論文集抄録
〈Vol.46 No.11(2010年11月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
特集 SSI2009特集−次世代のシステム知を拓くシステム・情報技術−
[論 文]
[ショート・ペーパー]
[論 文]
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■ 多点型離散化時変慣性系モデルを用いた大域的最適化
千葉大学・岡本 卓,
慶應義塾大学・相吉英太郎,浜田憲一郎
本論文では,制動係数の自律調整機構を有する慣性勾配系の最適化モデルについて,その時変制動係数を,過去の探索履歴を考慮した時変制動係数に変更した最適化モデルを提案する.この最適化モデルは,探索点が,探索履歴中の最良点に近づこうとすると,自律的に力学系が不安定化して,最良点近傍への停留を抑制し,大域的探索を持続する機能を有している.したがって,従来の速度を基準としたモデルと比較して,「探索履歴中で,すでに探索した有望領域から離れる」という多様性に対する明確な探索戦略に基づいた自律調整機構の実現が期待される.また,本論文では,これまで解析が不十分であった,慣性勾配系の離散化モデルの探索軌道の特徴を解析的に説明する.その特徴とは,慣性勾配系に対する引き込み領域内を,集中的かつ多様に探索するという点にある.そこで,この引き込み領域を目的関数値が小さい有望領域に対応させるために,探索モデルを多点化した上で,探索点間に結合構造を導入することで,探索軌道を有望領域に引きつけながら探索を行う手法を提案する.そして,複数のベンチマーク問題(100変数,多峰性関数)への適用実験を通して,提案手法の有効性を確認する.
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■ 分散協調型手法を用いた装置メンテナンススケジューリングに関する研究
神戸大学・辻部晃久,貝原俊也,藤井信忠,
日立製作所・野中洋一
本研究では, 生産スケジューリングの分野で注目されている分散協調型スケジューリング手法の1つであるラグランジュ分解・調整法を提案し,メンテナンスを有する代替装置を含んだフレキシブルフローショップへの適用を試みる.この手法は,大規模なスケジューリング問題を部分問題に分割し,協調を行いながら高速に実行可能解を導出する手法である.またメンテナンスを実施制約付きジョブと見なすことで,ジョブとメンテナンスを同時に計画し,システム全体としての総納期遅れに関する最適化を行う.そして,計算機実験によりその有効性を検証する.
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■ 整数計画法を用いた確率ブーリアンネットワークの最適制御
北陸先端科学技術大学院大学・小林孝一,平石邦彦
遺伝子ネットワークや代謝ネットワークに代表される生体ネットワークのモデリング,解析,制御に関する研究は,システムバイオロジーの主要な研究課題の1つとして,盛んに研究が行われている.本論文では,生体ネットワークの代表的なモデルであり,かつ大規模システムをモデリングすることが可能な確率ブーリアンネットワークに対する制御方法を考える.既存の制御方法では,状態数
n に対し,2n 個のノードをもつ状態遷移図(離散時間マルコフ連鎖)を計算する必要があり,大規模システムへの適用が困難である.本論文では,状態遷移図を計算せず,最適制御問題を整数線形計画問題に帰着させる方法を提案する.提案手法を用いることで,状態遷移図の計算が困難な大規模システムに対しても,短い制御時間であれば制御入力の計算が可能となり,確率ブーリアンネットワークの適用範囲がさらに広がることが期待できる.
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■ 群知能シミュレーションにおける異方性の創発とその解析評価
北海道大学・巻口誉宗,井上純一
これまでBoidに代表される鳥や魚の群れを再現するためのアルゴリズム,シミュレーションは,制御工学やアミューズメント分野で注目され,発展を遂げてきた.しかしこうした群知能シミュレーションで再現される群れ行動と,実世界の鳥などの群れ行動とを実証的に比較することはこれまでほとんどされてこなかった.その背景には,実世界の大規模な群れの実測データを得ることの困難さがあった.しかし2008年にイタリアの研究グループにより,ムクドリの群れの実測データが得られ,その統計的解析から群れ行動には近傍個体の角度分布に対して「異方性」という現象が創発されることが実証的に明らかとなった.この異方性創発の有無は「γ値」と呼ばれる客観的な指標で定量的に評価することができる.われわれはこの異方性の創発に注目し,この現象がBoidを基本とした群知能シミュレーションでも観察され,さらにその指標であるγ値が,計算機上にシミュレートされた群れ行動の妥当
性の評価に利用できることを計算機実験により示した.これによりこれまで困難であった群知能シミュレーションの客観的な評価が可能になり,より現実感のある群れアルゴリズム,ボトムアップ的な群知能シミュレーションの作成が期待できる.
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■ 日本語非定型文入力のキーストロークデータに基づく個人識別ハイブリッドモデル
国立明石工業高等専門学校・佐村敏治,
兵庫県立大学・西村治彦
本研究では,非定型な長文入力時のキーストロークデータから個人識別を行う手法について検討した.具体的には,ローマ字入力でのアルファベット1文字および連続する2文字に関する全14種類の特徴量を提案し,その中で識別の向上に寄与する8種類の特徴量を確認し,それらによる評価指標を構成した.識別方法としては,われわれが提案してきたWED法にGunettiらが提案するVector
Disorder(VD)法を融合したハイブリッドモデルを導入し,実証実験により識別率が向上することを確認した.被験者数189名という大規模な実験を行うことで,識別率をタイピング・レベルに関するグループ間で対比するという,これまでにない検討結果を示すことができた.1分間に140文字以上入力できる被験者に対しては99%を超える個人識別が可能であることが判明した.また,プロファイルの選択によるばらつきが小さいこともわかった.
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■ Particle Swarm Optimizationによるリカレントスパイキングニューラルネットワークの学習法
京都工芸繊維大学・山本昌弘,黒江康明,飯間 等
スパイキングニューラルネットワーク(SNN)は,スパイク列の発生時刻あるいは時間間隔により情報を処理する点で生体に近いニューラルネットワークである.ところがSNNは不連続性をもち,連続システムと離散事象システムが混在したハイブリッドシステムとなっているため,設計・解析が非常に困難であり,学習法の研究もあまり多くない.SNNの学習法として勾配法に基づく学習法が提案されている.勾配法は初期値を適切に選択しなければ局所解に陥り,大域的最適解が得られないことがある.また,この方法は発生するスパイク列の発生時刻を望みの時刻に一致させる問題として学習問題を定式化しているが,SNNにおいてはスパイク列の発生時刻そのものよりその発生頻度が問題となることがある.
本論文ではリカレントSNNを対象とし,Particle Swarm Optimization(PSO)を用いた,大域的最適解を得るため
の学習法を提案する.PSOは目的関数の微分可能性を必要とせず,さまざまな目的関数を扱うことができる.そこでさらに,スパイク列の発生頻度などを扱える学習問題を設定し,PSOに基づく学習法を提案する.提案法により,大域的最適解を得ることができ,SNNの現実の種々の問題を扱うことが可能となるので,SNNの応用が広がるものと期待される.
▲ ■ 夜間時視覚支援システムに対するリスク補償行動の分析
京都大学・平岡敏洋,増井惇也,西川聖明
前方障害物衝突防止警報や夜間時視覚支援システムといった運転支援システムは,運転者の認知や判断を支援する情報を提供することで,運転負荷を軽減し,安全性を高めることを目的としている.その一方で,支援システムによって安全性が向上し,運転者が知覚するリスク量が低下すると,走行時の車速を上げるなどのリスク補償行動が発現し,結果として安全性が変わらないことを危惧するリスクホメオスタシス理論が提唱されている.本研究ではドライビングシミュレータ実験を行い,運転支援システムに対する依存やリスク補償行動の発現といった負の側面に関して考察を行う.さらに,燃料消費量計を提示することによる自発的な運転行動の変化が,副次的にリスク補償行動へ与える影響について検証する.
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■ 自律DNA分子計算−in vitro インテリジェンスの構築
東京工業大学・小宮 健,
立命館アジア太平洋大学・ジョン A. ローズ,
東京工業大学・山村雅幸
DNAはワトソン・クリック塩基対ルールにしたがって結合し,二重らせん構造をとる.これは,塩基配列情報で結合関係を規定し,原子のレベルで配置を定めた構造体が設計・作成できることを意味する.さらに,逐次的な結合を考慮すれば構造体の動作まで設計・制御できる.それはすなわち,構造と情報が一体となったDNAという分子を用いて情報を処理できるということである.DNAで情報を処理するこころみは,高密度な記録媒体としてDNAを利用するDNA計算に端を発し,近年,自律計算する反応システムが研究されている.本論文では,DNAの特性を活用して溶液中に知能(in
vitro インテリジェンス)を実装する,自律DNA分子計算について報告する.
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■ 真正粘菌変形体から着想を得た自律分散制御方策の実験的検証
東北大学・梅舘拓也,武田光一,
北海道大学/JST CREST・中垣俊之,
広島大学/JST CREST・小林 亮,
東北大学/JST CREST・石黒章夫
本研究の目的は,自律分散制御の設計論を論じる上での要である「制御系と機構系の連関様式」の設計論を抽出することである.そこで著者らは,もっとも原初的であり純粋な自律分散系である真正粘菌変形体に注目し,柔らかい身体をもつアメーバ様ロボットを開発した.そのロボットは,質量保存則を満たす原形質を内部に有し,能動性と受動性を兼ね備えた可変弾性要素により外皮を構成する.そして,可変弾性要素の受動性により抽出可能な齟齬関数 (discrepancy function) に基づく局所センサフィードバックの設計論を提案した.また,その妥当性を検証するために,実機を用いたロコモーション実験を行った.実験結果から,本アメーバ様ロボットは齟齬関数に基づく局所センサフィードバックと原形質量保存則による力学的長距離相関を活用して,しなやかなロコモーションを生成することが確認された.
▲ ■ 周期発現パターンをもつ遺伝子ネットワークの学習による設計法
京都工芸繊維大学・森 禎弘,黒江康明
近年,所望の動作をする遺伝子ネットワークの実現に興味がもたれ,さまざまな観点から研究が行われている.その中で所望の発現パターン遷移列をもたせる設計問題が注目されており,筆者らもこの問題に対して汎用性のある設計法を提案している.一方,生体には概日リズムなどの周期現象が存在し,周期動作をする遺伝子ネットワークの実現に興味がもたれる.本論文の目的は,所望の周期発現パターン遷移列をもつ遺伝子ネットワークの設計法を提案することである.この問題に筆者らが先に提案した方法を適用することもできるが,実現された発現パターン遷移列は周期的となるが対応するネットワークの解軌道が周期的とはならず振動が持続しないという問題が生じることがある.本論文では,この問題を解決するために,発現パターン遷移列を所望の周期パターンとするとともに対応する解軌道を周期的とする方法を提案する.提案する方法は,このことを実現するためにパターン遷移時に
おける解軌道の通過点を指定して設計する方法で,パターン遷移時点で定義される離散時間ネットワークの学習により効率よく設計する方法となっている.数値実験により,提案法により所望の周期発現パターン遷移列をもち,解軌道が持続的に振動する遺伝子ネットワークが実現できることを示す.
▲ ■ 最小二乗法に基づくタンパク質ネットワークの推定とロバストネス解析
宇都宮大学・東 剛人,
慶應義塾大学・高橋知子,足立修一
本論文では,タンパク質ネットワークの推定法として最小二乗法に基づく一解法を提案し,推定されたタンパク質ネットワークのロバストネスを解析する.本解法を用いることで,既存のタンパク質ネットワークが推定可能であることおよび未知ネットワーク構造の存在を示唆することが可能となる.また,推定されたタンパク質ネットワークを非線形微分方程式で表現することによって感度解析手法が適用可能となり,新たに推定されたネットワーク構造の性質をロバストネスを指標として評価する.さらに,数値シミュレーションにおいて,新たに推定されたネットワーク構造がロバストネスにどのような影響を与えているかを確認し,感度解析手法に基づく理論的な結果と同様な結果であるかを検証する.数値例では,6個のタンパク質群で構成される酵母の細胞周期に対して提案解法を適用しその有効性を検証し,新たに推定されたネットワーク結合が細胞周期のロバストネスを低下させることを示している.
[ショート・ペーパー]
▲ ■ 生体分子を用いたソフトウェア・ハードウェア一体型計算システムの暗号化処理への応用
情報通信研究機構・平林美樹,小嶋寛明,大岩和弘
DNA 分子を用いたソフトウェア・ハードウェア一体型の計算システムでは,計算過程に真性乱数発生の物理過程としてDNA
の自己組織化プロセスを組み込むことが可能であるため,乱数の精度が信頼性を左右する情報の暗号化処理のような分野で,従来法にはない高機能な情報処理システムを実現できると考えられる.ここでは実用化を視野に,DNA
配列上で暗号化処理を行うと共に実行結果をバイナリーデータとして直接読みとることができるソフトウェア・ハードウェア一体型の新しいシステムの設計手法にタイルシークエンシングを導入することで実用化に向けた有効なシステムが構築できることを報告する.数学的なアルゴリズムでは擬似乱数しか生成できないことから,真性乱数を必要とする情報処理の分野への分子計算技術の導入は,新たなパラダイムシフトをもたらすものと期待される.
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