論文集抄録
〈Vol.49 No.8(2013年8月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
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■ 画像処理を用いた経編ニット製品の欠陥検出
東京都市大学・小屋 裕太郎,富山県立大学・中田 崇行,東京都市大学・包 躍,城西ニット・荒木
貢
布織物製品を製造する工場では、生産効率向上のために欠陥を自動検出するシステムが求められている。従来手法としてレーザ光を照射する方法や、画像処理では統計モデルを用いる方法や画像の差分を用いる方法、ウェーブレット変換による方法が提案されている。
しかし、レーザ光を照射する方法は布の厚さの変化を検知することができなかった。撮影画像を用いる方法は機械や布の振動によって画像がぶれることにより検出精度が低下する問題と、布の厚さが薄い場所から見える布の後ろにある機器を検出するという問題があった。また、いずれの方法も織られた直後に動いている布の検査に用いることが困難であるという問題があった。
本論文では、カメラで布を撮影した画像を等間隔のブロックに分割し、ブロック内の輝度平均値に対して2種類のフィルタを施すことにより自動で欠陥を検出する方法を提案する。提案手法は、欠陥の形状に合わせたブロックの輝度合計を用いるため、欠陥部分と正常な部分の輝度合計の差が明確になることから、布の穴が広がる欠陥と布の厚さが薄くなる欠陥のいずれにも対応することができる。そして、提案方法は細かい雑音に強いフィルタと大型の雑音に強いフィルタを合わせて用いることから、布の厚さが薄い場所から見える布の後ろにある機器を検出せずに、欠陥部分のみを確実に検出することができる。実験では、実際に工場で製造された布織物製品の欠陥を確実に抽出し、実用化可能な精度を有していることを確認した。
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■ 周波数応答法を用いたガスガバナの安定性評価
東京ガス・竹内 智朗,東京工業大学・香川 利春
都市ガス供給に用いられるガスガバナにおいては,ハンチングなどの不安定現象は供給する圧力の異常を引き起こす.このため安定性の定量的な評価が非常に重要である.安定性評価には,ガバナの各構成要素の詳細な数学モデルを構築する方法があるが,モデル構築や特性計測に多大な労力を要することや,モデル化誤差の連成による蓄積が懸念される.そこで本研究では,ガバナに周波数応答法を適用することを提案した.そして,入力を下流側需要量,出力をガバナユニット送出流量とした試験装置を構築し,実際のガバナシステムの周波数応答特性を簡易に取得できることを確認した.さらに,ガバナシステムの下流側容量やパイロットライン絞り径,制御圧室容量を変化させて周波数応答特性を取得した.その結果,これまで経験的にしか知られていなかった安定性の変化を簡便な手法で定量的に評価できることが示された.
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■ キャスターボードロボットのモデリングと制御
大阪大学・衣笠 一樹,石川 将人,大須賀 公一
本論文では,キャスターボードを自律移動ロボット(キャスターボードロボット)としてモデル化し,その推進制御を行う.キャスターボードとは,互いに捻ることのできる前後の踏み板と前傾した2つの受動車輪をもつ,変形スケートボードの一種である.このキャスターボードの運動は幾何学的構造に起因する運動学と,一般化運動量の振る舞いに起因する動力学の両方が本質的に関与するという点で,非線形制御理論
の観点からみて非常に興味深い.そこで本研究では,まずキャスターボードロボットの非線形状態方程式の導出を行う.そして非ホロノミックシステムの推進制御に関する先行研究の知見から,周期目標値を用いたキャスターボードロボットの前方推進と旋回運動の制御方法を提案する.提案手法の有効性はシミュレーションと実機実験により検証する.さらに,周期目標値のパラメータがロボットの推進に与える影響についても検証を行う.
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■ 核ノルム最小化と射影を用いた連続時間システム同定
京都大学・濱野 晃,丸田 一郎,杉江 俊治
本稿では,連続時間一入力一出力線形時不変モデルを対象とした,システムの次数が既知でない場合を想定した新しい同定手法を提案する.提案手法では,モデルの単純さと出力への適合度を考慮した核ノルム最小化問題を通じて,システム次数と推定モデルを決定する.その際,適切にフィルタリングした入出力信号を,有限次元の信号部分空間へと射影することによって,大規模なデータの取り扱いを容易にすることができる.本稿では最後に,数値例を通じて提案手法の有効性を検証する.
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■ 追突事故・ニアミス時のドライバ対応行動の事後的診断手法の開発
日本自動車研究所・北島 創,久留米工業大学・片山 硬,筑波大学・伊藤 誠
事故類型の中で最も事故件数の多い追突事故の効果的な未然防止技術を実現することが益々重要となってきている.そこで,本論文では,ドライバが先行車に衝突しないための対応行動を診断する枠組みを構築し,取得済みのドライブレコーダデータ(追突事故・ニアミス)を用いて検証した.従来の追突リスク評価指標の課題を解決するための衝突余裕度(MTC:Margin
to Collision)をベースにしたリスク評価によって,先行車の減速とその認知,制動開始の判断,実行,制動量の調整といった一連のシナリオにおいて,ドライバの対応行動がそれぞれ適切であるかどうかを統一的に評価できることを示した.この診断手法を多数の事故・ニアミス事例に対して適用した結果,ドライバは減速操作を開始した後も対応行動を誤っていることが分かった.本論文は,追突事故予防にはドライバに減速操作を促すだけではなく衝突回避に有効な減速操作をドライバが実行するまで支援する必要性が高いことを示した.
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■ 情報制御システムにおける異種システム間相互接続のためのミドルウェア連携
日立製作所・山本 秀典,加藤 博光,鮫嶋 茂稔
近年、電力、交通、産業の分野では、グローバル競争激化、事業環境の急変のために現場系、制御系から情報系までに至る企業全体での業務効率化が強く求められている。このために現場系、制御系から情報系までのシームレスな情報共有と現場データの有効活用が必要となる。しかし各系にはそれぞれに適したミドルウェアが既に個別に導入されており、これらのミドルウェアの間には静的及び動的な異種性が存在する。本論文では、異種ミドルウェア相互接続のために、これらの異種性を解決するための仲介技術について提案する。また本技術をスマートグリッドシステムに適用する場合の例についても説明する。
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■ 近傍のロボットと障害物の識別を必要としない移動ロボット群の制御アルゴリズム
京都大学・坂井 大斗,福島 宏明,松野 文俊
従来の複数移動ロボットの制御手法の多くは,近傍のロボットと障害物の識別が可能であることを前提としている.ところが,実際の移動ロボットに実装する際には,このような識別が容易ではない場合も多く存在すると考えられる.同様に,多くの従来研究では他のロボットの速度が既知であると仮定しているが,この仮定が成立しない場合も存在すると考えられる.そこで本研究では,障害物と近傍のロボットを識別せず,これらの位置情報を用いて衝突回避を実現する移動ロボット群の制御手法を提案する.次に,このような限定された情報に基づく提案手法が従来手法と同様の特性を持つことを示すために,障害物が無い環境で仮想リーダが加速度を持たない場合の集団の振る舞いを理論的に解析する.また,提案手法の有効性を計算機シミュレーションにより検証する.さらに,多くの先行研究と異なり,提案手法を実機に実装して有効性の検証を行う.
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■ 磁気センサとLIDARを用いた自己位置推定手法
宇都宮大学・篠原 正俊,Sam Ann Rahok,井上一道,尾崎 功一
公共空間における移動ロボットの自律走行では、通行人等の移動体や天候の変化といった環境変化にロバストな自己位置推定が重要となる。本稿では、環境中の磁場を用いた磁気ナビゲーション法とLaser
Scannerを用いたMonte Carlo Localization(MCL)を組み合わせた手法を提案する。ロボット周辺から十分なランドマークが観測できない環境では、磁気ナビゲーションを用いて走行する。一方、十分なランドマークが観測できる環境では、MCLに切り替えることで、磁気ナビゲーションで累積された自己位置の誤差を補正する。つくばチャレンジ2011での実証実験と学内にて行った実験より、提案手法が環境変化に対して有用であることを示した。
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■ 搬送を考慮した分散協調型生産スケジューリング手法に関する研究
神戸大学・田ノ畑 裕幸,貝原 俊也,藤井 信忠
近年の生産システムにおいて,加工装置間の搬送の効率化は重要な課題である.本研究では,装置間に搬送作業を有するジョブショップスケジューリング問題に対しラグランジュ分解・調整法を用いた解法を提案する.提案手法では対象問題を,搬送時間を含めたジョブのスケジューリングとスケジュールを基にした搬送装置への搬送作業割当てに分割し,ラグランジュ分解・調整法の枠組みの中でそれぞれの問題を解き,調整しながら解を導出・改善していく.数値実験の結果,提案手法は短い計算時間でより効率的な生産・搬送スケジュールを導出できた.
▲ ■ ヤコビ擬スペクトル法を用いた最適制御問題の解法における双対変数の推定
防衛大学校・原田 正範
擬スペクトル法による非線形最適制御問題の数値解法は,直接法のため高精度な解を素早く計算でき,さらに双対変数の値により最適性の検証が容易に行える.しかし,ルジャンドル多項式やチェビシェフ多項式の特定の多項式系の場合に限られていたため,より一般的な多項式系への拡張が望まれていた.本研究は,高次ガウス・ロバット則による重み関数を適用したヤコビ擬スペクトル法に対して重み付き離散化を適用する事で,一般的な多項式系のヤコビ擬スペクトル法の場合でも双対変数の写像関係が成立する事を新たに示した.さらに,提案手法の有効性について間接法で得られた結果と比較を行い,最適解の導出と最適性の検証が容易である事を示している.
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