論文集抄録
〈Vol.49 No.3(2013年3月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
[ショート・ペーパー]
[論 文]
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■ 確率的外観モデルに基づく魚眼カメラ画像からの人物検出
大阪市立工業研究所・齋藤 守,北口勝久,同志社大学・橋本雅文
本論文では魚眼カメラ画像からの複数人物の検出手法について提案する。本手法では半球面画像
における人物画像の広範囲な変動に対応できる確率的外観モデルを導入する。ここでは歩行者を代表
する画像特徴として全身シルエットと胸頭部輪郭によるテンプレートを定義する。次に魚眼カメラに対して様々な位置,方位で取得したテンプレートを学習画像とし,主成分分析(PCA)と非線形カーネル回帰(KRR)を用いることで人物の確率的外観モデルを構築した。人物検出はこのモデルを用い,Bayes理論におけるMAP最大化問題として定式化した.実験では,屋内における限定した状況下での歩行者検出を行い,提案手法の有効性と精度について検証した.その結果,本手法は平均3.75人/frameの歩行者を含む
時系列画像に対して93%の検出率を示した.また体型の異なる被験者や歩行中の様々な腕の動作,人物同士の重なりなどがある場合でもロバストな検出性能を有することを示した。
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■ 曲線追従における潮海流の推定と制御
東京計器・羽根 冬希
本稿は船舶用航路追従システムの曲線航跡において,潮流による航路誤差を防止するための3つの方法を提案する。曲線航跡では潮流が一定でも船首方位が変化するため,船体に作用する潮流成分は変化する特徴をもつ。
参照座標系で構成した現行の線形潮流推定式は方位要素を含み,曲線航路では非線形になるため利用できない。第一の提案法は推定式に方位要素を含ませないため,地球固定座標系で線形推定式を構成する。軌道追従制御を用いた半径一定航跡実現のため,現行法は対地の前進速度をしきい値と比較する更新条件から得られた更新速度によって角速度を更新し,潮流の横速度を2自由度制御による斜航角で修正する。連続的でない更新操作に伴う現行の半径誤差を低減するため,第2の提案法は更新条件,更新速度としきい値を変更する。斜航角修正のための現行のフィードフォワード舵角は設定値を超える場合を生じる。第3の提案法はその最大値が設定値以下に収まるため,その最大値を解析し条件式を導出する。
本提案法の有効性をシミュレーションによって検証した。
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■ 荒天時桟橋停泊のための可変ピッチプロペラ操船法の自動化に関する一考察
広島工業大学・土井正好,弓削商船高専・永本和寿,
首都大学東京・出縄憲一,森 泰親
風等の強風下において船舶は係留索が破断することを恐れ, 桟橋を離れて海上沖に錨泊する.
そこで, 新たな操船法として強風によって係留索が引張られる方向に対して反対側にプロペラ推進力を与え,
係留索張力を軽減する方法が試みられている. しかしながら, 風速・風向を見ながらそれに対応したプロペラ推進力を調整することは操船者の経験と力量に頼る.
そこで, 本研究では強風下において桟橋停泊を維持するため, その時々の風速を検知しながら風に対抗できる推進力を算出する制御系を設計する.なお,
船舶推進に係る可変ピッチプロペラ(CPP)の応答性にはむだ時間を含むことを確認した.
そこで本研究では, 予測制御法である一般化最小分散制御法(Generalized Minimum
Variance Control)を採用し, 船体運動への風影響を考慮したサーボ型GMVC制御系を設計する.
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■ 状態及び入力ノルムの制約を満足する非線形最適制御器の設計
名古屋大学・梅田 大貴,坂本 登,アイシン・エィ・ダブリュ・梅村 哲央
実在するシステムの制御において状態量や制御入力に制約が課せられる場合が多く,
またインバータを用いて制御される交流モータ等, システムによってはアクチュエータ単体毎の入力制約ではなく入力全体のノルムに対する制約が課せられる場合もある.
本論文では, これらの制約を陽に取り扱うため評価関数に非線形重み関数を導入し,
状態量に制約が課せられる場合と入力ノルムに制約が課せられる場合のそれぞれについて非線形最適制御問題の枠組みで制御器の設計方法を提案する.
また, 数値例題およびDCモータを用いた実験により提案した設計法の有用性を検証する.
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■ 複数のパッシブ型移動ロボットと人間との協調による単一物体の搬送
東北大学・平田泰久,小嶋洋介,小菅一弘
本論文では,パッシブロボティクスの概念に基づいて開発されたO-PRP(Omni-directional
type Passive Robot Porter)を紹介し,O-PRPの特徴とその基本となる運動制御アルゴリズムを提案する.また,複数のパッシブ型物体搬送ロボットと人間との協調により大型物体搬送を実現する手法として物体の操作特性を変化させる手法やその拡張による姿勢制御手法を提案する.提案した制御系を2台のO-PRPに適用し,物体の搬送実験を行い,その有効性を確認する.
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■ 発話におけるポーズ長とその前後の発話長の関係
東京工業大学・鴨井 一人,金沢工業大学・山本 知仁,
東京工業大学・三宅 美博
人の発話において,ポーズは単なる無音声の区間ではなく,発話内容と強い関連性をもつ音声発話の一構成要素として捉えられる.本論文では,このポーズに注目し,その長さが前後の発話長とどのような関係にあるかを調べた.先行研究においても,ポーズ長と発話長の関係は調べられており,ポーズ直前の発話長と,ポーズ直後の発話長がポーズ長に影響を与えることが明らかにされてきた.一方,ポーズ前後の発話長の関係からの影響や,これら3つの影響の関係についてはこれまで明らかにされてこなかった.よって本論文では,これらの関係を包括的に調べるために,2単語で構成される単純なXY発話句を提案し,これを発話する実験において単語の文字数を操作することで,ポーズ長と,ポーズ直前,ポーズ直後の発話長の関係を解析した.結果として,これまで明らかにされていたポーズ直前の発話長からの影響に加え,ポーズ直前と直後の発話長の変化率からの影響があることが新たに明らかになった.本論文では,これらの結果を因果的な時間関係と,因果的ではない時間関係の2つの観点から考察し,ポーズ長が生成されるメカニズムについて議論した.
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■ マルチエージェントタスクに対する群強化学習法 -ジレンマ問題の解法-
京都工芸繊維大学・山分翔太,黒江康明,飯間 等
本研究の目的は、マルチエージェント問題に対して、並列に環境とエージェントを複数用意し,その間で情報交換を行いながら学習を行う群強化学習による解法を提案することである.ところが、マルチエージェント問題には様々な種類の問題があり、それら全てに有効な解法を開発することは非常に困難である。そのため、ある程度問題の種類ごとに解法を開発する必要がある。本論文では、エージェント自身の合理性と集団の合理性が対立しており、それゆえ学習が困難なジレンマ問題をとりあげ、その典型的な問題である繰り返しN人囚人のジレンマ問題に対する群強化学習による解法を提案している。
本稿では,エージェント同士が協調し合うことが難しいマルチエージェント問題であるジレンマ問題に対して,並列に環境とエージェントを複数用意し,その間で情報交換を行いながら学習を行う群強化学習による解法を提案する.
提案手法は,協調行動の価値が高くなる情報をエージェントが選別し,その情報を各学習世界の同じエージェント間で共有して学習する方法であり,他のエージェントの報酬情報を知ることなく協調行動を学習することができる.
ジレンマ問題の一つである共有地の悲劇問題に対して提案手法を用いて実験を行うことにより,提案手法の有効性を示す.
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■ 局所線形PLS法に基づくシステム同定法
リコー・室井秀夫,慶應義塾大学・式守 崇,足立修一
本論文では,局所線形モデルを利用した新しい非線形システム同定法である局所線形PLS法を提案する.提案法は,まず,RLS法のような既存の同定法によって局所線形モデルを構築し,つぎに,システムの入出力や過去の局所線形モデルのパラメータを入力,現在の局所線形モデルのパラメータを出力とする,仮想システムを同定し,これらを組み合わせることで伝達関数に似た非線形モデルである局所線形PLSモデルを構築するものである.本論文では,提案法を導出し,その性能を数値シミュレーションにより検証する.
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■ 分割測定法による回転精度検査用標準器の形状評価とその不確かさ推定
産業技術総合研究所・佐藤 浩志,渡部 司,藤本 弘之
真円度測定機の性能評価に用いられる基準球の真円度や形状測定は年々高精度な測定が要求されている.高精度な測定法には,マルチステップ法と位相組合せ法などがある.マルチステップ法は,測定対象を等分割に回転させながら測定する方法である.分割数に依存する分離できない成分が存在するが,分割数を多くすることで高精度に推定できる特徴を持つ.位相組合せ法は少ないマルチステップ法による測定結果の位相を組み合せる方法により,多くの分割数のマルチステップ法で測定した結果と同等となる特徴がある.しかしながら,いずれの計測法においても,分割数に依存する不確かさ評価について詳しく研究された報告はない.もし過剰に精度を求めてしまえば,必要以上に多くの分割測定をするため,測定対象の摩耗や測定時間が長くなってしまう.本論はこれらの測定法に起因する不確かさを評価し,その不確かさ成分から目標精度に適した分割数を数回の予備測定から予測する方法を提案する.また,位相組合せ法を適用した不確かさ評価結果から効果的な組合せを示す.
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■ 自動車加速エンジン音に対する聴感印象と大脳皮質活動の関係に関する検討
広島市立大学・石光 俊介,兵庫県立大学・加嶋 健司,
東京工業大学・井村 順一,東京大学・合原 一幸
本研究では,自動車エンジン音に対する聴感印象の客観的評価のための基礎検討として,脳磁界計測による自動車加速時のエンジンの音質評価を試みた.まず,加速音に対する心理的好ましさとアルファ活動との関係を調べた.加速音に対する好ましさを一対比較法測定し,それらの加速音を提示している間の大脳活動を全頭型脳磁計を用いて計測した.アルファ波帯域の脳磁界の自己相関パラメータと心理尺度の比較を行った結果,好ましくない音を提示した場合に比べて,好ましい音を提示した場合に後頭部付近でのアルファ波の自己相関関数の有効継続時間が長くなる傾向が確認された.さらに,加速音に対する聴覚誘発脳磁界反応とSD 法による聴感評価との比較を行った.その結果,周波数の時間変化の違いによる聴感印象の差が,聴覚誘発脳磁界のN1m 振幅値に反映されている可能性が示唆された.以上より,音質評価に脳磁界計測を用いることで,自動車加速音の客観的評価ならびに脳の情報処理機構を解明する脳科学の一躍を担う可能性を確認することができた.
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■ ルーリエ系の絶対不安定条件
JST,東京工業大学・井上 正樹,鈴木 雅康,大阪大学・高見 健治,
産業技術総合研究所・中川 誠司,添田 喜治
本論文では,ルーリエ系の絶対不安定条件を考える.絶対不安定性の定義を与えたあと,そのた
めの線形行列不等式形式の条件とそれと等価な周波数領域不等式の条件を導出する.これら不等
式条件はよく知られる絶対安定性のための円板条件と対応する形となっている.
[ショート・ペーパー]
▲ ■ モデルベース強化学習を用いた六脚ロボットの前進行動獲得
松江工業高等専門学校・石原 弘二,東京貿易メディシス・大村 佑貴,
松江工業高等専門学校・堀内 匡
人間と共存するロボットの実現に向けて,ロボットが自律的に行動を獲得するための技術が必要不可欠である.強化学習は,ロボットが自律的に行動を獲得するための技術として有望な手法であり,これまで盛んに研究が進められている.しかし,強化学習の研究においては,計算機上でのシミュレーション実験が多く,実機ロボットを用いた研究はそれほど多くないのが現状である.
本研究では,ROBOTIS社のBioloidを用いて六脚ロボットを組み立て,強化学習を用いることで効率良く前進する行動をロボット自身が獲得することを実現する.その際,高精度かつ高トルクのサーボモータで構成した六脚ロボットを対象とした場合,報酬は確率的であるが状態遷移が決定的となることに着目する.また,六脚ロボットの12個のサーボモータすべてを学習対象とするのではなく,拘束条件を設けることに
より,3自由度での前進行動獲得を実現する.実機実験を通して,モデルベース強化学習の一つである価値反復によって,六脚ロボットが前進行動をQ学習より少ない試行回数で獲得できることを明らかにする.
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