論文集抄録
〈Vol.49 No.4(2013年4月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
[ショート・ペーパー]
[論 文]
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■ MEMS技術を利用した気流センサの研究−昆虫型ロボットへの搭載−
工学院大学・柏原稔樹, 野中昂平, 鈴木健司, 高信英明, 三浦宏文
本研究では,昆虫の感覚毛を規範としたタッチセンサ式の気流センサの製作を行った.コオロギなどの昆虫は,感覚毛を用いて微小気流を認識することにより逃避行動を行っている.気流センサについては,形状をカンチレバー構造にし,上下に導電体を向き合うように設置し,上部の導電体を支えるための絶縁体で構成した.上部の梁先に取り付けた毛に気流による外力が加わり,導電体同士の接触による通電により気流を認識する.風洞装置を用いて製作した気流センサの評価を行ったところ,梁長さ1mm,1.25mm,1.5mmのセンサで1.1m/s,0.7m/s,0.1m/sの気流を認識することができ,梁の長さに応じて風速の違いを認識できることが確認できた.その後,評価した気流センサを昆虫規範型ロボットの表面に実装を行った.
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■ ジョイスティック式自動車運転装置による操舵制御に関する検討
東京農工大学・和田正義,ニッシン自動車工業・亀田藤雄,斎藤征道
ジョイスティック式自動車運転装置における操舵制御について検討を行った.
ジョイスティック式自動車運転装置は,障害者自身による自動車の運転を実現する福祉機器であり,障害者自身の自立を促進し,介護者の負荷を軽減する.
本文では,軽い力,小ストロークで運転できるジョイスティックによる車両横転の危険性について,車両速度と横転の条件の関係を動力学モデルから導出し,これを基に操舵角度に制限を施すことで,車両の走行安全性を維持することを提案している.動力学モデルから導出した理論式と,実車両における走行データを比較し,その妥当性を検証し,実際の制御装置に操舵制限アルゴリズムを実装した.この対策を講じた車両は認可取得に成功し,公道が走行可能となった.
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■ 過渡応答データを用いたフィルタバンクによるゲイン推定とExtension定理
広島大学・佐伯正美,和田信敬,佐藤訓志
非反証制御では有限長の入出力応答データを用いてl2ゲインを推定することが必要である.われわれは,既に,フィルタバンクを用いてl2ゲインを推定する方法(フィルタバンク法)を提案し,非反証制御の概念に基づくPIDゲイン調整のためのループ整形法を提案している.本論文では,このフィルタバンク法の性質を明らかにした.特に,Extension定理に基づくl2ゲインの推定法(Extension法)は最も高精度の推定が行えると考えられるので,これと比較検討した.フィルタバンク法で得られた各サンプル周波数でのゲインの推定値の存在区間の評価式を与え,さらに,その最大値と比べてExtension法の推定値のほうが真値に近いことを示した.数値実験により,フィルタバンク法とExtension法を比較し,雑音が無い場合には両者の推定精度の差は小さいこと,測定雑音がある場合にはフィルタバンク法のほうが測定雑音に対するロバスト性が遥かに優れていること,Extension法ではデータ長の増加に伴い計算量が急激に増大するが,フィルタバンク法ではそのようなことがないことを指摘した.
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■ 1次元Wiener過程による確定アファインシステムの概漸近安定化問題
鹿児島大学・西村悠樹,山口大学・田中幹也,山口大学・若佐裕治
本論文は,1次元Wiener過程の印加がシステムの原点の局所概漸近安定化には寄与しないことを明らかにするものである.まず,確定システムと確率システムにおける漸近安定性を比較し,Hasminskiiによる確率Lyapunov関数のサブレベル集合は不変集合とはならないことを示す.次に,確定システムの漸近安定性と確率1で等価といえる,Bardi
and Cesaroniよる概漸近安定性を紹介する.さらに,確定システムの制御入力として1次元Wiener過程を印加するとStratonovich型確率システムが得られることを示す.
これらの準備のもと,確定アファインシステムの漸近安定でない原点は,制御入力として1次元Wiener過程を加えても局所概漸近安定化されることはないことを示す.さらに,「確率1での漸近安定性」と「確定システムの漸近安定性と確率1で等価な確率安定性」とが異なることを,確率Lyapunov関数と概Lyapunov関数との比較のもと,数値シミュレーションを通して具体的に示す.
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■ シルエット特徴と局所特徴を用いたパーティクルフィルタによるゴルフスイング軌跡推定
鳥取大学,レイトロン・臼井 温,鳥取大学・近藤克哉
スポーツの上達のためにはフォームの改善が必要であるが,プレーヤにとって自分のフォームを把握することは簡単ではない.本論文ではゴルフスイングの軌跡を可視化する手法を提案する.トラッキングには一般的にパーティクルフィルタが広く用いられるが,ロバストではなく,追従精度に問題があった.そこで,局所情報のみではなく大局的な情報を併用するアプローチを提案する.具体的には,パーティクルフィルタに加えて,ポーズ推定とPSMを用いた腕位置推定を組み合わせる.ポーズ推定には人物位置推定処理とシルエット特徴量を用いる.複雑背景下のスイング画像データによる評価を行い,トラッキング精度の向上など提案手法の有効性を確認した.
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■ 線形放物形安定化制御系に対する一考察:静的フィードバック機構
神戸大学・南部隆夫
線形放物形境界制御系に対する安定化問題には30年以上の歴史があり,境界観測/境界制御機構を含めて,補償器を組み込む動的制御機構が成功を収めている.その機構の基礎になるのは,70年代に構築された静的制御機構のもとでの安定化論である.本文では,静的制御機構における極再配置理論の新しい側面を明らかにする:すなわち,安定な右半平面に再配置する極は,その設定によっては一般化固有空間を生成することになり,その重大な結果として制御系には時間発展として代数的増大性が現れるという好ましくない事態が起こることを示す.
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■ 集束超音波を用いた表面硬さ分布の遠隔計測
東京大学・藤原正浩,篠田裕之
本論文では遠隔から物体の表面硬さ分布を測定する手法を提案する。主な応用として、触力覚ディスプレイを用いて多くのユーザが同時に実物体に触れた感覚が得られるシステムで提示するために、実物体の触覚情報を提案手法で取得しモデリングすることを想定している。我々の計測システムは物体表面を遠隔から加圧するための音響放射圧を生成する超音波フェーズドアレイとレーザー変位計で構成されている。表面硬さは生じた変位と荷重との比によって評価される。このシステムでは物体表面上の加圧点を高速に走査することが可能である。我々は本手法の有用性を評価するために計測システムを構築し、皮膚程度の表面硬さ分布を計測可能なことを実験で確認した。
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■ 濃度勾配情報を用いた胸部MDCT画像における経時的差分手法
九州工業大学・前田真也,三宅徳朗,金 亨燮,タンジュークイ,
石川聖二,産業医科大学・村上誠一,青木隆敏
近年,コンピュータ支援診断システム(Computer Aided Diagnosis ; CAD)が画像診断に用いられ始めています.また,CADのための技術の1つとして,経時的差分手法に関する研究開発が行われています.経時的差分手法は,現在画像から過去画像を差分することにより病変部などを強調表示する手法です.経時的差分手法においては,差分処理の前に画像間の位置合わせが必要となります.しかし,この画像間位置合わせが不十分な場合,除去されるべき正常構造が差分画像上に残存してしまいます.そこで本論文では,画像の濃度勾配から得られる血管構造の情報を用いた,経時的差分手法のための画像位置合わせ手法を提案します.また,提案手法を胸部MDCT画像に適用しその有用性を示します.
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■ 階層ディリクレ過程に基づくロボットによる物体のマルチモーダルカテゴリゼーション
電気通信大学・中村友昭,荒木孝弥,長井隆行,岩橋直人
本論文では,ノンパラメトリックベイズの一種であるHierarchical DirichletProcess(HDP)を用いて物体概念の形成を行う.ロボットが実際に物体を掴み,様々な視点から観察することで得られるマルチモーダル情報を,教師なしでカテゴリ分類を行い,物体概念を形成する.HDPを物体のカテゴリゼーションに応用することで,物体概念モデルのパラメータだけでなく,カテゴリ数の推定も可能となる.さらに,学習したモデルを用いることで,未学習物体のカテゴリ認識や,未観測情報の予測等が可能となる.実験により,HDPを用いることでカテゴリ数の推定が可能であること,さらにマルチモーダル情報により人間の感覚に近い分類が可能であることを示す.さらに,学習したモデルを用いることで,未学習の物体の認識や,未観測の情報の予測が可能であることを示す.
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■ ペトリネットの分解アプローチによるデュアルアームクラスタツールのデッドロック回避スケジューリング
大阪大学・松本 出,西 竜志, 乾口雅弘
クラスタツールは半導体製造装置としてさまざまなシリコンウエハを処理するために広く用いられている. デュアルアームクラスターツールは, ロードロックモジュル, プロセスモジュール, およびその間の搬送に用いられるデュアルアームロボットアームから構成され, 装置の特殊な構造上のため,制御次第で容易にデッドロックとなる可能性がある. そのような状況で,デッドロックを生じずに生産性向上を行うためのスケジューリングは非常に重要である. 本論文では, ウェハの投入から処理完了まで一連のクラスタツールの動作を離散事象システムとしてモデル化し, ペトリネットの分解アプローチによるデッドロック回避スケジューリング手法を提案する. デッドロックフリースケジュールを得るために, マーキングのないサイフォンを防止するためのデッドロック回避方策を示す. 開発したデッドロック回避方策はペトリネットの分解法によるスケジューリング手法に併用する. 数値実験により従来法と比較することで デッドロック回避方策を併用した提案法の有効性を示す.
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■ 非線形量子化器を伴う空圧式除振台の制御
信州大学・小池雅和,千田有一,池田裕一
空圧式除振台は精密部品の製造,測定分野で広く用いられており,アクティブ制御についてこれまで種々の研究がなされている.これらの研究では,空気ばねの内圧をアクティブに制御することで,微振動を抑制している.一方,加工,測定工程を有する工場の生産ラインではワークを空圧式除振台に置いた際に発生する大変位の振動を高速に抑制したいという要求がある.大変位の振動を抑制するためには,瞬時に操作量の飽和領域である最大入力または最小入力を切り替える必要があり,on-offバルブを用いた量子化制御入力によるアクティブ制御が適している.高い性能を得るためには,on-offバルブによる量子化操作を考慮する必要があるが,特に着目すべき点は空圧式除振台に含まれる量子化器が非線形量子化器になるという点である.量子化操作を考慮した従来手法をこのような非線形量子化器を含むシステムに適用すると,線形量子化器を含むシステムに適用した場合に比べて制御応答が劣化する場合がある.
そこで,本稿では,非線形量子化器を含むシステムに対し,性能向上を目指した新たな制御手法を提案する.提案手法の特徴としては,操作量を加えるか否かを量子化誤差を考慮したリアプノフ関数に基づいて判断する点である.これによって,量子化操作に起因するシステムの不安定化を避け,適切に操作量を加えることができる.さらに,操作量を加える場合には,複数の固定フィードバックゲインを予め用意しておき,リアプノフ関数に基づいてフィードバックゲインをオンラインで切り替えることで応答性の向上を目指す.提案手法を空圧式除振台の振動抑制制御に適用し,その効果を数値シミュレーションと実機実験により検証する.
[ショート・ペーパー]
▲ ■ sが右半平面を囲うことを前提としないナイキストの安定判別法のシンプルな証明
近畿大学・小坂 学
イキストの安定判別法の証明では、ラプラス変換の複素変数sが右半平面を囲む閉曲線に沿って時計回りに動くことを前提としている。しかし、ナイキスト軌跡はsの大きさが∞のときに一定値になるので、sが左半平面を囲む閉曲線に沿ったとしても同じ軌跡になる。つまり、sが右半平面を囲む閉曲線に沿ったことを、ナイキスト軌跡から見出すことができない。証明としてはそれで問題ないが、この右半平面に限定した前提を省くことができれば、証明がよりシンプルになる。そこで、この前提が不要な新しい証明を行う。
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