論文集抄録
〈Vol.48 No.2(2012年2月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)
〃 (会員外) 8,820円 (税込み)
タイトル一覧
[論 文]
[論 文]
▲
■ 街中での衛星測位の精度改善に関する研究
慶應義塾大学・松下 孝,田中敏幸
GPS/GNSS (Global Positioning System/Global Naviga-tion Satellite System)
は衛星を利用した3次元測位システムである.最近では,カーナビゲーションや携帯電話などナビゲーションシステムとしてのGPS/GNSSの利用が増えており,いつでもどこでも高精度な測位が可能であることが求められている.現在では,周囲に遮蔽物がない場所であれば単独測位でも数mの精度での測位が可能である.しかし,街中のような周りを建物で囲まれた場所では,測位精度が数十m〜数百mまで悪化するといった問題がある.そのため,近年利用の特に多い,携帯電話等での高精度ナビゲーションとしての十分なサービスを達成できていない.
この問題の原因には2つのことが考えられる.1つは,受信機が建物や地上からの反射波(マルチパス)を受信するために衛星と受信機の距離(擬似距離)に誤差が生じること,もう1つは,遮蔽物により観測可能な衛星数が減少した結果,衛星配置が偏ることである.GPS/GNSS測位において,測位精度を決定する要因は「擬似距離の測定精度」と「受信機と衛星との幾何学的位置関係」の2つであるため,これら2つの問題を解決することが測位精度向上のためには必須である.
マルチパス誤差は,反射した経路分の誤差が擬似距離に加わり,擬似距離の測定精度劣化の原因となる.現在では,受信機内部のNarrow-Correlator やチョークリングアンテナ等のハードウェアの利用によりマルチパス誤差の低減が行われている.しかし,これらの方法では距離に換算して30m以内のマルチパス誤差は除去できず,アンテナの大型化や高価格化に繋がる1-3).そのため,精度が大きく向上しない,歩行者が利用できないという問題がある.したがって,ハードウェアに依存しない新たな補正方法の考案が必要である.
衛星配置の偏りは,観測衛星数を増加させることで解決することが有効である.そのために,ロシアの運用するGLONASS等の測位衛星システムとGPSとの併用が必要となる.しかし,GLONASSの測距精度は未だ不完全で,座標系や時刻系においてGPSとの正確な同期が取れていないことから有効な併用方法が確立されていない.
以上から,本研究の目的を街中での測位精度改善とし,そのために,マルチパス誤差の補正方法とGLONASS併用方法の提案を行う.また,近年利用要求の高い携帯電話等を用いた歩行者での利用を考慮し,小型受信機単独でもリアルタイムで利用可能な測位方法を提案する.
▲
■ 非線形入力特性を有する双曲型分布定数系の有限次元モデル規範形適応H∞制御
統計数理研究所・宮里義彦
分布定数系は無限次元システムであるため,有限次元補償器で制御するためにはスピルオーバーの問題を考慮しなければならない.これに対して入出力空間は有限次元という問題設定で,放物型分布定数系や双曲型分布定数系に対して,有限次元補償器でモデル規範形適応制御系を構成する手法や,特にスピルオーバー項の抑制にH∞制御の規範を用いた適応H∞制御系の構成法について論じてきた.分布定数系に対する適応H∞制御系は,制御対象の有限次元部分モデルに対応する通常の有限次元補償器と,有限次元モデルに含まれない無限次元モード(スピルオーバー)の影響を抑制するフィードバック項から構成される.後者は,無限次元モードの影響を外乱と見なした仮想的なH∞制御問題の解として導出され,スピルオーバーなどの不安定要因の安定化と,外乱抑制作用による制御誤差の低減化を行う.実現された制御系においては,このスピルオーバー項と一般化出力(制御誤差と安定化信号から構成される)の間のL2ゲインが設計変数で陽に規定され,この設計変数の適切な選択により,スピルオーバーの存在する時でも制御誤差の影響を任意に小さくすることができる.これに対して本稿では,双曲型分布定数系を制御対象として,同様に入出力空間は有限次元という問題設定で,特に入力端に未知の非線形特性(不感帯やバックラッシュ)が存在する場合の,有限次元補償器による適応H∞制御系の構成法について論じる.非線形入力特性に対しては,これまでに,逆モデルを導入したりハイゲインフィードバックの適用により,その影響を補償する手法が研究されてきた.本研究では非線形入力特性の逆特性を推定する適応モデルを導入し,この適応モデルの残差項とスピルオーバー項を外乱と見なしたH∞制御問題の解として,制御系が導出される.なお本稿の問題設定においては,適応モデルを導入するだけでなく,実際の制御入力が測定できない(直接に操作できない)ために状態変数フィルタの構成にも工夫を要する点が,先に述べた分布定数系の適応H∞制御と異なる.
▲
■ マニピュレーションロボットによる環境可変構造操作のための指示・認識システム
東京大学・陳 騁, 斉藤 学, 伊藤 司, 岡田 慧, 稲葉 雅幸
本研究ではヒューマノイドロボットによる屋内マニピュレーションサービスタスクの実現を目的とし,その際に重要になる可変構造の取扱いに関して,GUIを通した簡易的な操作情報の付与システムを実現する.
▲
■ 逆システムの直列結合による仮想フィードバック誤差学習
奈良先端科学技術大学院大学・野口 慎,杉本 謙二
本論文では,従来のFELの問題点を改善するために,仮想フィードバック誤差学習(VFEL)と呼ぶ新しいFELを提案する.従来のFELでは,FEL制御系の安定性における正実性の仮定を除去した副作用によって,閉ループ系へ時変ブロックが挿入されてしまい,閉ループ系に影響を与えるという問題があった.本論文では,閉ループ系の前段に学習型フィードフォワード制御器を直列結合することにより,閉ループ系からその時変ブロックを分離させ,上記問題点を解決した.また,この構成により,従来のFEL制御系における2自由度構成の複雑さ(閉ループ系への接続点が2点必要)を解決することができた.さらに,PE条件のもとで,パラメータの収束性について解析を行った.最後に,VFELの有効性を検討するため,シミュレーションにより従来法との比較を行った.
▲
■ 変分ベイズ法に基づいた状態空間モデルのシステム同定
名古屋大学・藤本 健治,藤本 健治,東京都立産業技術高等専門学校・福永 修一
本論分では,変分ベイズ法を用いた多入出力の線形状態空間モデルに対するシステム同定法を提案する.従来法では考慮されていなかった,システムパラメータ間の相関を考慮し,かつ従来法よりも緩い仮定の元で,システム同定を行うことができる.また提案法では,事前分布と事後分布が同じ分布族となり,反復して実行できるアルゴリズムとなっており,従来法よりも効率の良い手法になっている.最後に数値例により提案法の有効性を確認する.
▲
■ 1リンク機械システムに対するロバスト有限時間整定制御
奈良先端科学技術大学院大学・的場俊亮,中村奈美,
東京理科大学・中村文一,秋場英之
非線形有限時間整定制御の一手法として,中村らは制御Lyapunov関数(CLF)を用いた局所同次状態フィードバック制御則を提案している.しかしながら,これまで実機実験による制御則の有効性は確認されていない.そこで,本論文では1リンク機械システムの制御問題に中村らの制御則を実装し,コンピュータシミュレーションおよび実機実験を行う.収束速度の異なる指数安定化制御則,有理安定化制御則との比較実験結果により,制御則の定める収束速度が実機において制御性能に大きな違いをもたらし,有限時間整定制御が特に優秀な性能をもつことを明らかにする.
▲
■ 超音波エコー動画像に基づく肉牛の脂肪交雑値推定
(独)産業技術総合研究所・福田 修,鍋岡奈津子,佐賀県畜産試験場・宮島恒晴,
長崎県農林技術開発センター・橋元大介,長崎県肉用牛改良センター・大串正明
牛肉の霜降り度合いは,脂肪交雑あるいはBMS(Beef Marbling Standard)ナンバーと呼ばれる値によって表わされる.このBMSナンバーの推定には,生きた牛から計測した超音波エコー画像を利用することが古くから試みられているが,従来手法は,撮影した超音波動画像のフレームの中から任意に選択する1枚の静止画像を用いているため,選択するタイミングによってテクスチャ情報に差異が生じてしまう問題があった.また,動画像の持つ時系列的な情報が全く活かされておらず,この点でも改善の余地が残されていた.本論文では,超音波エコー動画像から得られる動的テクスチャ情報を利用したニューラルネットワークモデリングによるBMSナンバー推定手法を検討した.構築した推定手法を検証するために,45 頭の供試牛を対象とした推定実験を行った.Leave-one-out法による推定を行った結果,静止画像から抽出される静的テクスチャ情報に,動画像から算出される動的テクスチャ情報を加えることにより,BMSナンバーの推定精度が向上することが明らかとなった.
|