論文集抄録
〈Vol.49 No.2(2013年2月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)
〃 (会員外) 8,820円 (税込み)
タイトル一覧
特集「社会のなかの制御理論・社会のための制御技術」
[論 文]
[ショート・ペーパー]
[論 文]
▲
■ プロセスの動特性を考慮した非線型ソフトセンサー手法の開発
東京大学・金子弘昌,船津公人
産業プラントにおいては、測定困難なプロセス変数を推定する手法として、ソフトセンサーが広く用いられている。ソフトセンサーによって推定された値を実測値の代替としてプロセス管理へ応用することにより、迅速な制御を連続で行うことが可能となる。我々は以前に、ソフトセンサー解析において最適な説明変数とその動特性を同時に選択する手法を開発した。しかし、その手法では線型の回帰モデル構築手法が使用されており、説明変数と目的変数の間の非線型関係を適切に表現することは困難であった。そこで本研究では、変数間に非線型性が存在する場合においても適切な変数領域選択と予測精度の高いモデル構築を同時に達成することを目的として、非線型回帰分析手法の一つであるsupport
vector regressionを応用した新規な変数領域選択手法を開発した。シミュレーションデータと実プラントデータを用いた解析を行い従来手法と比較、検討したところ、提案手法を用いることでプロセス変数間の非線型性を考慮に入れた妥当な変数および動特性の選択、そして予測性の高いモデル構築が可能になることを確認した。
▲
■ 自動車用ディーゼルエンジン触媒温度制御へのリファレンスガバナの応用
トヨタ自動車・仲田勇人,Ricardo UK Ltd・Gareth Milton,Peter Martin
トヨタ自動車・家村曉幸,大畠 明
本論文では,自動車用ディーゼルエンジンの触媒温度制御へのリファレンスガバナの応用について考察する.リファレンスガバナとは,制約を考慮して制御目標値を修正する機構である.リファレンスガバナのアルゴリズムは,触媒温度モデルを用いた有限時間将来の予測に基づいて制約の抵触有無を判定し,制約を満足しつつ最も元の目標値に近いものに修正する.修正目標値の探索には,二分探索手法を適用し,効率良くオンライン演算を行える手法を適用し,その探索区間はモデル化誤差を考慮して目標値変化とは逆方向の探索を許容する.最後に,数値シミュレーションおよび実験結果を示して,本提案手法の有効性を示す.
▲
■ 直線探索付き反復勾配法を用いた分散制御による電力ネットワークの系統周波数制御
慶應義塾大学・加藤太一郎 , 祓川 悠 , 滑川 徹
本論文では分散型電源を導入した電力ネットワークに対して, 直線探索付き反復勾配法に基づいた系統周波数制御を提案する.
提案手法は従来法と比較し, 制御入力を直接更新する事によって, 情報交換するデータの量を減らす事ができる.
またステップ幅の更新の際に直線探索を行う事によって収束性が示される. また隣接する系統の情報をのみを使用するだけで更新する事ができる.シミュレーションでは従来法と比較を行い,
その有効性を示す.
▲
■ ゲーム理論的学習アルゴリズムに基づく太陽光発電出力のならし効果最大化
東京工業大学・畑中健志・藤田政之
本論文では,再生可能エネルギー,特に太陽光発電の「ならし効果」に着目し,その効果の最大化問題をゲーム理論に基づいて考察する.まず,日射量実データの解析によってならし効果の存在を確認する.
つぎに,その効果の最大化問題の一つとして,各コミュニティの最適電源選択問題を考え,これを資源配分ゲームとしてモデル化する.さらに,このゲームをポテンシャルゲームとよばれるゲームに帰着させ,利得に基づく学習アルゴリズムの実時間実装法を提案する.最後にシミュレーションを通して提案アルゴリズムの有効性を検証する.
▲
■ ピーク電力削減のためのノートPC のバッテリー制御
富士通研究所・岩根秀直,富士通研究所/九州大学・穴井宏和,
富士通研究所・篠原昌子,村上雅彦
東日本大震災の影響による電力の供給力不足に対し,省エネ規制が総電力量からピーク電力の削減に見直された.(株)富士通研究所ではノートPCのバッテリーをオフィスの余剰電力として利用することでピーク電力を削減する制御システムを開発した.本システムでは,オフィスの電力需要予測と充放電制御計画の立案を行う.本論文ではシステムの概要と予測結果を用いてノートPCのバッテリーの充放電計画を立案する手法の詳細,シミュレーションおよび実証実験による評価結果について述べる.
▲
■ 半導体搬送用台車の連続時間ロバスト有限時間整定制御
電気通信大学・澤田賢治,NTT東日本・井川達也,
電気通信大学・新 誠一,村田機械・熊谷賢治,米田尚登
半導体生産工場において,複数の工程を経て半導体回路へと形成されていくシリコンウエハーの搬送には自律無人搬送車(AGV)が用いられる.生産
性向上のため,近年のAGVの位置決め制御に対する要求は厳しい.たとえば,ウエハーの大口径化やAGVの稼働台数の増加により,重量化したウエ
ハーの高速搬送やAGVの車間距離が狭くなる等の問題が発生する.これらの課題を解決するために,AGVの位置決め制御にはウエハーを決められた場所に決められた時間内に正確に搬送するという有限時間の整定特性が必須である.
本論文はAGVへの実用化を想定した連続時間型の有限時間整定(デッドビート)制御系の構築を考える.AGVの位置決め仕様に対処するために,制
御系の構造としてI?PD 制御器とデットビート制御器からなるカスケード型制御系を考える.
具体的には,極指定設計に基づくI?PD 制御器により,オーバーシュート,積載量変化,モデル化誤差に対処する.また,サーボモータの電流飽和による過大トルクを避けるため,デッドビート制御器
のむだ時間要素の数を冗長化し,モータ電流の時間応答を調整することを目指す.そして,積載量変化に着目したAGVモデルを実験データから作成
し,そのモデルを通して提案制御系の有効性を検証する.
▲
■ 蓄電装置の残量推移に基づく電力需要平準化閾値決定法とそれを用いた平準化制御
富士通研究所・舟久保利昭,遠藤康浩
本論文では,蓄電装置を用いた電力需要平準化のための閾値決定手法を提案する.先行技術として需要変動を予測し,蓄電装置や負荷機器を含むシステムモデルを用いたシミュレータにより,最適な値を探索して決定する手法等があるが,このような手法では,機器の違いや温度,経年等によって複雑に変化する機器の特性を忠実にモデル化しなければ,決定された閾値を実際のシステムに適用しても最適な結果は再現されない.よって,実際のシステム構築には非常に煩雑で大きな手間を要する作業が必要となる.提案手法は,このような煩雑な処理を不要とし,実際のシステム構築を容易に実現可能とするものである.また,提案手法を適用した平準化システムを開発し,シミュレーションと実験とによって平準化効果を評価した.開発したシステムの制御は、閾値を日毎に更新し夜間電力を蓄えて昼の需要ピークを削減する方式であるが,評価は単日ではなく,長期間の連続運用にて行った.この結果,シミュレーション評価では,約3年間実測した5つの需要パターンを用いて,2〜5%程度,実験評価では,実際の負荷に対して1ヶ月弱の実運用を行い,20%を超えるピーク削減効果を確認し,提案手法の有効性を示した.
▲
■ 遅延時間を伴う柔軟マスタースレーブアームのバイラテラル制御
京都工芸繊維大学・八木政治,林 明慶,澤田祐一,木村 浩
ローカルエリアネットワーク(LAN)やワイドエリアネットワーク(WAN)といったネットワークを介してマニピュレータを遠隔操作することは,操作者の技能を遠方に提供する上で非常に重要な技術となる.マスターアームとスレーブアームは参照データ,制御入力,観測データなどの情報をネットワークを介して相互に通信することになるため,遠隔操作はネットワークによる伝送遅延時間を含むフィードバックシステムと見なすことができる.しかしながら,ネットワークを介することで発生する遅延時間の存在は制御システムの安定性と操作性を低下させる要因となる.一方,多くの場合,剛体マニピュレータが使用されているが,近年では軽量かつ機械的に柔軟という特徴から低消費エネルギという利点を持つ柔軟アームも注目されている.スレーブアームとして柔軟アームを導入することは安全面,コスト面から見て非常に有意であり,ネットワークを介した遠隔操作においても十分な効果が期待できる.本論文では,任意の一定遅延時間を伴う1リンクの柔軟マスタースレーブアームの対称型バイラテラル制御の設計と安定性について議論する.提案する対称型バイラテラル制御はマスターアームは剛体アーム,スレーブアームを柔軟アームとして構成し,両者は一定の遅延時間を伴うネットローラとしてマスターアームをPD制御,スレーブアームをPDS制御として設計した.構成した関数がリヤプノブ関数となるように各コントローラのゲインの範囲を決定し,提案したバイラテラル制御の安定性を解析的に証明した.更に,提案した手法に基づいて,数値シミュレーションを行い,システムの安定性を検証した.
▲
■ クオータニオンを用いた小型固定翼機の高性能Prop-Hanging飛行制御
宇都宮大学・皆川佳孝,平田光男
人間が容易に立ち入ることのできない場所や危険を伴う場所でのでの情報収集や捜査,監視などの目的に小型無人航空機は有用であり,近年盛んに研究が行われている.その中で,固定翼機は,ヘリコプタなどの回転翼機にくらべ,移動速度が速く高い飛行効率を持つなどの利点があり,広範囲にわたる情報収集を短時間で済ます必要がある場合や目的地が遠方にある場合等の任務に適している.しかし,狭い範囲での飛行は難しく離着陸時に滑走路となる広いエリアも必要になる.もし,固定翼機が回転翼機と同様にホバリングが可能となれば,そのような固定翼機の欠点を補うことが可能となる.
ティルトロータ機やベクタードスラスト機は回転翼機の特徴であるホバリング飛行を行うことが可能な固定翼機であり,固定翼機と回転翼機の長所を併せ持つ航空機として知られている.しかし,これらの航空機は推力偏向機構に用いる複雑で大型なアクチュエータにより機体の重量やコストが増加してしまうなどといった問題がある.そこで本研究ではProp-Hanging飛行に着目する.Prop-Hanging飛行とはR/C機で行われるアクロバット飛行の一種であり,機体の胴体を垂直にし機体重量とプロペラ推力とをつりあわせることによりホバリングを行う飛行方法である.この飛行方法を用いることで複雑で大型なアクチュエータを使用することなくホバリングが実現できる.
固定翼機のProp-Hangin飛行制御に関する研究はこれまでいくつか報告されている.しかしProp-Hanging飛行そのものに注目したものは少ない.Prop-Hanging飛行は,狭い場所での離着陸や,狭い空間での移動に適しているが,そのためには,高精度な飛行制御が欠かせない.そこで本研究ではProp-Hanging飛行のみに注目し,より高い飛行精度の実現を目指すための具体的な制御系の構成と,実験による有効性の検証を行った.特に,自由度の高い飛行を実現するために,制御対象の線形モデルにもとづくLQI制御器を,クオータニオンを用いて実装した.その結果,ホバリング飛行だけでなく,複数の自由度に目標軌道を与えた飛行やその応用としての離着陸飛行を精度良く行えることができ,提案手法の有効性を示すことができた.
▲
■ 体験型導入講義のための制御実験装置の小型化・低価格化
大阪大学・井上正樹,石川将人,浅井 徹,大須賀公一
制御理論の理解を助けるため、著者らは小型実験装置を用いた体験型講義を提案し、その有効性を示していた。しかしながら、その際には、どのステップから体験を始めればよいかなどの指標がなかったため、教員の経験に基づいて出発点を定めていた。本論文では学部2年生の工学的な経験を調べるアンケート調査を行い、学部生の工学的経験が予想以上に乏しいことをあきらかにした。また、その結果から、従来の体験講義で実験装置の動作確認のために行っていた最初のステップさえ、学生にとっては新鮮な体験であることがあきらかとなった。この結果より、体験講義の必要性がより明確になった。
一方、体験講義を実現する従来の小型実験装置には、価格や機能の面でいくつかの課題を抱えていた。具体的にはエンコーダが付属するモータを選択したために、実現される機能に比べてコストが高く、また、ギアの摩擦が大きいことで一部、想定していた効果が得られていなかった。そこで、コストの低減と使いやすさの向上を目指して、モータおよび使用する部品の選定を再検討し実験装置の設計を変更した。新たに設計した実験装置は従来の実験装置に比べ、コストでは約
40%、重量では約 55% だけそれぞれ削減することができた。
▲
■ 弱結合大規模確率システムのためのマルチチャネルH2制御
広島大学・向谷博明
本論文では, 伊藤確率微分方程式によって表現される確率システムに対して,
複数のプレーヤをマルチチャネルとして表現した確率H2制御問題を扱う. まず,
Lagrange乗数法を利用することによって, H2ノルムを最小化にする最適戦略集合を求める.
得られた必要条件は, 連立型確率代数Riccati方程式から成り立つ. 次に, 先に得られた結果を弱結合大規模確率システムに応用する.
特に, 従来研究と比較して, 拡散項に各プレーヤの制御入力を含んだ確率システムにおける静的出力フィードバックH2確率戦略問題を扱う.
本論文では, 弱結合パラメータが未知かつ, 各プレーヤは, サブシステムの状態だけが利用できると仮定する.
このような条件のもと, 弱結合パラメータに依存しないH2確率近似戦略組を与える.
また, 通常の静的出力フィードバック問題を扱わなくても, H2確率近似戦略組である低次元近似フィードバック則が容易に計算できることを示す.
もう1つの重要な貢献として, 提案されたパラメータに依存しない戦略組に関してのH2ノルムの劣化の程度について,
定量的な評価を行う. 最後に, 数値例によって得られたH_2確率近似戦略組の有用性について議論する.
▲
■ ロボット群移動のための隊列維持を考慮したリーダ追従型隊列誘導
電気通信大学・鈴木 学, 桜間一徳,中野和司
本論文において我々はリーダ追従型隊列誘導を取り扱う.このフォーメーションにおいて,移動するリーダを複数のフォロアがリーダと同じ動きでリーダの軌道に沿って移動する.
各フォロアは少し遅れてリーダの後ろをリーダ軌道に沿って移動する.この誘導法はロボット間の距離が考慮されておらず,フォロアがフォーメーションを維持するには遅れ過ぎてしまう場合がある.
本論文では各ロボットの間の隊列の維持を考慮したリーダ追従型隊列誘導について議論する.目標速度と目標間隔のそれぞれの偏差に関する評価関数の和を最小化する調整則を提案した.
さらにフォロアの前後のロボットから得られる情報を前方のロボットのみにした場合,フォロアは目標速度や間隔から大きく離れる可能性が高くなることを示した.この結果はシミュレーションで確認できる.そして3台のロボットの実験を行い,提案手法によって隊列維持が実現できることを示した.
[ショート・ペーパー]
▲ ■ 撮影画像数の指定可能な超解像処理制御系
椿本チエイン・大西 悟,奈良先端科学技術大学院大学・小木曽公尚
超解像処理とは,複数枚の低解像度画像から高解像度画像を補間生成する画像処理技術の一つである.
補間を行うため,超解像性能は,低解像度画像数に依存する.そこで本稿では,ある一定枚数の撮影画像を確保可能な超解像処理制御系を提案する.具体的には,撮影画像枚数に応じた速度拘束を設定し,これを満たす動作を実現する拘束系の制御問題に帰着させる.
本手法では,マルチサンプルレート対応のリファレンスガバナを用いて実現し,その位置づけとしては,先行研究の拡張にあたる.最後に,実機実験を通して,指定した枚数の画像を取得できること,また,従来法に比べて超解像処理結果が良くなることを確認する.
▲
■ 規則向波中を航行する船舶における低燃費フィードバックエンジン回転数制御
奈良先端科学技術大学院大学・畑田和良,平田健太郎
本論文では,規則向波中を航行する船舶の低燃費エンジン回転数制御法を検討する.規則波中を航行する船舶は,定常状態では波から周期的な外力を受けている.この状況は,我々が従来から検討している周期運動に対するパワーアシストに類似している.そこで本研究では,周期運動に対してエネルギ効率の意味で最適となる制御法を船舶のエンジン回転数制御へ適用することを提案する.そして,数値シミュレーションにより提案法とエンジン回転数を一定にした場合を比較し,燃費の面での提案法の有効性を検証する.
▲
■ ピエゾケ−ブルを用いた橋梁の振動特性モニタリングセンサ
秋田県立大学・下井信浩,応用地質・西條雅博
橋梁の橋脚における接合部は,震災による損傷や老朽化で損傷されやすくなる.本論文においては,橋梁接合部の健全性をモニタリングするために開発したセンサを使用して,その性能評価方法と性能を確認した結果について報告する.我々は,ピエゾケ−ブを用いた橋梁の振動特性を計測するためのモニタリングセンサを提案する.
|