論文集抄録
〈Vol.49 No.12(2010年12月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
[論 文]
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■ ディジタルフィルタ設計法を利用した拡張カルマンフィルタの誤差分散行列の選定法
奈良先端科学技術大学院大学・大澤修一,
中村文一,西谷紘一
車両の自己位置推定は移動体を利用する上で重要な技術である.自己位置推定のためのセンシングは大別してデッドレコニングとスターレコニングがあるが,おのおのの短所を補うために両者のセンサ信号を統合するセンサフュージョンが用いられている.代表的なセンサフュージョン手法として拡張カルマンフィルタが知られている. これは誤差分散行列からゲインを動的に計算するため外乱の影響後の推定が速いという特長がある.しかし,モデル化できない誤差の誤差分散行列の適切な選定が必要であり,一般に実験を繰り返すことにより得られるため実装するためのコストが大きい.EKF に代わる手法として,格子点オブザーバを用いた自己位置推定法が提案されている.GPO はディジタルフィルタ設計法が利用可能なためゲインが簡単に設計できる.この2つの方法の推定機構の比較はこれまでなされていない.そこで,本論文は,格子点間隔0 のGPO がEKF と似た形をもつことを示し,EKF をGPO とみなすことでモデル化できない誤差の誤差分散行列の選定方法を提案する.そして,従来の試行錯誤により決めた誤差分散行列と提案手法により選定した誤差分散行列を実験により比較し,有用であることを示す.
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■ 生活空間に埋め込む光神経ネットワークの開発とその応用
創価大学・近 哲也,西山道子,伊与田健敏,
ヴェストソフトウェア・松崎純一,
創価大学・渡辺一弘
本研究では,一般的な生活空間内で人間や物の状態を示すプレゼンス情報を無拘束に取得できる光神経センサモジュールを開発することで,ユビキタスの実現に向けた新たなセンサネットワークを構築した.これまで,プレゼンス情報を取得する上でイメージセンサや電気・磁気式センサが多用されてきたが,遮蔽・死角の問題や電磁ノイズの問題などの外環境による制約が多く残されている.一方で,これらの制約を受けにくい光ファイバセンサ技術が期待されているが,生活空間の構造体・物にセンサ機能を直接埋め込むことが性能的にもコスト的にも困難であった.それに対して本研究では,筆者らが開発してきたヘテロコア光ファイバセンサの構造原理を応用することで,床を構成するPタイル型,ソファーなどに用いるクッション型,ドア・窓用スイッチとしてモジュール化に成功し,生活空間にごく自然な形で埋め込むことを可能にした.これらのモジュールは,従来のセンサと異なり,センサ部にかかる重量とその時間変化を外環境に影響されずに安定して取得できる.これらのモジュールを現実的な密度で組み込んだサービスシステム上で4つのサービス実験を行い,人間や物の日常的な行動から突発的な状態を無拘束に取得し,サービス運用に活用できることを確認した.
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■ 近赤外光の吸光特性と偏光特性を用いた路面状態検出システムの開発
三菱電機・中島利郎,仲嶋 一,鷲見和彦,
神戸大学・的場 修
従来の路面状態判別は,温度情報と組み合わせて状態を推定する間接検出方式であった.これに対し本研究では,路面状態を直接検知し,非接触測定可能で安定した路面状態検出技術の開発を行った.
路面状態の直接検出にあたっては,路面変化の最大要因である路面上での水状態変化(水の有無および相変化(液体or氷)の直接検出を基本コンセプトとした.
水の状態検出にあたっては吸光特性に着目し,液体と氷で吸光特性に変化のあることを確認した.また,実環境での測定への影響要因である水の厚さおよび表面反射光の影響に対して,2波長間の吸光度比を評価指数とし,かつ偏光を利用した表面反射光分離方式の新規提案を行った.基本実験により有効性を確認し,実環境下において上記方式により水の状態変化の検知が可能であることを確認した.
路面状態の判定においては,上記に加え,路面表面の粗さを反映する光の反射特性を評価指標とし,総合的に判断する方式とした.実環境下での検証実験の結果,基本的に路面の状態判定が可能であることが実証された.
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■ 入力信号の繰返し変動を吸収するPLLシンセサイザ
小野裕幸
スピンドルモータに取り付けられたエンコーダの出力信号には,取り付け時の偏芯やエンコーダディスクの歪みに起因する繰り返し性のタイミング誤差が含まれる.そこで,エンコーダの出力信号から繰り返し性誤差を除去し,スピンドルの自然な非繰り返し性の回転数揺らぎには追従するシンセサイザを開発した.あらかじめ計測した繰り返し性誤差に基づき,PLLのループカウンタを入力パルスごとに更新する.3GHzを出力するVCOを用いた.ループカウンタのノミナル値が大きいほど細かく誤差を吸収でき,またPLLのLPFの帯域が広いほうがスピンドルへの追従性が良い.この帯域における長ビットプログラマブルカウンタを設計したことが鍵である.結果としてタイミングジッタは標準偏差で70ピコ秒を達成した.
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■ アファイン拘束を受ける非ホロノミック運動学システムに対する非線形制御論的解析
大阪大学・甲斐健也,東京大学・原 辰次
本論文では,非ホロノミックシステムの研究においてこれまでおもに扱われてきた「線形拘束」を包含する広いクラスである「アファイン拘束」を取り扱い,そのアファイン拘束を受けるような非線形運動学システムのモデリング,ならびに非線形制御理論に基づく理論的解析を行った.まず,アファイン拘束の定義・幾何学的表現・完全非ホロノミック条件などについてまとめ,つぎに「アファイン拘束を受ける非ホロノミック運動学システム(Nonholonomic
Kinematic Systems with Affine Constraints, NKSAC)」を導出した.そして,非線形制御理論に基づいてNKSACの解析を行うことにより,可到達性・可制御性・可安定性に関するいくつかの条件を得ることができた.その結果,NKSACがある条件の下でその線形近似システムが可制御となる,なめらかな状態フィードバックで安定化可能な場合が存在する,などの特徴が示せ,線形拘束に対する従来研究では知られていなかったような新しい結果を得ることができた.最後にいくつかのアファイン拘束を受ける物理例を示し,本論文で得られた結果を適用して有効性を確認した.
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■ 連続時間線形マルコフジャンプシステムに対する状態フィードバックによる予見H∞追従制御
名倉 剛
急激または突発的変動を伴うシステムに対する追従制御系において目標信号の予見情報を導入した予見追従制御系を構築することは追従性能を高めるために効果的であると考えられ,また,追従制御系に外乱抑制を考慮することも重要である.本論文では有限時間区間における連続時間線形マルコフジャンプシステムの状態フィードバックによる予見H∞追従制御問題について考察する.マルコフ性を有する確率的なモード遷移則に従う線形連続時間切替システムに対して目標信号の予見可能性に応じて3種のH∞追従制御問題を考える.それらの問題の可解性の必要十分条件を与えるRiccati微分方程式は互いにカップリングしており,それに応じて予見情報を取り入れるための補償器の構造を与えるダイナミクスもカップリングしたものとなることを証明する.最後に数値例を与え,予見補償ダイナミクスのカップリングの影響も含めて予見補償の効果を検討する.
▲ ■ 単入出力線形動的ネットワークシステムにおける一次元反応拡散構造の抽出
東京工業大学・石崎孝幸,加嶋健司,井村順一
本論文では,サブシステムが大規模ネットワークを介して相互作用する,単入出力線形動的ネットワークシステムに対するモデル低次元化法を提案する.本手法では,Householder変換を用いて,状態変数を入力からの距離にしたがって並べ替えることにより,そのネットワークシステムが本質的に有する空間的一次元の反応拡散構造を抽出している.これにより,システムの反応拡散構造を保存した低次元化が行われる.また本手法における座標変換は,特異値分解のような高い計算コストを要する演算を必要としないため,その意味で大規模なシステムにも適用可能であり,加えて,容易に計算可能な低次元化誤差の見積もりを得ることができる.
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■ 分散合意における収束性能について
名古屋大学・藤本健治,長谷川祐子
本論文では,大規模分散システムの合意問題を取り扱う.合意達成のための制御系の収束の速さは,閉ループ系の非零最小固有値を用いて評価できることが知られているが,その値は数値的にしか求めることができず,大規模なシステムの収束性能をあげるための分散制御則の設計法を求めることはこれまで難しい課題であった.本論文では,この合意形成のための分散制御系設計問題を取り扱い,従来とは異なる固有値の標本分散を指標とした解析・設計法を提案する.提案法は,繰返し構造をもつ等質グラフに対して,非常に少ない計算量で収束の速い制御系の解析・設計を可能にする.
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■ アクティブストロボイメージャの最適パラメータ決定法
大阪大学・舩井皓平,
MIZOUE PROJECT JAPAN・溝上浩司,
大阪大学・東森 充,金子 真
アクティブストロボイメージャとは自ら振動することができない生体組織に対して空気噴流による力を加えたときの挙動をLED光の点滅でもって可視化するものである.本論文ではアクティブストロボイメージャの動作パラメータとして空気噴流の周波数,LED点滅の周波数,空気噴流のデューティ比,LED点滅のデューティ比を取り上げ,「肉眼での観察のしやすさ」という切り口で最適パラメータ決定法について論じている.具体的にはフリッカリング,像の鮮明度・動きのなめらかさ,振幅の大きさを考慮して「肉眼での観察のしやすさ」を評価関数として表現し,最適化問題に帰着させている.さらに具体例としてヒト肌を対象にした評価関数を作成し,全探索法により最適パラメータを決定する.
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