓練による学習効果の実験的検証-
関西学院大学・中村 あゆみ,ハノーファー音楽演劇大学・古屋 晋一,
関西学院大学・合田 竜志,巳波 弘佳,長田 典子
本研究の目的は,4 日間におよぶピアノ練習により,非音楽家の手指の巧緻運動機能が向上するかを明らかにすることである.ピアノ未経験者に左手で特定の音列を一定のテンポで弾く練習課題を行ってもらい,その結果,練習訓練課題に用いた音列の最速度および正確性の変化を調べた.さらに,訓練効果が,練習に用いていない音列や非訓練手(右手)の運動機能に及ぼす影響も定量的に評価した.最後に,打鍵動作のリズムの正確性を練習後に被験者に視覚的に提示することで,視覚フィードバックが練習による手指巧緻運動機能の向上を促進するか検討を加えた.
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■ 学習最適制御に基づく軌道学習と身体パラメータ調整による最適歩容生成
広島大学・佐藤 訓志,京都大学・藤本 健治,広島大学・佐伯 正美
筆者らはこれまでに,あるクラスの評価関数を(局所的に)最小化する意味での最適歩行軌道の学習的生成を目標とし,力学系の性質を利用した反復学習制御とパラメータチューニングの統合手法を提案し,この方法を利用して歩行を継続しながら学習を行うことができる最適歩容生成法を提案してきた.
この方法は,パラメータチューニングにおいてロボットの転倒回避を目的とする仮想拘束の調整を行いながら,反復学習制御において歩行軌道の最適化を同時に行う.本手法はハミルトン力学系の変分対称性という性質を利用することで,制御対象のモデルの詳細な情報を必要としない利点ももつ.
しかしながら,これまでの手法においては,ロボットの身体パラメータが一定の下で,
最適な歩行軌道を学習的に生成してきた.そこで本論文では,上述の方法において用いていたパラメータチューニング法を,仮想拘束の強さの調節だけでなく,ロボットの身体パラメータの最適化にも適用することで,ロボットが歩行軌道を学習しながら最適な身体パラメータも同時に獲得できる手法を提案する.本研究で用いているパラメータチューニング法がもつ,複数の可調整パラメータを同時に扱えるという利点を活かすことで,提案手法は仮想拘束の強さの調整と身体パラメータの最適化が同時に達成できる.
さらに,反復学習制御において入力飽和を扱う手法を応用することで,指定した範囲内で最適な身体パラメータを獲得する方法についても述べる.先行研究では弾性要素をもつロボットの剛性を調節するものが多いが,本手法ではロボットの質量,質量分布,関節長なども最適化することができるため,最適軌道の学習と同時にロボットの最適設計を行うことも可能となる.
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■ 高速視線制御光学系による高速飛翔体の映像計測
東京大額・奥村 光平,科警研・石井 将人,巽 瑛理,東京大学・奥 寛雅,石川
正俊
多くの産業や研究・開発分野などで,数百メートル毎秒といった音速に近い速度で飛翔する物体の物理計測(速度,加速度,衝撃など)が成され,その中でも特に高速度カメラを使用した映像計測が盛んに行われている.ところが従来の飛翔体の映像計測では,高速度カメラを飛翔体軌道上に向けた状態で固定し,限られたわずかなフレームを記録するという手法がとられていた.これでは,記録時間(継続性)と計測対象に占めるピクセル数(高精細性),及び画像の明るさとモーションブラーの影響の小ささが,それぞれトレードオフとなってしまうという問題が生じる.本研究では,筆者らが開発した高速視線制御光学系を使用することで,飛翔体の動きにカメラの視線方向を整合させ,これらトレードオフを解決し,高速飛翔体の優れた映像計測を実現させた.
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■ 揺動質量をもつ連結型Rimless Wheelの歩行解析と性能向上の検討
東日本旅客鉄道・田中 大樹,北陸先端科学技術大学院大学・浅野 文彦,
立命館大学・徳田 功
連結型Rimless wheel(Combined rimless wheel;以下CRW)の受動歩行の高速化が,その前後脚間の位相差の調節により達成されることが明らかにされた.筆者らはそのメカニズムをポテンシャル・バリアの突破の観点から考察し,位相差に応じた全重心軌道の平坦化が一つの要因であることを指摘した.本論文では位相差を持たないCRWの高速化の可能性を,全重心軌道の平坦化を目的とした胴体内で上下動する受動的な揺動質量の付加により検討する.まず数値シミュレーションを通して,歩行速度が揺動質量の効果により増大すること,歩行性能がその粘弾性に応じて変化することを示す.次に逆位相から同位相への遷移について,CRWと揺動質量の周波数に着目した解析を行う.また,初期値鋭敏性やヒステリシス現象などの非線形特性についても報告する.更には,開発した実験器を用いてシミュレーション結果の妥当性を検証する.
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■ 逆デカップラとPDフィードバックを用いた多変数MD-PID制御
東芝三菱電機産業システム・重政 隆,根岸 靖典,馬場 泰
石化プラントに見られる蒸留塔のように塔内で温度,流量,圧力などの変数が干渉しているプロセスに対応する多変数制御方式に,上位コンピュータの計算能力を活用してプロセス全体を最適に制御しようとするモデル予測制御があるが,全モデルができないと使えない,費用対効果,稼働率向上,微調整方法,メンテナンスなどの問題が提起されている.一方,非干渉化制御も古くから提案されてきたが活発に使われている状況でもない.そのなかで近年,非干渉化法として逆デカップラ(Inverted
Decoupler)が注目されている.その理由は現場の課題に対応する流れにあるように思われる.従来のクロスコントローラタイプのデカップラでは手動モード箇所により安定性が変化するので制御モードを切替える場合の条件判断が複雑であるのに対して,逆デカップラでは複数のフィードフォワード入力を持った単独制御器扱いで済むのでARW処理や手動/自動のモード切替の内部処理は従来技術の範囲なので扱いやすい.逆デカップラは操作信号間でループが形成されるので実現性(安定性,実行可能性)が問題になるが,その条件も明らかになっている.
本稿では,非干渉化方法としてこの逆デカップラを用い,更に主制御器として通常使われているPID制御に替えてモデル駆動PID(MD-PID)制御を用いた多変数MD-PID制御系の特徴を示す.その一つは,MD-PID制御の下位で働くPD(比例微分)フィードバックは対応ループの外乱抑制応答に有効に働くこと,
二つ目は,各MD-PID制御の制御パラメータは他ループの制御応答に対して干渉しないことなどである.多変数制御系でありながら,このように制御定数と調整目的間の連携が取れていることが使いやすさに通じる.これらをシミュレーション例を通じて紹介する.
▲ ■ 食品画像を用いた好み評価時の視線停留時間に関する実験的検討
秋田大学・大須賀 智,,田中 元志,井上 浩,新山 喜嗣
主観的な好みを視線の停留計測により定量化して,好み評価に応用するための基礎検討を行つた。はじめに,視線の停留位置や時間などの視線情報を正確に計測可能なシステムを構築した。1次射影変換を用いて瞳孔の中心座標から提示画像上の視線の位置座標に変換し,その視線座標に含まれるノイズを適応型α―Trimmed平均値フィルタで除去した。そして,視線が視角範囲2°以内に150
ms以上継続することを停留の判定条件とし,視線のばらつき,および誤差1°以内で視線の停留点と停留時間の抽出が可能であることを示した。次に,食品画像2枚を同時に提示して好み評価時させたときの視線の停留を計測した。具体的には,画像2枚のうち,片方を「好き」または「嫌い」と評価させたときの視線の停留点および停留時間を計測した。その結果,評価した画像に対する視線の停留時間(評価画像の提示時間で正規化)が評価されなかつた画像に比べて長く,主観的な好みの違いを視線の停留時間により定量的に計測できる可能性が示唆された。
▲ ■ ハイブリッド自動車の燃費最適化制御器設計:同時摂動最適化によるモデルフリーアプローチ
京都大学・馬場 一郎,東 俊一,杉江 俊治
本論文は,自動車制御とモデル研究専門委員会により提案された,ハイブリッド自動車の制御器設計に関するベンチマーク問題に取り組むものである.この問題の解を与えるため,同時摂動最適化を利用したモデルフリーの制御器設計法を提案する.この提案法によって,既存の制御器と比較し,約44%の燃費改善を行なう制御器が得られた.
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