論文集抄録
〈Vol.46 No.3(2010年3月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
[論 文]
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■ 周波数依存LMIを用いた次数固定H∞制御器の数値最適化
広島大学・佐伯正美,Unggul Wasiwitono
本論文では,標準H∞制御問題を満たす固定次数の動的制御器を探索する数値解法を提案する.この方法では,制御対象の状態方程式は必ずしも必要でなく,周波数応答があれば適用できる点に特徴がある.この方法は,安定化制御器を初期値として,H∞評価関数値が単調非増加となる制御器の列を与える.動的出力フィードバック問題を静的出力フィードバック問題に帰着し,周波数依存の線形行列不等式を導出し,その解を用いて降下方向を計算している.筆者らは,すでに,H∞評価関数を動的制御器のCとD行列に関して部分的に最小化する方法を提案しており,本論文ではこれをすべての係数に関する解の探索法に拡張している.それを実現するために,すべての係数に関する周波数依存の双線形行列不等式を導出し,閉ループ系の安定性が保証される条件を示した.数値実験では,平衡化打ち切り法によるモデルの低次元化と提案法を組み合わせることで,効果的に低次元制御器が得られる場合があることが示された.ただし,制御器が高次では,計算負荷が大きくなるなどの傾向が見られ,部分最適化法のほうが良い解を与える場合もある.
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■ 放物形境界制御系の安定化における観測器の最小数について
神戸大学・南部隆夫
線形放物形境界制御系に対する安定化問題には30年以上の歴史があり,動的補償器を組み込んだ制御機構のもとでは,この問題はかなり研究されてきている.係数の楕円型作用素の分数ベキを利用する方法は第2,3種境界をもつ系に対して有効であった.この方法の重大な欠点は,しかしながら,(1)
分数ベキの定義域の正確な把握が一般には困難であること,(2) 標準的な第1種境界をもつ系に対しては,系の適切性を証明する際に破綻を起こすことである(分数ベキの定義域の正確な記述は可能であるにも拘わらず).他方,新たに提案された代数的方法は,複雑な境界をも許容し,対応するRiesz基底の存在も保証されないきわめて広範な放物系に対して安定化制御系の設計が可能であるという点で,はるかに優れている.放物系に対する安定化問題は成熟期にはあるが,本文では新しい問題:「安定化に必要なセンサーの数の最小値を求めること」を提起する.システムの構造によっては,固有値の代数的多重度が2以上であっても,1個のセンサーにより安定化が達成されることを示す.
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■ 反復実験の不要な射影型連続時間システム同定
京都大学・丸田一郎,杉江俊治
本稿では,反復実験を必要としない新しい射影型の連続時間システム同定法を提案する.提案法は,対象システムの構造に基づいた信号の基底の構築と,その基底が張る部分空間への計測信号の射影に基づいており,従来の射影型連続時間システム同定法で必要とされていた実験の反復を,基底の更新で置き換えている.このため,実応用において問題となる反復実験を必要とせず,一方で計測雑音に強いという従来法の利点も受け継いでいる.また,提案法ではモデルの構造に基づいたパラメータ推定が可能である.連続時間システム同定においては,モデルの構造やパラメータが直接的に対象システムの構造や物理定数と関連するために,提案法のこの特長はとくに有用である.さらに,産業界おいて強いニーズがある閉ループ系に含まれるシステムの同定問題を,一種のモデル構造として扱うことが可能であり,この点も提案法の特長となっている.
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■ むだ時間を有する2自由度IMCにおける動的量子化器の構成
熊本大学・岡島 寛,梅本達也,松永信智,川路茂保
入力むだ時間を含む対象の制御において,内部モデル制御やスミス法など,制御器内に制御対象のモデルを含む制御系での制御が有効であると知られている.これらの制御系を実現するためには,むだ時間分のデータを保持するためのメモリを制御器内に確保する必要があり,廉価なマイコンのようにメモリ容量が大きくない場合やむだ時間が長い場合には量子化によりデータ量を減らさなければならず,量子化に起因する性能の劣化を考慮して量子化器を設計する必要がある.
本論文では,出力に現れる性能劣化を抑制するため,むだ時間実現のための動的量子化器の構成法について考える.まず,入力むだ時間を含むシステムに対する最適動的量子化器の設計法を提案する.さらに,提案した設計手法を,IMCを拡張した2自由度IMCに適用する.提案した動的量子化器と静的量子化器との性能差を解析的に導出しその優位性を特徴付けている点,動的量子化器の制御器中での配置自由度を考え,その配置に起因する性能の解析を行っている点にも本論文の特徴がある.
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■ バッチ重合プロセスのモデルベースB2B制御
山武・小河守正
容積が数リットルの反応装置を使った試作実験などにより製造処方が確立された高機能性ポリマーを,スケールアップした数m3の反応器で変種変量生産するバッチ重合プロセスを制御対象とする.新製品のため品質規格が厳しく,初回のバッチ運転からただちに,品質を規定する反応温度を精密に制御することが求められた.このため,プロセスモデルをベースにしたB2B (Batch to Batch) 制御システムを開発し実用化した.
これは,実用性と一般性を重視し,厳密な重合プロセスモデルを核にした,PID制御とB2B制御による反応温度精密制御システムである.本論文では,その理論的枠組みと実現技法について述べる.まず,厳密な重合プロセスモデルと,それを逐次線形化したプロセス動特性モデルを与え,バッチ時間の経過とともに,それが不安定から安定システムに移行していくことを示した.つぎに,I-PDコントローラとそれに2重積分動作を付加したII2-PDコントローラの,プロセス動特性モデルに基づくPID,PII2D設定則を与えた.あわせて代表品種の制御実績を紹介する.最後に,バッチ運転実績データを用いて重合プロセスモデルを適応させるB2B制御の方法を,事例と共に説明した.
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■ 状態フィードバックによるH∞制御の極限特性についての検討
金沢工業大学・鈴木亮一,谷 正史
CKD・池本元紀,金沢工業大学・小林伸明
LQ制御は外乱抑制が直接の狙いではないため,Riccati方程式に外乱の加わる項がなく,可制御性や可観測性などの条件だけで安定とする解の存在を保証することができる.一方,H∞制御は外乱の抑制を目的とするため,Riccati方程式に外乱がシステムに加わるようすを示す外乱項の係数が陽に表われる.このため、システムを安定とする解の存在についてはRiccati方程式からただちには判別しにくい.この点でH∞制御とLQ制御とは大きく異なる.
本論文では特に外乱抑制の評価パラメータであるγ>0をできる限り小さくしても,閉ループ系を安定とする解が存在するためにはいかなる条件が成立すればよいか,また,そのときフィードバックゲインを調整する係数εをどのように選定すればよいかを検討する.特にLQ制御の極限特性から上述の点を検討するとともに,LQ制御の極限から導出される近似非干渉特性,外乱除去特性との類似点,相違点を明らかにし,これらの結果を数値例により確認する.
▲ ■ 強化学習を用いたスポーツロボットの大車輪運動の獲得とその行動形態の考察
横浜国立大学・坂井直樹,東京大学・川辺直人
EPFL・原 正之,横浜国立大学・豊田 希,藪田哲郎
過去の研究はロボットの動作を準静的に拘束し,状態遷移が決定論的に行わせることによってマルコフ決定過程の性質が満たされる静的なタスク(マルコフ性)であった.そこで,本論文では状態遷移が環境とロボットとの相互作用の不確定性の影響のために確率的になり,マルコフ決定過程の性質が満たされない動的なタスク(非マルコフ性)の行動獲得へと議論を発展させるため,ロボットの大車輪運動に着目した.本論文では内部モデルなどのロボットに関する情報を一切用いず,強化学習をシンプルに適用して環境との相互作用のみで人間に似た関節配置と可動範囲を持つ5自由度の実機ロボットをベースとしたシミュレータを用いて強化学習を行い,獲得した行動形態を実機にフィードバックして学習の有効性について検討を行っている.
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