論文集抄録
〈Vol.49 No.6(2013年6月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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〃 (会員外) 8,820円 (税込み)
タイトル一覧
[論 文]
[ショート・ペーパー]
[論 文]
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■ バックステッピング法に基づく旋回クレーンの振れ止め制御
東海大学・大内茂人,小谷斉之,平田弘志
旋回クレーンは,ビルや港湾などで多く用いられているが,ブームの起伏と旋回を行う2個の
アクチュエータにより,吊荷を(x,y,z)軸上の任意の位置に素早く持っていくことが要求される。
しかし,このような系は加速度拘束を有する2階の非ホロノミック系であり制御則を求めることは困難である。クレーンの軌跡を(x,y)平面に投影すると,劣駆動2リンクマニピュレータの制御と酷似している事がわかる。
しかし,旋回クレーンの場合は,伸縮する1リンク目にロープ上の2リンク目がつながった構造であるため,劣駆動マニピュレータの制御則を用いることはできない。
一方,現在までに提案されている旋回クレーンの制御は,荷振れを抑制するような最適な目標パターンに基づいた方法,旋回角θまわりでの線形近似に基づいた方法,θ=tan-1(Fxy)による方法などがあるが,いずれの方法も外乱に対する制御,或いは特異点を有するなどの問題がある。そこで,我々はバックステッピング法を用いて制御則を導き,旋回角度θ,起伏角度φの範囲に関わらず連続的に制御可能な制御則を導出しその有効性を実験により確認した。
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■ 発明的問題解決理論TRIZに基づく不便の効用を活かす設計支援手法
京都大学・内藤浩介,川上浩司,平岡敏洋
便利の追求がユーザを疎外し,ユーザの能力を失わせるといった問題を生むことはよく知られている.一方,不便なシステム・方法はユーザーに気づきの機会を与え,創造的な使用法を引き出すなどの益を生む.しかし,そのような益をシステマティックに生み出す方法はいまだ知られていない.本稿では,便利さと前述の益とのトレードオフに注目し,発明的問題解決理論TRIZを導入する.不便な具体的な道具や方法を分析することによって,不便さとその益を関係付けるいくつかの原理を抽出し,不便益マトリックスと名付けた表に配置した.これはTRIZの矛盾マトリックスに倣ったものである.また,このマトリックスを使用することで,不便の効用を活かすアイデアの発想支援をシミュレートした.
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■ 駐車運転技量育成のための力覚呈示を用いた運転行動支援システム
筑波大学・廣川 暢一,マツダ・上杉 直久,古郡 了,北川 朋子,
筑波大学/JST・鈴木 健嗣
本稿では,後ろ向き駐車に関する運転技量の向上を目的とした新しい運転行動支援システムについて述べる.
提案手法は,ステアリングを介した力覚呈示により駐車に適切なステアリングの操作量・タイミングを運転者に教示する,操作支援に分類される運転支援手法である.
これにより,日々の運転を通した運転の習熟の効率化と,それによる安全性の向上を目的とする.本稿では始めに,支援方法の策定のために行った実車を用いた駐車行動計測実験について説明を行い,それにより得られた人の運転特性と駐車成績との関係について述べる.次に,提案手法を実装するために開発した実車の1/10スケールのシミュレーション環境について詳述する.
最後に,開発したシミュレータを用いた支援効果の検証実験の結果に基づき,提案手法による運転技量向上の可能性について考察を行う.
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■ 超音波渦流量計計測における気液二相流中の超音波反射特性と耐気泡性向上策の提案
日立オートモティブシステムズ・市川 英伸,東京理科大学・塚原 隆裕,川口
靖夫,
諏訪東京理科大学・河村 洋
超音波渦流量計において,計測部に気泡が混入すると超音波が減衰して十分な受信電圧が得られず,精度の低下もしくは出力の停止に至る問題がある.しかしながら,これまで気泡がどのように超音波を阻害し,流量測定に影響を及ぼすかについての研究はほとんどされていない.そこで,気液二相流中における減衰特性を実験にて確認し,モデル化をすることで検証した.その結果,超音波信号の減衰は,ボイド率だけでなく,気泡の流路内への分散度合いにも影響を受けることを見出した.また流路直径が4.5mmの場合,渦流量計計測部においては,実験の範囲では気泡が流路を覆うほどの気泡となってしまうため,超音波を遮断し,計測が不能となってしまう.一方,あるボイド率まではカルマン渦の発生周波数と流速の関係には変化が無いことが分かっていることから,超音波受信信号の振幅と送信信号の振幅を同じにする制御(Auto
Gain Control)が有効であることを提案した.
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■ ある種の切り替え系に対する繰り返し制御の局所安定解析
奈良先端科学技術大学院大学・平田 健太郎,高橋 健太郎
繰返し制御は周期的な目標値への追従を達成する制御手法として知られている.
しかし,周期動作の目標値が距離や角度といった状態量に依存して決まっている場合には,目標値を時間関数で与えることによって不都合が生じ得る.本論文では,車両システムを例に挙げてその問題点を示し,状態の切り替え動作を含む,
拡張された繰り返し制御によって,この問題に対処する.このような制御則のもとでは,
閉ループ系は非線形な時変むだ時間系となるため, 通常の繰り返し制御の安定解析を用いることができない.本研究ではその局所安定性が,
先行研究である受動歩行に対する遅延フィードバック制御の安定解析と同様に,
ある種のたたみ込み積分作用素のスペクトル半径によって判定されることを示し,
数値例によって結果を確認する.
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■ フルステップ駆動型ステッピングモータにおける紙テープ送り機構の制振・高精度位置決め制御
豊橋技術科学大学・吉田貴裕,山梨大学・野田善之,豊橋技術科学大学・三好孝典,
東京ウエルズ・菅沼直彦,西田真幸,豊橋技術科学大学・寺嶋和彦
ステッピングモータは,閉ループによる高精度位置決めが可能であり,1パルス付与すると一定角度進む性質を持つ.この特徴からFA機器やOA機器に多く使用されている.しかし,ステッピングモータは急加速・急停止するとモータの残留振動が発生し,目標値の整定に時間がかかる問題がある.そこで,本稿では2相ハイブリッド型ステッピングモータを使用したチップテーピングマシンの紙テープ送り機構部の,振動抑制制御と高精度位置決めについて研究する.紙テープ送り機構は加負荷があり,残留振動が一定区間に収まる最適パルスを求める事が困難である.本稿ではステッピングモータを間欠駆動した際に,負荷変動が生じた場合でも,高速動作かつ高精度な位置決めができるシステム開発する.まず初めに,モータの停止角度のばらつきを測定し,有意差を検証した.次に,紙テープによる負荷を考慮したモデルを作成し,最適パルスタイミングを設定した.最後に,シミュレーションで得られた結果を考察し,定常誤差が発生しないギアの組み付け方を提案した.また,提案手法が有用であるか実験により検証し,定常誤差が少ないことを検証した.
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■ 状態フィードバックゲインのデータ駆動型更新
金沢大学・金子 修,澤川 史明,山本 茂
本論文では,状態フォードバックゲインを,得られた一組の実験データそのもののみを用いて,所望のゲインに更新する手法を提案する.
ここでの手法は,著者らにより提案されたFictitious Reference Iterative
Tuning(FRIT)の考えを用いて一組のデータと所望の閉ループ伝達関数からなる評価関数を導入し,その評価関数を最小二乗法という簡便な計算方法で最適化する手法となっている. さらに,その評価関数の最小化が,本来最小化したい評価関数の最小化に関連していることを理論的に明らかにする. そして,自走式移動二輪の状態フィードバックによる制御実験の結果を示すことで,提案する更新手法が有効であることを示す.
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■ 入力飽和を考慮した動的視覚オブザーバによる位置姿勢制御―小型自律飛行ロボットへの適用―
金沢工業大学・河合宏之,産業技術大学院大学・村尾俊幸,
金沢工業大学・鶴尾有生,東京工業大学・藤田政之
本研究では入力飽和を考慮した動的視覚オブザーバによる視覚フィードバック制御を考える.具体的には飽和型三角関数を用いて視覚偏差システムへの入力を設計する.そして,提案する制御則による閉ループ系の平衡点の安定性を議論する.このとき,提案する制御則は視覚偏差システムの有する受動性に陽に基づいているわけではないが,システムの有する歪対称性が安定性を議論するうえで重要な役割を果たしている.さらに小型自律飛行ロボットとして
AR.Drone を用いた実システムを構成し,位置姿勢制御実験により提案する制御則の有効性を検証する.本手法は,偏差が大きい場合においても,入力に飽和を与えていることで過度の摂動を抑制可能な設計法となっている.また,入力を飽和させる状態の範囲と入力の上限値をパラメータとしてあらかじめ設定できるため,実システムにおいてはモータなどをその性能の範囲内で駆動させることができる.
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■ 磁界共振結合による中継アンテナを用いた位置センサの提案と実験的検討
中央大学・中村 壮亮,東京大学・胡間 遼,鰺坂 志門,
久保田 孝,中央大学・橋本 秀紀
本論文では,磁界共振結合による中継アンテナを用いた位置センサを新規に提案し,実験によって基本性能を明らかにした。提案センサは,著者らが先行研究で提案した磁界共振結合を用いた位置センサと同様に,ほぼ同一構成でのワイヤレス電力伝送が可能であるという特長を有する。また,これに加えて,システムから分離独立した構成である中継アンテナを用いることで配線の引き回しが存在しないため,配線間の相互干渉がない,高いQ値の実現,システム構築の容易さといった新たな特長を有する.さらに,移動ロボットの位置推定での有用性を実験によって示した。ここでは,床面からの高さ0.03mの平面を受信アンテナの可動域として,可動域において直線上に移動した場合の位置推定を行い,0.003m-0.020m程度の位置誤差が得られた。ここで,誤差原因はセンシングに十分な電力フローが形成される結合経路数の低下と推測できているため,中継アンテナ数を増やすなどの位置推定法の改善によって今後の精度向上が期待できる。
[ショート・ペーパー]
▲ ■ l1最適化を用いた循環構造を有するシステムのモデリング
慶應義塾大学・石川健太郎,京都大学・丸田一郎,慶應義塾大学・足立修一
内部に循環構造を有するシステム,すなわち物質が周期的に循環するような機構を有するシステムの出力は,1周期前の出力の影響を受ける.したがって,これを記述するモデルは高次の回帰項を含むが,循環周期が未知の場合には,通常の同定手法を用いると不要な回帰項を含む高次のモデルが推定されてしまう.そこで本稿では,このようなシステムの回帰項がスパース性を有することに着目し,特徴量抽出手法であるl1最適化を応用することで適切なモデルを得る手法を提案する.また,数値シミュレーションにより提案法の有効性を示す.
▲ ■ 複素ネットワークインバージョンのための目標位相角による正則化法
拓殖大学・小川毅彦,高根 覚
複素領域に拡張された逆問題解法のために,複素ネットワークインバージョンが提案された.一般に逆問題には不良設定性の問題があり,特に結果から原因への関係が多価関数となる場合は,解の一意性に関する不良設定問題となる.本研究では,一意性に関する不良設定性を解決するために,入力の目標位相角を与える複素正則化法を提案する.提案法の効果を,べき乗関数の逆推定と多自由度アーム関節角逆推定のシミュレーションで示す.
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