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 論文集抄録
  

論文集抄録

〈Vol.49 No.1(2013年1月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

「社会を先導するシステムインテグレーション」特集号
[論  文]


[論  文]

■ 零位相差ノッチフィルタとモデル予測制御を用いた天井クレーンの遠隔操縦システムに関する研究

岐阜工業高等専門学校・森 貴彦

 近年,クレーンのような振動を有する構造物の振動抑制制御に関する研究が盛んに行われている.クレーンは,搬送の際には慎重な吊り荷揺れ止め操作が求められる.特に熟練したオペレータはその操作を感覚的に行うことが多い.しかし昨今,熟練者が減少しつつあるため,未熟練者に対して制御手法による支援法の確立が重要な課題である.
 筆者が先に提案したノッチフィルタの切替を伴わない零位相差ノッチフィルタを用いた位置決め操作支援法,1つのタスクが完了するまでは切り替えることなく,1つの補償器で支援することができる.しかし,作業性(タスク達成時間)が向上した代わりに,安全性(吊り荷ロープの最大揺れ角)が犠牲になってしまった.
 そこで本研究では,トレードオフ問題の改善を図るため,現在から未来までの制御量と制御入力を最適制御問題の評価指標にできるモデル予測制御を本システムのスレーブの補償器に適用した新たな位置決め操作支援法を提案する.本提案支援法により,終始軽くて安定な位置決め操作が期待できる.


■ 剛性可変機能を有する多関節グリッパ

東海大学・下野宗司,玉本拓巳,伊藤 祥,小金澤 鋼一

 ロボット技術の高度化に伴いロボットの運用分野は拡大しており,ロボットには多様な状況に柔軟に対応していく事が求められている.本論文では,極限環境など,多様な把持環境や把持対象物が想定される状況において確実かつ安定に把持を可能とするグリッパ機構を提案する.多数の関節をもつ指により,物体形状になじませる包込把持は,多様な形状の物体を安定に把持可能である.この把持形式のグリッパは指姿勢を物体との接触により受動的に決定するものが多いが,物体との未接触時の指姿勢の不安定性が指摘されている.このため,遊星歯車機構の1 入力に対し2 通りの出力を得る特性を利用し,通常は基本とする指軌道をもつ屈曲動作を行い,物体接触時には物体形状になじむ動作に切り替わる駆動機構,また受動的動作への切り替わりやすさ=関節剛性を調節することで,外乱トルクに対して屈曲動作を安定化する剛性可変機構により構成されるグリッパ機構を考案した.本機構の評価のため実機を制作し把持実験,なじみ把持実験,屈曲動作安定化実験を行なった. これらの実験より本機構により物体形状になじむ包込把持が可能であること,剛性可変機構により屈曲動作の安定化が可能なことを確認した.


■ カニ時計:兵隊ガニの個と群れの関係

神戸大学・西山雄大,榎本洸一郎,戸田真志,森山徹,郡司ペギオ幸夫

 動物のダイナミックな集団行動の研究は理論先行で行われており,主に個体の局所的な相互作用による創発特性として理解される.このとき個々の運動は他個体の運動に直接的に影響され,またその運動の多様性は外的なノイズの結合によって達成される.しかし,ダイナミックに振る舞う群れにおいて個々の運動は群れの全体性からの影響を受けており,個の多様性と群れのまとまりという一見相反する様相を同時並列的に扱い常にそれらのすり合せを行っているのかもしれない.
我々はミナミコメツキガニの群れを対象に全体性から引き起こされる個々の運動を実験的に証明し,それが群れのまとまりを辛うじて維持した個々の多様性の極端な表出として実現されていることを報告する.


■ 多重情報地図構築の為の路面標示の自動認識

弘前大学・煙山裕季,小野口一則

 地図データベースに道路区画線の情報(区画線の種類など)を付加すれば,現在位置での区画線情報が随時得られるため,区画線検出の性能を大幅に向上させることができる.このため,車載フロントカメラの画像から区画線を含む路面標示を自動認識し,GPSから取得した位置情報と対応付ける手法を開発した.道路環境は日々変化するため,区画線情報は定期的に更新されなければならないが,本手法はリアルタイムで動作するため,走行しながら区画線を認識し,地図情報を書き換えることが可能である.本手法は,まず,カメラからの入力画像を逆透視投影変換によって俯瞰図に変換し,線角度ヒストグラム,角点数,区画線幅・高さヒストグラム,区画線間水平・垂直距離ヒストグラムの特徴を抽出する.次いで,SVM により路面標示の形状を識別するとともに,L*a*b*表色系を用いて路面表示の色を決定する.首都高速道路など複雑な路面標示が多数存在する道路において実験を行い,99%以上の認識率が得られることを確認した.


■ 群れの維持・形成に寄与する内的ゆらぎ

神戸大学・村上 久,,西山雄大,新里高行,はこだて未来大学・榎本洸一郎,
戸田真志,信州大学・飯塚浩二郎,郡司ペギオ幸夫

 従来,鳥・魚また昆虫などの群れ行動は,BOID やSPP などのモデルを用いて説明されてきた.これらのモデルでは,近傍内他個体との向きの平均化を主な群れ形成力とし,これに外部からゆらぎを加えて群れらしい挙動を実現する.しかしながら,モデルと比較すべき実測データは極めて少ない.我々は沖縄県西表島に生息し,干潟上で大規模な群れを成すミナミコメツキガニを観察し,またビデオカメラによる撮影から個体座標を二次元平面上に再構成し,運動を解析した.その結果,各個体の運動のゆらぎが積極的に群れの形成・維持に関わっていることが明らかになった.これはゆらぎが群れ形成力と対立する従来の
モデルと矛盾する結果である.


■ マルチエージェントシステムのための信頼度を用いた強化学習- 相補ゲームにおける競合回避行動の獲得 -

東洋大学・山田和明,高野 慧

 本研究は,マルチエージェントシステムにおける競合問題の一つとして狭路問題を扱い,強化学習により均質なエージェント群が自律的に行動を分化させ,相補ゲームにおけるエージェント間の競合状態を回避できることを示す.また,信頼度を用いて強化学習の割引率を自律的に調整することで,従来の強化学習では学習困難な隠れ状態が発生する環境において,従来手法より高い確率で競合回避行動を獲得できることを示す.そして,競合回避行動の獲得プロセスを分析し,信頼度が競合回避行動の獲得に対し有効に作用するメカニズムを解明する.


■ 腕運動の自己組織的役割分担生成を可能とするクモヒトデ型ロボットの自律分散制御

東北大学・渡邉航,鈴木翔太,加納剛史,石黒章夫

 従来研究における結合振動子系に基づく自律分散制御方策の要諦は,制御系,機構系,環境の三者から構成される直積空間内に安定したリミットサイクルを生成することに集約される.しかしながら,生物が示す多様な振る舞いの中にはリミットサイクルのみに基づく描像では説明し得ないものがある.そこで本研究ではクモヒトデのロコモーションに着目し,多芸多才な振る舞いの発現機序の解明に取り組む.クモヒトデという生物は,脳などの中枢が存在しない単純な神経系しか持たないにもかかわらず,5本の腕の役割(前方探索・推進・支持など)を状況に応じて変更しながら動き回ることが可能である.本研究では,このクモヒトデの振る舞いにおける腕運動の自己組織的役割分担生成,ならびにその動的な切り替えを可能とする制御のメカニズムを明らかにすることを目的とする.この目的のため,筆者らはこれまで,振動性のみならず興奮性をも記述可能なActive Rotatorを素過程としたクモヒトデ型ロボットの自律分散制御の数理モデルを構築し,シミュレーション・実機実験によりその妥当性を検証してきた.その結果,誘引刺激応じて振動性と興奮性が適切に励起され,各腕の役割を切り替えながらロコモーションを生成可能であることが示されたが,得られた振る舞いは限定された特定の状況下においてのみしか発現し得ないという問題があった.そこで本稿では,提案モデルをより一般的な状況下でも機能するよう再構成した.シミュレーション実験の結果,誘引・忌避刺激に応じて腕運動の役割分担が自己組織的に生じ,全方向へのロコモーションが生成されたので報告する.


■ 異なる周期間隔を有する金属メッシュを用いたタンパク質の非標識検出

京都大学・鈴木哲仁,小川雄一,近藤 直,村田製作所・近藤孝志,神波誠治

 周期的に開口が並んだ金属薄膜である金属メッシュは、従来遠赤外領域におけるバンドパスフィルタとして用いられてきたが、表面の屈折率変化に応じて周波数特性がシフトすることからセンサへの応用が期待されている。本研究では金属メッシュがセンサとして機能する動作帯域の高周波化と感度評価を目的とし,周期構造の異なる3種類の金属メッシュ表面に固相化したβ-lactoglobulinの測定を行った.その結果,周期間隔を260μmから7 μmに細密化することにより透過ピークの周波数が3 THzから40 THzに高周波化するとともに,1000μgのβ-lactoglobulinによる周波数シフト量が50倍に増加し高感度化に成功した.これは,周期構造の細密化に伴い金属メッシュ表面の局在電場が狭範囲に集約し,付着した物質をより感知しやすくなったためと考えられる.加えて,金属メッシュの動作帯域を従来のテラヘルツ領域(0.1〜10THz)から中赤外領域へ高周波化することにより,光源部や検出部の選択肢が増え測定系をより容易に構築することが可能となる.今後,食品中や体内におけるDNA・タンパク質などのハイスループットな非標識検査の実現が期待される.


■ 筋電により人間の意思を反映したパワーアシストグローブの制御著

岡山大学・小西秀和,則次俊郎,高岩昌弘,佐々木大輔

 手指の動作は食事や整容などを行うにあたり重要であり,手指動作が困難になると日常生活において多大な支障が生じる.そこで,これまでに手指動作が支援可能なパワーアシストグローブを開発した.
本研究では,前腕のEMG を用いて手指動作および手首動作を識別し,これまでに開発したパワーアシストグローブの制御を行う.前腕には手指動作および手首動作に関する筋が混在していることや動作支援によるEMG の減少などのため,単純なパターンマッチングだけでは動作識別は困難である.そのため,本論文ではEMG の特徴量として総筋電位を導入し,これをニューラルネットワークで処理することにより動作識別を行う手法を提案する.


■ 近赤外カメラを用いた牛ロース芯脂質評価撮影装置

岐阜県情報技術研究所・田中等幸,山田俊郎,大野尚則,棚橋英樹,
イーエスピー企画・江崎雅康,岐阜県畜産研究所・丸山 新

 近年,和牛肉のおいしさの要因の一つに脂質が関与していることが知られている.畜産業界では,霜降り等の従来の肉質評価に加えて,オレイン酸を評価することで地域ブランド牛肉の付加価値化に向けた新たな取り組みが各地で行われている.本論文では,近赤外分光法をカメラによる画像計測に応用した脂質評価撮影装置の概要と,枝肉市場における検証実験について示す.本装置は近赤外と可視のカメラを搭載し,波長の異なるLEDをシーケンシャルに切り替えることで可視画像と近赤外マルチバンド画像を取得する.枝肉市場による撮影実験(個体数30)を実施した結果,実測値との相関係数は0.727,残差標準偏差は2.17の結果が得られ,また,実測値が異なる画像比較によってその差異を視覚的に確認し,本装置の有効性が示された.


■ Android版 RTミドルウェア(RTM on Android)の開発

セック・川口 仁, 中本 啓之, 池添 明宏, 佐藤 美帆, 濱千代 貴大, 長瀬 雅之

 この度我々は、実用的なAndroid版RTミドルウェアの実装に成功し、「RTM on Androd」と名付けた。RTM on And roidはCORBA通信やOpenRTMの実装をCで行い、これをAndroidアプリケーションに組み込んでいる。RTM on Androidにより、通常のAndroidアプリケーションを作成する手軽さでAndroid上で快適に動作するRTCを開発できるようになった。ただし、まだ課題も残っている。RTミドルウェア、RTCの一層の普及促進に向け、引き続き課題に取り組んでいきたい。


■ 人工股関節全置換術における関節機能に基づく三次元手術計画自動立案システム“AutoImPlan”

山梨大学・鍵山善之,神戸大学・音丸 格,大阪大学・高尾正樹,
中本将彦,菅野伸彦,神戸大学・多田幸生,山梨大学・水口義久,
大阪大学・富山憲幸,佐藤嘉伸

 我々は,近年製品化の進む外科手術ロボットや手術ナビゲーションといった術中支援システムに必要不可欠な,インプラントの三次元手術計画の立案をアシストするコンピュータ支援システムを開発している.従来の外科手術計画システムでは,自由度の高い三次元位置姿勢を対話的操作しているため,複雑な作業を要求される他,様々な臨床的評価基準のバランスを考慮しながら調整しなければならないため,多大な手間と時間,熟練も要している.こうした問題点を解決するため,我々は,人工股関節全置換術を対象し,熟練外科医と同等の三次元手術計画を自動で立案するシステム及びその手法を提案する.最適手術計画は,最大事後確率推定を用い,関節機能評価値及び挿入対象骨とインプラントの空間的位置関係統計モデルの最適バランスにより得られる.性能評価実験の結果,熟練外科医計画と同等の関節機能を持ち,インプラントの選択サイズもほぼ9割の症例で外科医との差が1サイズ以内となったことから,その有効性を示したと考えられる.今後は,臨床評価を受けるだけでなく,手術計画立案前に必要となる三次元CT画像からの骨領域抽出も含めた完全自動化を目指していく.


■ 体幹設置型遠隔診断エコーデバイスにおける人体装着機構に応じた装着容易性と安定性の比較評価

早稲田大学・朝山智史,伊藤慶一郎,鶴田功一,
横浜市立大学・中村京太,岩田浩康

 交通事故等に遭遇し内出血が疑われる患者に対しては,早急に内出血の有無を診断する必要がある.そこで,我々は搬送中に患者の内出血有無を診断可能なエコーデバイスを開発している.従来まではデバイス自体の小型軽量化や走行振動の抑制を実現するため,コルセットを用いて患者の体幹に装着する方式を導入していたが,患者の体幹を一時的に浮かせて装着する必要があり,装着者・非装着者ともに負担が大きい.本稿では,背面を通さず患者の前面より装着可能な装着機構を新たに開発し,装着の容易性と安定性に関して,従来方式との比較・評価を行ったので報告する.


■ 公共空間における移動サービスの実現向た知能化電動カートの開発

電気通信大学・平井 雅尊,大谷 洋介,村松 聡,佐藤 晶則,冨沢哲雄,工藤俊亮,末廣尚士

 近年,シニアカー等の四輪車両型パーソナルモビリティが急速に普及している.
 このようなパーソナルモビリティに知能ロボット技術を適用し,付加的サービスを実現出来れば,安全性と利便性が向上する.
本論文では,公共空間における移動サービスの実現に向けた知能化電動カート型の移動プラットフォーム開発について述べる.屋外環境の移動でも安定して動作するハードウェアと拡張性を備えたソフトウェア構成を実装した電動カートシステムを開発した.また開発した電動カートに屋内外の実環境をロバストに移動する基盤ナビゲーション機能として,常に変化する周辺環境に対してロバストな自己位置推定機能,四輪車両に特有な危険回避機能,目的地までの経路移動機能を実装した.開発した知能化電動カートの実証実験として参加したつくばチャレンジ2011について述べ,開発したシステムの有効性を示す.


■ 手づたえ教示におけるロボットアームの操作性向上のためのロボット二重シェル構造の開発

パナソニック,札場勇大,山本正樹,津坂優子,佐藤太一

 手づたえ教示を行う場合,操作性の悪いロボットアームでは操作者の手に作業時の反力が伝わらないため,繊細な作業ができない問題が生じる.そこで,操作性向上のためにロボット二重シェル構造と呼ぶ新構造を適用し,その問題を解消する.ロボット二重シェル構造はロボットアームと分離した構造であり,操作者は操作性の良いロボット二重シェル構造のみを操作でき,操作性が向上する.さらに,ロボット二重シェル構造の動きに対してロボットアームを追従制御させるため,ロボットアームの可動範囲を維持する.また,定量的な操作性の評価実験,フレキシブル基板の挿入作業の手づたえ教示を通してロボット二重シェル構造の有効性を示す.


■ 画像により机上の工具を探索する移動ロボット -自律片付けロボットの開発-

筑波大学・木下和樹,油田信一,坪内孝司

 人の生活空間における片付け作業を行うロボットは,非常に多くのモデルの解析や,高いロバスト性をもった認識系を求める作業であるため,まだ実現されていない.そこで本研究では,実用性を保ったまま問題の難易度を下げるため,工具板の観察によって片付け対象を限定し,室内の机上から片付け対象の工具を片付ける自律移動ロボットの実現を目標として研究を進めてきた.本稿では要点となる,画像を用いて片付け対象を探索する手法を提案し,構築したプロトタイプロボットによる,室内を自律的に移動しながら机の上の工具を探索する実験の結果を述べる.


■ 自脱コンバイ・ロボットの経路追従制御

京都大学・内田 諒,飯田 訓久,祝 華平,栗田 寛樹,村主 勝彦,増田 良平

 イネやコムギの収穫作業に用いる自脱コンバインの自律走行を行った.航法セ ンサとしてRTK-PSとGPSコンパスをキャビン上に取り付け,位置と方位を検出 して目標経路を参照しながら直線走行と旋回を行う.GPS,コンパス,および車 速センサで検出した位置,方位,および速度に関するデータからカルマンフィ ルタを持いて横偏差と方位偏差の推定し,操舵制御を行った.走行実験では, コンバインロボットに圃場で左渦巻き経路に追従走行させ,実際に無人でのイネ刈取り作業を行い,直線走行部分での横偏差と方位偏差,旋回部分での旋回角度の誤差,および旋回に要したスペースの大きさを評価した.


■ 2足歩行における足首弾性の効果

東京工業大学・花澤 雄太,山北 昌毅

 本稿では,足首に機械的インピーダンスを有する平面足受動歩行を解析することにより,ロボットの足首弾性が歩行性能を向上させる効果を有することを示す.近年,エネルギー効率に優れた歩行を実現するロボットとして,バイオメカニクスの観点から,足首に機械的インピーダンス要素を付加した歩行ロボットが開発されている.特にエネルギー効率に優れた歩行を実現するためには,この足首の弾性が重要であることがシミュレーションや実験などにより示されている.このため,我々はこの足首の弾性が歩行性能を向上させるメカニズムを解析的に明らかにし,このメカニズムを利用することで,よりエネルギー効率に優れた2足歩行を実現するロボットの制御則や機構などが得られるのではないかと考えている.したがって,我々は足首弾性が歩行性能を向上させるメカニズムを明らかにするために,足首に機械的インピーダンスを有する平面足ロボットの受動歩行を解析する.初めに,EROSを用いた解析を行い,足首に機械的インピーダンスを有する平面足ロボットの歩行と円弧足ロボットの歩行が局所的に等価となることを示す.さらに,平面足ロボットのダイナミクスを解析し,足首弾性がロボットの歩行性能を向上させるトルクを生み出すことを示す.


■ 液体容器搬送システムにおける振動予測手法を用いた傾動をともなう制振搬送

豊橋技術科学大学・渋谷涼太,岡塚尚,寺嶋一彦,山梨大学・野田善之

 近年,自律走行型搬送ロボットの開発が盛んに進められている.このような搬送機器は,走行ガイドなどの軌道スペースを必要としないことや,省人化などの利点から,製造業での利用が期待されている.本稿では,容器内の液体を振動させずに液体容器を高速に搬送させる手法を提案する.液体を搬送する際,搬送機器の加速・減速によって容器内で液面振動が発生する.この時,上部開放の液体容器を用いると溢流する危険性や,溶融金属や化学薬品などでは液体内に空気が内包して変質する可能性がある.そこで著者らは,液体内部の連続式と回転運動を含めた圧力式から液面高さの変動に対して境界要素法を用いてモデル化し,基礎式の構造を崩さずに変換した状態空間モデルにより,液面制振制御システムを構築した.従って,振動モードを限定せずに,容器傾動時や加速時に起こる液体の流動や高次モードの液面振動に関しても高精度に推定することができる.また,一般化予測制御手法を用いて,容器の傾動動作と搬送動作を協調して制御することによって液面振動を完全に制振することができた.提案する搬送システムの有用性は,液体搬送装置を用いて,水平搬送のみを制御した場合と傾動のみを制御した場合の実験結果を比較することで明確にした.


■ 索状能動探索システムの提案―機構・運動学・計測制御―

京都高度技術研究所・鄭 心知,上海交通大学・陳 衛東, 王 賀昇,江 茂奎,
国際レスキューシステム研究機構・ 高森 年

 本論文では,狭隘で複雑な経路形状を有する閉鎖空間への大深度進入・探索目的に,移動能力・測位機能・細径可変長構成を有する索状能動探索システムの実現について,(1)移動体の小型細径化に有用な要素技術である能動連結機構の提案,およびその運動学関係の導出,(2)必要十分な移動能力,進入深度に応じた可変長構成,および内界センサーによる測位機能を実現する索状移動体の能動・受動セグメント化,およびそれによるハイブリッドな移動体構成法の提案をし,(3)そのシステム構成,ならびに移動制御・マルチモーダルな探索センシングおよびその情報の集約・通信・提示インターフェースの一実現法をプロトタイプによって示す.


■ 回転型ステレオカメラを用いた屋外シーンの密な三次元再構成

神戸大学・吉田武史,深尾隆則

 本研究では複数視点のステレオカメラによる情報を重ねることによる,情報量の多い屋外シーンの三次元モデル構成法を提案する.屋外環境において単体のステレオカメラではそのベースラインに対して,対象までの距離が遠いことから正確な三次元モデル構成は難しい.そこで複数視点における各ステレオカメラによる奥行き計測の不確かさから真の点を含む領域を特定していくことで,三次元モデルの精度を高める.飛行船ロボットにカメラを前後方法に揺動することで対象の上面だけでなく側面も撮影することができる回転型ステレオカメラを搭載し,上空から地上のステレオ画像を取得,提案手法を用いることで精度の高い三次元モデルの生成を確認した.


■ 遺伝的アルゴリズムに基づく運動曲線最適化法の提案とボトリング装置への適用

三重大学・金澤賢一,矢野賢一,渋谷工業・中田竜弘

 本論文では,遺伝的アルゴリズム(GA)を基本とした運動曲線最適化法を提案する.運動曲線とは,機械の最終出力端の変位を時間関数として表したものである.従来手法では,運動曲線の形状を複数の設計変数で定義し,それらの値をGAなどを用いて最適化することで,間接的に運動曲線の最適化を行なっていた.一方で,提案手法は,運動曲線の形状自体を遺伝的アルゴリズムにおける解として扱い,遺伝的操作を運動曲線同士の数値的な合成とすることで,従来法では生成不可能なほど複雑な形状をもつ運動曲線であっても導出することを可能にする.本手法の有効性は,簡易的な最適化問題,およびCFDシミュレータを援用した実際のボトリング装置におけるボトル搬送用の運動曲線の最適化へと適用することで示された.


■ 空気圧人工筋を用いた上肢用ウェアラブル型マスタスレーブ訓練装置の開発

岡山大学・佐々木大輔,則次俊郎,高岩昌弘

 本研究では訓練者(理学療法士など)や被訓練者が装置を直接装着し,訓練者が自分自身の上肢全体を動かすことで被訓練者の他動的訓練が可能なマスタスレーブ方式の装着型訓練装置の実現を目標としている.提案する装置は,訓練者が自身の身体を動かすのみで,装置を介して被訓練者を動作・訓練させることができる.そのため,数式で表すことが容易ではない冗長自由度を有する上肢各関節の連続的な目標値をマスタ装着者の動作から決定できる点が特徴である. また,開発したスレーブ装置は,
McKibben型空気圧ゴム人工筋,積層型ソフトアクチュエータ,伸長型空気圧ゴム人工筋の3種類の特徴の異なる人工筋を使用することで,肩,肘,手首の7動作を独立に駆動可能な構造とする点がこれまでの人工筋を使用した装着型装置との相違点である. 本論文では,まず開発したウェアラブルマスタスレーブ装置の外観,対象とする上肢動作について述べる.つぎに,使用した各部の空気圧人工筋の特徴について述べ,人工筋を組み込んだ各機構部の動作原理について述べる.最後に基礎的な性能を確認するため,ユニラテラル型マスタスレーブ制御による装着実験に関して述べる.


■ 空気枕を用いた頭部動作インタフェース

広島市立大学・中村元,三倉将太,岩城敏,谷口和弘,
NTT・茂木学,小林透,武藤伸洋

 非侵襲性が高く,日常的に自然な形で使えるハンズフリーインタフェースとして,空気枕を利用した頭部動作インタフェースを提案する.本インタフェースは,4つの長方形空気袋ユニットを階層的かつ井桁状に配置し,それぞれの空気圧センサを測定することで,頭部加重方向を測定し,カーソル・クリック・ドラッグ等の操作に反映させる.空気袋の初期圧変動やユーザの動作ストローク等の個体差に適応するためにカーソル操作力及びカーソル速度生成関数を提案する.スループットとCTの評価指標に基づき,従来手法と操作性能を比較評価した結果,提案手法の性能向上を確認した.


■ 視野を操作する機能を有する単孔式手術支援ロボットの開発

早大・小林洋,関口雄太,伴野裕,野口建彦,高橋悠,渡辺広樹,
九大・豊田和孝,植村宗則,家入里志,大平猛,富川盛雅,橋爪誠,早大・藤江正克

 単孔式内視鏡下手術を支援することを目的として,視野の操作機能を有することを特徴としたロボットの開発を行った.In vitro実験の結果より,内視鏡マニピュレータによる切開は大域的な組織を短時間に切開することに適しており,術具マニピュレータによる切開は組織を正確かつ安全に切開することに適していることが示唆された.また,in vivo試験の結果より,現在のところ主観的な評価に留まっており,今後定量的な評価が必須であるが,プロトタイプの有用性が示唆された.


■ Implicit相互作用と選択肢構造生成

東京電機大学・上浦 基

 生物系をはじめとする,作用するものと作用されるものの組をあらかじめ固定できないような局所的かつ動的な構成要素からなるシステムを記述する際には,特定の項として規定されない相互作用の描像が必要となる.共創システムおよび内部観測に関する諸研究は,そのような相互作用の存在を前提としたとき,システムがいかなる振舞いを示すかに注目する.
 本研究は,そのような相互作用をimplicit相互作用と呼び,相互作用項が明示されるexplicit相互作用と区別した上で,それらをベクトル空間の双対性および一般逆行列の概念を援用しながら定式化した.また,implicit相互作用を前提とすれば,パラメータ変動に関するコーシー分布やシステム運動の選択性を構成できることを示した.これは共創システムおよび内部観測に関する理論的進展であるとともに,複雑なシステムの相互作用を解析するための新たな方法論を示唆している.


■ 全反射減衰テラヘルツ分光法を用いた細胞の生存率推定

京都大学・白神慧一郎,小川雄一,内藤啓貴,鈴木哲仁,冨田さくら,近藤直

 細胞は生体の構造かつ機能の基本単位であるにもかかわらず,非侵襲かつ非標識で培養細胞の生存率や活性を計測する有効な方法は未だ完全には確立されていない.本研究では,生体科学に対する新生な計測技術になりうる可能性を秘めたテラヘルツ(THz)波を全反射減衰(ATR)分光法に適用することで,培地中細胞の分光測定を行った.培養細胞は1~13 THzで培地に比べて低い吸収を示し,ATR信号の増幅は細胞の生存率と高い相関を示した.


 
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