論文集抄録
〈Vol.48 No.9(2012年9月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
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■ 水素における等温化放出法による流量測定
東京工業大学・大川陽一,尹 鍾晧,
KYB・中村善也,東京工業大学・,香川利春
本論文は,等温化放出法を水素用機器の流量特性計測に適応することを目的とする.そのために,空気圧機器の流量特性計測用に設計された等温化圧力容器を用いて,水素における等温化放出法による流量測定実験を行い,計測精度に関して検討を行った.オリフィスが接続された等温化圧力容器に圧縮ガスを充填し,700
kPa(abs)から大気圧力まで放出し,オリフィスの圧力−流量特性を等温化放出法により測定した.このとき,有効断面積の異なる3種類のオリフィスを使用し,放出速度を変化させた.作動流体が水素と空気の場合について,等温化放出法の実験結果と計測誤差を空気における等温性・計測精度と比較した.その結果,水素と空気の放出速度が等しい場合,水素使用時における等温化容器内温度変化は,空気使用時における温度変化よりも小さくなることがわかった.また,水素使用時に最大放出速度が35.6
kPa/sのとき,計測誤差は全放出時間において3 %以内に収まることがわかった.等温化圧力容器から水素と空気をそれぞれ放出する過程における,内部エネルギ変化を比較した.ヌッセルト数とレイノルズ数・プラントル数との関係から,同じオリフィスを用いた場合の水素−銅線間の熱伝達率は,空気−銅線間の熱伝達率の5倍になることを予測し,実験結果から確認を行った.その結果,水素−銅線間の熱伝達は空気−銅線間の熱伝達よりも大きいために,水素と空気の放出速度が等しい場合,水素放出時における容器内平均温度変化は,空気放出時よりも小さくなることがわかった.
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■ インピーダンス測定をもとにした光・電気同時測定手法による近接材質識別
佐賀大学・辻 聡史,木本 晃,高橋英嗣
本研究は、非接触で対象の距離情報を含めた材質や形状等の複数の情報を検出するシステムを確立することである.そのための手法としてインピーダンス測定をもとにした新しい光・電気同時測定手法を提案した.本提案手法は,電極、フォトダイオードLEDから構成され、電極及びフォトダイオードのインピーダンスを同時に測定することにより,対象の電気特性及び光特性をを同時に取得できる.実験として,まずフォトダイオードの内部インピーダンスの光量による変化について検討を行った.次に本提案センサをロボットアームの先端に取りつけ,6種類の対象の光特性(反射),電気特性(誘電率)の測定を行った.その結果により距離を含む材質識別を試みたので報告する.本手法を用いることにより,センサをアレイ配置した場合に配線を減らせると考える.本手法は,製品検査に応用できると考える.
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■ EMG信号と触覚刺激を用いたHuman-Human Interface
大阪大学・島 圭介,広島大学・植野 岳,イェルディズ工科大学・Erhan AKDOGAN,
広島大学・辻 敏夫,県立広島大学・長谷川 正哉,大塚 彰
本論文では人間と人間の相互の情報伝達の手段として,筋収縮の情報を伝達可能な新しいHuman-Human
Interface (HHI)を提案する.提案法ではEMG信号を用いることで筋の状態を定量的に評価し,力の入れ具合やどこの筋をどのように協調させるかなどの運動情報を抽出する.そして,抽出した運動情報を触覚提示を用いて相手の膚に体感的に伝える.触覚提示を行う際には人間の感覚特性を考慮することで正確な情報伝達を図る.
実験では触覚刺激として小型振動刺激装置を用い,振動の強さの変化に対する人間の感覚,および複数の箇所で振動を提示する場合の効果的な振動の提示方法を調査した.得られた感覚特性を考慮した振動提示方法とEMG信号を用いて筋収縮のパターンを伝達した結果,システムを用いた情報伝達の可能性が明らかになった.
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■ 不均一なマルチエージェント系におけるリーダ追従のための協調適応制御―
離散時間系の場合 ―
東京大学・岡嶋 崇 津村幸治,東京工業大学・早川朋久,石井秀明
本論文では未知で不均一なダイナミクスを持つ離散時間マルチエージェント系におけるリーダ追従のための協調適応制御手法を提案する.各エージェントの制御器は二つの制御器から構成される.一つは未知のダイナミクスを均一のモデルに近付けることを目的とする適応制御器である.もう一つは状態の相対値を用いたフィードバック制御器であり,ダイナミクスが均一の場合に,リーダ追従を達成する.対数型Lyapunov関数を構成することにより,状態の追従が漸近に達成されること,および,状態の追従誤差とパラメータ誤差からなる系がLyapunov安定であることを示す.本適応制御手法の重要な特徴は,(ビークルフォーメーションにおける速度から位置への積分器のように)ダイナミクスの一部が既知で均一な場合には,エージェントの状態の一部が非有界であってもリーダ追従を達成することである.
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■磁界共振結合を用いた位置センサの提案と実験的検討
東京大学・中村壮亮,胡間 遼,久保田孝,中央大学・橋本 秀紀
本論文では,磁界共振結合を用いた位置センサを新規に提案し,実験によって基本性能を明らかにした。提案センサは,磁界共振結合を用いた従来の位置センサと比較して二つの利点がある。一つ目は,受信アンテナに対して電力伝送対象の負荷を接続するだけでワイヤレス電力伝送も可能となることである。すなわち,同様の機器構成で位置推定とワイヤレス電力伝送を同時に実現できる可能性がある。二つ目は,受信機側は受信アンテナのみの構成となるためバッテリ交換などの保守が不要となることである。従来は受信アンテナに接続した測定機器で誘起電圧を測定することで位置推定を行っていたため,測定機器のバッテリが必要であった。しかし,提案センサでは反射係数を測定するため測定機器を送信機側へ集約することが可能であり,受信機側はバッテリレスとなる。さらに,基本性能を明らかにするため,移動ロボットでの利用を想定した三次元位置推定の実験を行った。ここでは,床面からの高さ0.04mの平面を受信アンテナの可動域として,可動域において直線上に移動した場合の位置推定を行い,0.003m-0.015m程度の位置誤差が得られた。誤差要因は結合係数のばらつきと推測されたため,今後は結合係数のばらつきを抑えた位置推定手法の提案などによって位置誤差の低減を目指す。
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■ 塑性変形分布則に基づくレオロジー物体の能動的概形シェイピング
大阪大学・吉本佳世,東森 充,多田隈建二郎,金子 真
論文では,レオロジー物体の成形問題について議論する.
はじめに,レオロジー物体の概形とその変形特性を表現する6ノード粘弾性モデルを導入する.
次に,概形成形手法としてグリッパによる把持動作によって,入力軸とこれに直交するもう1軸の対象物長さの比率を制御する手法を構築する.ここでは,1軸応力積分値に対する塑性変形分布則に基づき,把持解放後の最終的な物体概形を能動的に管理する手法を提案する.この提案手法は,グリッパの自由度の簡素化に貢献するとともに,把持によって物体内に蓄積される弾性エネルギーの散逸を待つ必要が無いため,型枠式による受動的手法と比べて飛躍的に把持時間を短縮することができる.
最後に,実機実験により提案手法の有効性を示す.
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■ 対数線形化血管粘弾性インデックスの提案と頸動脈超音波検査への応用
広島大学・堀内徹也,Abdugheni KUTLUK,平野陽豊,,栗田雄一,
辻 敏夫,日本光電工業・鵜川貞二,広島大学・中村隆治,佐伯 昇,
東 幸仁,河本昌志,吉栖正生
本論文では,非観血的に計測可能な連続血圧と血管径変化を用いて,血管の力学特性を定量的かつ1 拍毎に推定する方法を提案する.まず,血圧と血管径の非線形関係,および血管壁の粘弾性特性を同時に考慮した非線形粘弾性モデルを導出し,血圧を自然対数化することにより線形最小自乗法を用いて1心周期ごとに粘弾性インデックスを推定できることを示した.次に提案法の有効性を検証するため,超音波画像計測装置により血管径変位波形を,非観血連続血圧計により血圧波形を計測し,頸動脈の粘弾性インデックスを推定した.その結果,提案したモデルにより血管の力学特性を精度よく近似できること,年齢の増加にともない血管の粘弾性インデックスが変化することを確認した(剛性値:r=0.780,粘性値:r=0.668,補正粘性値:r=-0.720).以上より,提案法を用いることで非観血的な生体信号計測により血管の粘弾性特性を定量的に捉えられることを明らかにした.
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■ GAMP5を考慮したプログラマブル・ロジック・コントローラを用いた医薬品製造に関わるコンピュータ化システムの回顧的バリデーションの一手法
山梨大学・高橋正和
本論文では,プログラマブル・ロジック・コントローラを用いて構築された稼働中の医薬品製造に関わるコンピュータ化システムの機能と性能の適切さを立証するための方法について提案する.医薬品製造用のコンピュータ化システムは医薬品の品質に多大な影響を与えるため,機能と性能が適切であることを立証することが義務付けられている.特に稼働中のコンピュータ化システムの適切さを既存文書と運用記録を用いて間接的に立証することを回顧的コンピュータ化システム・バリデーションと呼ぶ.しかし,PLC
ベースのコンピュータ化システムの回顧的コンピュータ化システム・バリデーションに関する規則はないため,その実施が困難となっている.そこで,本論文では,@異なるカテゴリで構成されるシステムの検証方法,Aリスク低減策の実施に伴う影響範囲の同定と検証の方法,B前述の問題を解決可能なRCSV手順を提案する.これらにより,稼働中のPLC
ベースのコンピュータ化システムの回顧的コンピュータ化システム・バリデーションを適切な品質で効率的に実施できるようにした.
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■ 偏KL情報量に基づくクラス選択法の提案とEMG識別のための動作選定問題への応用
広島大学・芝軒 太郎,島 圭介,高木 健,栗田 雄一,県立広島大学・大塚 彰,
兵庫県立リハビリテーション中央病院・陳 隆明,広島大学・辻 敏夫
本論文では,偏Kullback-Leibler (KL) 情報量に基づく新しいクラス選択法を提案し,筋電位(Electromyogram: EMG)のパターン識別における動作選定問題へ応用する.筋電位による機器操作経験がない被験者や,また上肢切断者などの肢体不自由者においては発生すべき筋電位が安定せず,識別対象動作数の増加に伴い識別精度が大きく低下してしまう場合がある.そこで,被験者が安定して生体信号を発生可能な動作(識別対象のクラス)を選定することで識別精度の向上を図る.提案法は,まず使用者から計測した信号の確率密度関数をKL情報量に基づいた確率ニューラルネットの学習によって推定する.そして,あらかじめ与えられた各クラスが識別に与える影響度の評価指標として新たにクラス偏KL情報量を定義し,それに基づいて識別精度に最も悪影響を与えているクラスを一つずつ削除していくことで識別可能なクラスのみを選択する.
実験では,まず上肢切断者を含む4名の被験者に対し,あらかじめ学習させた多数の動作から提案法を用いて識別可能な動作を選定した.そして,選定した動作を用いてEMG識別実験を行った結果,平均識別率が93.03±1.25%と高いことから,提案法によるクラス選定の有効性を確認した.
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