論文集抄録
〈Vol.48 No.8(2012年8月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)
〃 (会員外) 8,820円 (税込み)
タイトル一覧
[論 文]
[論 文]
▲
■ 零位相差ノッチフィルタを用いた天井クレーンの遠隔操縦システムに関する研究
岐阜工業高等専門学校・森 貴彦
近年,クレーンのような振動を有する構造物の振動抑制制御に関する研究が盛んに行われている.クレーンは,搬送の際には慎重な吊り荷揺れ止め操作が求められる.特に熟練したオペレータはその操作を感覚的に行うことが多い.しかし昨今,熟練者が減少しつつあるため,未熟練者に対して制御手法による支援法の確立が重要な課題である.
筆者が先に提案したノッチフィルタ切替法による位置決め操作支援法は,1つのタスクに対して複数の補償器を切り替える場合に効果的であるが,切替を始めるための閾値や切替にかかる時間を試行錯誤に調整する必要があるため,設計が効率的でなく,複雑なタスクに対してノッチフィルタ切替法をそのまま適用することが困難になると思われる.設計の効率向上には,位相差の少ないノッチフィルタの設計が不可欠である.
そこで本研究では,熊谷らが提案した零位相差ノッチフィルタを本システムに適用して,マスタ側のノッチフィルタの切替を伴わない新たな位置決め操作支援法を提案する.本提案支援法により,指令値であるオペレータの操作トルクをオンライン処理で周波数整形することによって,非定型な目標値に対する応答,振動励起の抑制,およびオペレータの直感的な操作を実現する.
▲
■ 階段型及び0-A-0型の加圧方法による液体用デジタル圧力計の校正- 圧力履歴が校正結果に及ぼす影響
-
産業技術総合研究所・梶川宏明,小畠時彦
重錘形圧力天びんを標準器として用いる自動校正システムを開発し、水晶振動式の液体用精密圧力計を10
MPaから100 MPaまでの圧力範囲で校正した。階段型、0-A-0型の2つの加圧方法で、昇圧−降圧往復測定を行い、様々な圧力履歴が校正結果に与える影響を調べた。階段型の加圧方法では、往復測定間の圧力解放状態の時間が、次の往復測定の昇圧過程の結果に大きな影響を与えた。往復測定前に一定の手順で事前加圧を行うことにより、圧力解放状態の時間による影響を抑えることができた。その一方で、事前加圧とその後の往復測定の間の待ち時間が校正結果に大きな影響を与えるため、事前加圧後の時間管理が重要となる。0-A-0型の加圧方法による往復測定では、階段型の加圧方法とは異なる校正結果が得られた。特に、この方法では、校正圧力でのデータ取得後に圧力解放状態に毎回戻すため、ヒステリシス差が非常に小さくなった。また、圧力解放状態の時間や事前加圧の影響も受けにくいことが分かった。これらの結果から、液体用圧力計の校正において、再現性の良い校正結果を得るためのポイントをまとめた。
▲
■ 柔軟ゴムデバイスを用いた空気圧剛性可変フィンガのモデル予測制御
関西学院大学・永瀬純也,秋田県立大学・佐藤俊之,
岡山大学・脇元修一,関西学院大学・嵯峨宣彦,岡山大学・鈴森康一
2021年には日本の総人口における高齢者の割合が30%にまで達する見込みであり,それに伴う若手の労働力人口の減少や介護者の増加などの問題を考えると,介護・福祉現場におけるロボットの需要は今後ますます高まる傾向にある.このような背景のもとで我々が開発した,軽量柔軟な空気圧バルーンアクチュエータで駆動させる,表面剛性や摩擦係数が変化可能なフィンガについて,本研究では,力制御特性の評価を行う。
バルーンアクチュエータを含むゴム製の空気圧人工筋の場合,ゴムの非線形性やモデル変動の影響を受けるため,一般に精密な制御が困難である.そこで本研究では,空気圧剛性可変フィンガの把持力制御に,制御則が比較的シンプルでかつロバスト性の高い,Predictive
Functional Control(PFC)の適用を図った.本論文では,空気圧剛性可変フィンガのPFC制御系による力制御特性について報告するとともに,日常生活支援を目的としたロボットハンドのための力制御系としての有用性について示唆する.
▲
■ 一般化周波数変数を持つ線形システムの安定領域
東京大学・田中 英明,原 辰次,小菅 一弘,カリフォルニア大学ロサンゼルス校・岩崎徹也
本論文では,一般化周波数変数を持つ線形システムの安定性を代数的に解析する系統的一手法を提案している.具体的には,まず接続行列のすべての固有値がある複素平面上の領域(安定領域と呼ぶ)に含まれることが安定性の必要十分条件となることを示している.つぎに,一般化周波数変数により特定される安定領域は、複数の複素多項式に関する不等式条件で特徴付け可能であることを導き.それを導出する系統的アルゴリズムが存在することを示している.さらに,安定領域の複雑さが一般化周波数変数の逆数の次数・相対次数に関連していることを示している.
提案法を用いると,接続構造と安定性との関係が固有値の位置を通して直接的に理解できるところが利点である.特に,既存結果と異なり,ベクトル軌跡の回転数を数えることなく安定領域を系統的に視覚化可能である点、パラメトリックな安定条件が導出できる点が特徴であり.例題を通してその有用性を確認している.
▲
■ 動作計画と制御に3 次元情報を用いた自律油圧ショベルプロトタイプの開発
国土交通省・山元 弘,土木研究所・茂木正晴,大槻 崇,柳沢雄二,
フジタ・野末 晃,筑波大学・油田信一
土木作業では、未だ危険が少なくない。また熟練者や若年労働者の不足もあり、今後に向けてよりいっそう情報技術や自動化技術の導入による改善が求められている。本研究では、代表的な建設機械である油圧ショベルの掘削作業を対象に、設計と計測の3 次元情報を統一的に扱い、運転の自動化と遠隔操作の容易化を目標とした。本稿では、プロトタイプとして開発された自律化された油圧ショベルによる遠隔施工システムを説明し、自律的な溝掘削作業を実現した実験結果の例を示す。
▲
■ 相補感度とロバスト安定性の非干渉化
渡部慶二
本稿では,乗法的モデル誤差をもつ多入力多出力系の相補感度とロバスト安定性の非干渉化を実現する.まず,一般化安定化器を用いた制御系の相補感度を非干渉化する.入出力間の非干渉化は状態フィードバックで出来るが,オブザーバを含んだ相補感度が非干渉化されるとは限らず,まだ解が与えられていない.本稿では,この問題を,制御対象の可観測拡大モデルと一般化安定化器の一部を修正したモデルブリッジ制御系を用いて解決し,内部安定性も保証する.つぎに,これと,乗法的モデル誤差のクラスを,対角要素のゲインと位相範囲および非対角要素の最大ゲインが指定されたクラスとすることで,対角優勢システムをもとにロバスト安定性の非干渉化できることを示す.さらに計算可能な安定判別法を提案する.最後に,本法の有効性を数値例で示す.本法により,多入力多出力制御系の設計で.各入力毎に個別にモデル誤差に応じて応答を調整できる.
▲
■ 3点三相振幅変調照明と時間相関カメラによるシングルフレーム法線ベクトルイメージャ
東京大学・栗原 徹,岩下説志,国立情報学研究所・小野順貴,東京大学・安藤 繁
本論文では,照度差ステレオ法の原理を応用し,シングルフレーム取得で外乱光の影響を受けにくい法線マップ計測システムを提案する.提案システムは、正三角形の頂点に配置した三相振幅変調照明と時間相関イメージセンサにより構成される.3点三相振幅変調照明は,対象表面の向きを反射光強度の振幅および位相に符号化するのに用いられ,時間相関イメージセンサは,反射光強度の振幅位相を復調するのに用いられる.相関検出の原理から,変調光に無相関である背景光は検波されず,外乱光の影響を受けにくいと言える.また,提案システムでは強度画像と法線マップは同時に一回の撮像から取得される.提案システムの性能評価のための実験を行い結果を示す。
|