論文集抄録
〈Vol.47 No.11(2011年11月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
SSI2010 特集-潤いある社会を紡ぎだすシステム・情報技術の創出特集号希望
[論 文]
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■ 追突回避自動ブレーキに対する行動変容
筑波大学・伊藤 誠,いすゞ中央研究所・藤原祐介,筑波大学・稲垣敏之
本論文は,追突回避のための自動ブレーキシステムに対するドライバの行動変容がどのようにおこりうるかを調べたものである.ここでは,3つのシステム,すなわち,追突が間際に迫ったときに強くブレーキをかける支援1,追突のリスクが高まり始めたときに緩やかにブレーキをかけ始める支援2,追突がまぬがれないときに被害を軽減するためのブレーキを強くかける支援3,を考察の対象とする.支援1,2は,追突の回避が可能であるのに対し,支援3は追突の回避を目的としたものではないことから,支援3のような追突被害軽減ブレーキはドライバによるシステムへの過度な依存が起こりにくいといわれている.定置型ドライビングシミュレータを用いて実験を行い,ドライバの運転行動の変化の様態を,車間時間(THW,潜在的な危険に関連する)と,衝突余裕時間の逆数(1/TTC,顕在化した危険に関連する)の二つの観点から調べた.その結果,いずれの支援形態でも追従中のTHWは,システムなしの場合と比べて小さな値となった.1/TTCについて,支援1では支援システムなしの場合と比べて大きな値となったが,支援2,3ではシステムの有無による統計的な差異は確認されなかった.全体としては,自動回避を行う支援1,2に対して危険なまでの過度な依存は確認されなかった.
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■ 外部刺激を考慮した遺伝子ネットワークの最適制御
北陸先端科学技術大学院大学・小林 孝一,平石 邦彦
遺伝子ネットワークのモデリング,解析,制御に関する研究は,システムバイオロジーの主要な研究課題の一つとして,盛んに研究が行われている.遺伝子ネットワークの制御では,発現量が任意に操作可能な遺伝子の存在を仮定する.しかしながら,現実の遺伝子ネットワークではこの仮定を満足することはむずかしい.現実的な問題設定の一つとして,細胞外からの刺激(外部刺激と呼ぶこととする)によって,遺伝子間の相互作用を変化させることで,制御することが考えられる.本論文では,ブーリアンネットワークでモデル化された遺伝子ネットワークに対し,外部刺激を考慮した新しい制御手法を提案する.まず,外部刺激による相互作用の変化を確率ブーリアンネットワークとしてモデル化する.つぎに,最適制御問題を定式化し,整数線形問題に帰着させる.最後に,悪性黒色腫に関係する遺伝子を含む遺伝子ネットワークのモデルに提案手法を適用し,提案手法の有効性を検証する.
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■ 熱伝導プラントに対する制御系設計モデルの一導出法
筑波大学・中村 亘,河辺 徹
一般的な熱伝導プラントは通常複数の部材で構成されるため,個々の部材の特性を考慮しながらその温度応答挙動をモデリングすると,異なるむだ時間が複数存在する複雑な差分式で表現される.従って,そのままの形では一般的な線形システムに対する制御理論を適用することは困難である.このようなシステムに対して,制御周期やサンプリング周期,状態量ごとのむだ時間の大きさを考慮し,現在の時刻ステップからむだ時間ステップ分経過後までの温度応答変化分に線形性を仮定することで,線形制御理論が適用できる制御系設計モデルを導出する手法について述べる.数値例によって,この手法により制御系を構成した際の有効性を示す.
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■ 衝突回避減速度による衝突リスクの評価
京都大学・平岡敏洋,高田翔太
前方障害物との衝突を未然に防ぐことを目的とした前方障害物衝突防止警報システムにおいて,前方障害物との衝突危険性をどのような指標に基づいて評価するかといった問題については未だ多くの議論がなされている段階である.筆者らは既報において,前方障害物との衝突回避に必要な減速度である衝突回避減速度
(DCA: Deceleration for Collision Avoidance) を提案した.その算出過程では,計算の簡単化のために,自車両は一定の反応時間まで等速度運動を行い,その後に減速を開始すると仮定していた.しかしながら,この仮定のもとでは,自車両が加速しているときには衝突回避減速度の値が必要以上に小さくなり,減速しているときには逆に過大に見積もられてしまう.そこで本稿では,反応時間までは自車両が等加速度運動を行うと仮定して指標を算出する手法を提案する.さらに,数値シミュレーションにより,従来の計算手法よりも衝突リスクを適切に評価できることを示す.
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■ 複数銘柄および複数市場に対応したU-Martシステムの開発
大阪府立大学・秋元 圭人,森 直樹,東京工業大学・小野 功,
大阪市立大学・中島 義裕,京都大学・喜多 一,大阪府立大学・松本 啓之亮
U-Martは人工市場プロジェクトのひとつで,エージェントベースドシミュレーションに基づく人工市場システムを開発している.ザラバや市場制度を導入し,価格決定機構や市場制度を組合せてより柔軟に市場が設計可能なU-Martシステムversion3.0が開発された.しかしながら,GUIやマシンエージェントが先物取引専用であるなどの,システムの柔軟性を阻害する問題点が解決されていなかった.
そこで,本論文ではこれらの問題点を解決するためU-Martシステムversion4.0を提案する.U-Martシステムversion4.0では,複数銘柄の取引を可能なように,GUI を複数銘柄取引に対応したものに,マシンエージェントに提供する情報を複数銘柄に対応したものに拡張する.さらに,ランダムエージェントを用いて先物と現物の間に相関がある場合とない場合の統計的解析や,U-Martシステムversion4.0上に現実市場を再現し,市場取引シミュレータとする実験を示す.
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■ 社会的交渉手法を用いた実仮想融合型生産スケジューリング−計画段階における組合せオークション手法の適用−
神戸大学・銭 毅,藤井信忠,貝原俊也,
上智大学・藤井 進,神戸製鋼所・梅田豊裕
本研究では,生産現場の変動要素に対し即応性と効率性を有する実仮想融合型生産システムの構築を目指しており,仮想システムのモデリング技術として,マルチエージェントシステムの概念を取り入れている.本論文では,実仮想融合型生産システム内に実装される計画段階の生産スケジューリング機能実現の方法論を提案する.その際,マルチエージェントシステムと親和性が高い社会的交渉ベースの組合せオークション手法に着目し,フレキシブルフローショップ問題を対象として計算機実験を行い提案手法の有効性を確認した.実験結果として,提案した組合せオークション手法が実際の自律分散型システムにおいて有効であることを検証し,従来の自律分散型システムに良く用いられるオークション型スケジューリング手法に比べ,提案手法により良質な解が得られることを明らかにした.
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■ センサ信頼度情報に基づく衝突警報システムの信頼感向上手法
香川大学・堤 成可,和田 隆広,
アイシン精機・秋田 時彦,香川大学・土居 俊一
複雑な交通環境下ではドライバに負荷がかかりやすく,接近車に対する衝突警報が認知負荷低減に有効と考えられる.
一方,センサ誤差などに起因する誤報,欠報などのエラーが発生することでドライバの装置への信頼度が低下し,効果が得られない場合がある.本研究ではセンサの信頼度の情報が得られる状況を想定し,信頼度情報と接近リスク指標を用いて提示内容を変えることで、精度が低いセンサを使ったシステムでも信頼感を得られる新しい警報提示手法を提案する.ドライビングシミュレータを用いて本手法の有効性を確認する.
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■ 複素シナジェティックコンピュータによるパターン認識
兵庫県立大学・松井伸之,木村允謙,礒川悌次郎
記憶想起の性能に優れたシナジェティックコンピュータ(SC)の優れた情報処理性能のさらなる性能向上と応用拡大をめざして,SCの複素数値化を行った複素シナジェティックコンピュータ(Complex-Valued
SC: CVSC)を提案し,欠落画像やノイズ付加画像のパターン認識を例にその基本性能を精査して評価し,それらの画像認識にロバスト性を有するCVSCを検討している.
▲ ■ 交通行動の居住地選択行動への影響を仮定した都市動態のマルチエージェントシミュレーション
立命館大学・谷口忠大,北陸先端科学技術大学院大学・高橋佑輔
モータリゼーションの進展と郊外化によって, 日本の地域社会の流動化と不安定化が進んでいる.こうした問題の解決に対して,
コンパクトシティという徒歩・自転車・公共交通利用が中心の街の交通のあり方が研究されている.コンパクトシティの実現を目指すにあたっては人々の自動車依存傾向の低下を目指す,土地利用施策,交通施策,行動変容施策についての一体的な施策が求められる.本研究では仮想的な都市モデルに対するマルチエージェントシミュレーションを構築し,種々の政策に対し交通行動選択変化を介した都市構造変化について検討する.具体的には自動車抑止をなす際に,自動車利用者を強制的に公共交通利用に変更させる場合と,ガソリン代を値上げする場合を比較し,ガソリン代を高くした場合の方が,社会的厚生を高く保ったまま自動車抑止を行える可能性を示した.また,その際に,都市空間のトポロジーも大きく異なる事を示す.また,自転車撤去政策に対する,副作用としての自動車利用へのモードシフトを示し,コンパクトシティ形成と自転車撤去という一見遠い関係のなかに因果関係が潜んでいる事を示す.
▲ ■ 個別化による学習分類子システムの一般化促進
電気通信大学・中田雅也,原田智広,佐藤圭二,松島裕康,高玉圭樹
本研究では個別化による学習分類子システム(IXCS)を提案し,その有効性を20-Multiplexer問題上で検証した.分類子の有効と無効を個別化により識別することで,効果的に分類子の進化を促進させる.IXCSは雑音環境下や記憶できる分類子の上限を少なくした場合でも安定した学習性能を保ち,適切に一般化された分類子を学習できることを示した.
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