論文集抄録
〈Vol.46 No.7(2010年7月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
[ショート・ペーパー]
[論 文]
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■ スペクトル拡散超音波による距離計測のためのリアルタイム相関演算
創価大学・鈴木彰真,伊与田健敏,
パナソニックセミコンダクターシステムテクノ株式会社・宇佐見信也,
創価大学・渡辺一弘
本論文はスペクトル拡散超音波(SS)を用いた屋内測位システムの実時間処理について述べている.
SS信号による測位システムは,信号の同期捕捉処理においてレプリカ信号と受信信号との相関値が必要である.また,実時間で動作する相関演算器は,人やロボットを対象とした実用的な測位システムを作る上で必要不可欠である.ここで,実時間演算とは筆者らのシステムにおける16000のデータを6マイクロ秒,つまり超音波のサンプリング周期内に演算することを意味する.このような制約下においては,FPGAを用いた専用のハードウェアを用いたとしても,新しいアルゴリズムなしには実現が困難であった.そこで,本論文では実時間相関演算のための部分相関記憶法を提案し,そのハードウェアを開発した.本論文では,提案手法によるハードウェアを用いて測距実験を行い,事後処理による相関演算結果と演算結果を比較した.その結果,部分相関記憶法による相関値は既存の演算結果とほぼ同値になった.また,本測距実験ではサンプリング周期あたり5.76[us]での相関演算を達成した.
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■ 積分型最適サーボに基づくI-PD制御器の設計
防衛大学校・近藤弘幸,越智徳昌
本論文では,1入出力系に対するI-PD制御器の設計手法を示す.この手法は,2つの段階からなり,まず,与えられた高次の制御対象をν-Gapをモデル化誤差の指標として2次系に低次元化し,つぎに,この2次系に対して最適レギュレータの一種である積分型最適サーボを設計する.本手法は,定量的なν-Gapを指標として制御対象を低次元化すること,および得られた最適制御則がそのままI-PD制御則となることから,従来の手法に比べて設計手順が簡単である.低次元モデル化に伴う誤差のため,積分型最適サーボとしての完全な閉ループ特性や制御性能は保証されないが,ν-Gapが十分小さい低次元モデルが得られれば,それらの特性はかなり保たれると期待できる.さらに,得られた制御則は,制御対象や制御目的に応じて,1自由度のPID制御器やPI-D制御器に変換することができる.提案する設計手法の有効性と有用性を明示するために,設計例とシミュレーション結果を示す.
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■ SOSに基づくアクロボットのゲインスケジューリング制御−姿勢制御実験による検証−
明治大学・市原裕之,舞鶴工業高等専門学校・川田昌克
アクロボットとは2リンクの劣駆動マニュピレータの一種である.アクロボットはその構造上,駆動リンクが水平位置にある姿勢が限界の姿勢である.この限界姿勢の近傍では,非線形性の影響を強く受ける.本論文では,適用事例が少ない二乗和(SOS)に基づくゲインスケジューリング(GS)制御を,アクロボットの姿勢制御に適用し,真上の姿勢から限界姿勢近傍までの安定性や制御性能を保証することを検討する.
GS制御系設計では,まず,アクロボットのあるLPVモデルに基づいてH∞制御仕様と極配置仕様を与える.このとき,設計条件は高次の多項式型パラメータ依存LMI(PDLMI)として定式化される.つぎに,PDLMIを行列値のSOS多項式で緩和し,SOS問題を導く.その際,最終的に解くべき半正定値計画問題(SDP)の変数の数が非常に大きく,計算量が多くなる.そこで,本論文ではいくつかの方策を施すことで,SDPの変数の数が少なくなるようにSOS問題を定式化する.提案するSOSに基づく手法の有効性は,方策の効果を定量的に評価するとともに,有限個のLMIに帰着する従来法との比較により行う.また,実機実験により速やかな目標値追従が実現できることを示す.
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■ 予測時刻間の衝突回避を考慮した複数移動体のモデル予測編隊制御
京都大学・根 和幸,福島宏明,松野文俊
本論文は,モデル予測制御に基づいて複数移動体の編隊制御を行う新たな手法を提案する.モデル予測制御に基づく従来の編隊制御手法では離散的な予測時刻間でしか衝突回避を考慮していないため,得られた軌道は予測時刻間で他の移動体と衝突してしまう可能性がある.これに対して,提案手法では予測時刻間でも移動体同士の衝突回避を保証し,なおかつ目標の編隊形状を達成することを目的とする.この目的を達成するために,最適制御問題において0-1変数で表現された衝突回避制約に対して,0-1変数の時間変化に制約を加えることにより,予測時刻間で衝突が起こりやすい軌道を排除する.また,モデル予測制御を用いる上で重要となる最適制御問題の可解性と閉ループ系の安定性や実機実装上で重要となる問題についても議論を行う.さらに,提案手法の有効性を数値例と実験により検証する.
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■ ヒトの視覚運動系における位置誤差補正運動と予測運動の混在と分離
東北学院大学・林 叔克,田村友里恵,
東北大学・佐瀬一弥,菅原 研,
東北工業大学・沢田康次
ヒトや動物にとって生存にかかわる重要な機能である視覚−運動系のひとつの特性として、動的な環境よりも自己運動が先行する「先行制御」がある.
本研究はこの先行制御の発現機構を解明するために,断続的に視覚情報を提示し,位置誤差補正機能を抑制する追従実験を行った.その結果を分析し以下の結論を得た.
予測機能には時間刻みの認識が必要で,環境から取得するリズムがそれに充てられる.視覚情報の遮断領域において,脳内のリズム周期の短縮により自己運動の加速が起こり,トレーサがターゲットの運動よりも先行する.運動体の視覚情報の遮断領域における先行は,断続的に提示される環境情報によってリセットされるが,予測運動が支配的で補正運動が抑制される場合,追従体は目標運動体に平均的に先行する.
外部の情報を間断なく正確にフォローすることは,必ず遅れが生じる.逆に,外部の情報を遮断して脳内部での予測運動のみを長時間走らせると,外部と違いが大きくなり危険である.
そこで,外部からの情報を時折取得して予測を補正し,それ以外は予測機能で作動すれば,外部にリアルタイムで対応,もしくは外部に先行できる.そのための最適補正点は外部変化と内部変化の変化速度が一致した点で,その絶対値を合わせることである.
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■ 組織弾性特性を利用した筋・脂肪の自動判別
佐賀大学・井上雅洋,
産業技術総合研究所・福田 修,椿井正義,
九州大学・村木里志,
佐賀大学・奥村 浩,新井康平
客観的,科学的根拠に基づく健康管理を考える際に「体組成」は最も基本的な評価指標の1つと言える.本研究では,身体部位ごとの皮下脂肪や筋厚を手軽にかつ精確に計測できるデバイスの開発を目指して,1次元の超音波エコー計測システムの開発,および組織境界の自動判別に取り組んだ.1次元のエコー装置は,小型・軽量・低コストが期待できるものの,エコー信号から得られる情報が乏しいため,その判読は必ずしも容易ではないことが予想される.知識や経験の乏しい使用者が組織判別を実施するのにはその点の改善が期待される.そこで本論文では,超音波プローブを体表に押し当てながらエコー信号を繰り返し記録し,その信号から組織の変形量を計算する.そして,この弾性情報を利用して,組織境界を自動判別する方法を新たに提案する.提案手法は,特徴抽出処理と判別処理から構成され,特徴抽出ではエコー信号から境界候補点の「深さ」,および,「ひずみ」情報を計算する.判別処理では,ニューラルネットを利用して特徴パターンからの境界判別を実施する.提案手法の可能性を確認するため,シミュレーションデータ,および男女21名の実測データを対象に判別精度を評価し,提案手法の有効性を確認した.
▲ ■ ニューラルネットを利用した肉牛の脂肪交雑値推定
産業技術総合研究所・福田 修,鍋岡奈津子,
長崎県農林技術開発センター・橋元大介,大串正明
牛肉の品質を決定付けるのは,BMS(Beef marbling standard)ナンバーと呼ばれるいわゆる霜降りの度合を示すインデックスである.このBMSナンバーの推定には,生きた牛から計測した超音波エコー画像を利用することが古くから試みられている.しかしながら,エコー画像の計測や判読には,ある程度の専門知識や経験が必要であり,技術を広く一般にまで普及することはこれまで難しかった.そこで客観的かつ精度の高い判定法の確立,さらにはその自動化が求められている.本論文では,肥育牛の生体における肉質評価を目的とし,ニューラルネットワークを利用した超音波エコー画像からのBMSナンバー推定手法を検討する.提案手法は,テクスチャ解析処理,主成分分析処理,およびニューラルネットワークによるBMSナンバーの推定処理の3段階から構成されており,ニューラルネットワークによる,柔軟なモデリングが期待できる.構築した推定手法を検証するために,27頭の供試牛を対象とした推定実験を行った.検証では,モデルの汎化性を考慮に入れ,Cross
validation法の1つであるLeave-one-out 法による評価を行った.検証の結果,推定値と実測値の相関係数は,r=0.88(P<0.01)と非常に高い値が得られた.
[ショート・ペーパー]
▲ ■ 初期角運動量をもつ2剛体宇宙ロボットに対する3次元姿勢モデル予測制御とロバスト性の検証
九州大学・甲斐健也,京都大学・近藤克則
本論文では,初期角運動量をもつ2剛体宇宙ロボット(ユニバーサルジョイントモデル)の3次元姿勢制御問題に対して,モデル予測制御を用いたアプローチを考える.筆者らが過去に提案したフィードフォワード型の準最適制御アルゴリズムでは,オフラインでの計算量が膨大となり,さらにシステムのモデル化誤差に対してロバストではないという欠点を持っていた.しかし,フィードバック型であるモデル予測制御とC/GMRES法を用いることにより,ユニバーサルジョイントモデルの3次元姿勢制御が行われ,計算量の大幅な低減が達成されることがシミュレーションによって確認できた.さらに,測定が難しい初期角運動量にモデル化誤差が存在する場合でも姿勢制御が達成され,ロバスト性の存在が確認できた.
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